63日目 幕間
63日目 幕間
アールは朝ご飯をつくり、伊勢と一緒に食べてから適当に掃除をすると、買い物に出る。いつものバザールだ。
「相棒、買い物行ってきますヨ。何か欲しいものはありますか?」
相棒は木の欠片を持って、じっと何か考えている。不思議な人だ。
「あー、思いつかないからいい。気をつけてな」
「はい行ってきます」
てくてくと歩いていく。
てくてくてく。
「こんにちは」「ああ、こんにちは」
挨拶を交わす人も随分増えた。
魔境の宿泊所でちょっとした誤解を解決してからは、ハンターの人などは、遠くから飛んできて挨拶してくれる。
「こんにちは、ナスと玉ねぎとトマト下さい」
「こんにちは、大豆とヒヨコ豆を二ポルずつ下さい」
「こんにちは、小麦粉を十ポル下さい…先週より3割も高いじゃないですか…はい、ばれるに決まってますヨ」
大体、いつもと同じ店で、いつもと同じように買い物をしていく。
もう値段交渉もバッチリだ。もう、その辺は相棒より上手いと思う。
しっかり者の奥さん、で通っている。アールはバイクで、伊勢の相棒なので奥さんではないが、説明が難しいので訂正はしていない。
バザール付近は治安があまり良くないが、付近の男の人たちと話し合いをして誤解を解いてからは、とても気持ちよく買い物が出来ている。商店主たちも喜んでくれた。男たちもバザール周辺の掃除をしながら挨拶をしてくれたりする。
相棒はレーズンが好きなので,、ドライフルーツ屋で買っていく事にする。相棒曰く、この世界のレーズンは美味しいらしい。アールは地球のレーズンの味を知らないので何とも言えないが、相棒が言うのだからそうなのだろう。
彼は頭を使いながら、何かをつまむのが好き見たいだ。レーズンは持ってこいのようだ。
ついでにアンズも買う。アールはレーズンよりも、こちらの方がおいしいと思う。
「ただいまー」
「ああ、お帰りアール」
相棒はメモ帳になにやら細かく字を書きながら、タバコを吸っている。
「はい、どうぞ相棒」
レーズンを置いてやった。タバコよりは体に良い。
彼は色々とモノを考えたり、実験するのが好きなんだろう。作業している彼は嬉しそうだ。
絵を描く事にする。相棒が獣人と遊んでいる絵を描く事にする。
先日のキルマウス邸の宴のあとから、獣人が家に遊びに来るようになった。実は御近所さんなのだ。おこると怖いらしいが、アールから見れば可愛い子たちだと思う。
片手でスケッチブックを持ち、鉛筆で線を描く。シュッシュシュ…
絵は好きだ。
たくさん残しておきたい。
相棒が、サイドバッグの中に絵具とスケッチブックを入れてきてくれて、本当に良かったと思う。
無限に紙と絵具が使えるだけで、陽子さんチートのサイドバッグは100万ディルの価値があるとアールは思う。
お昼過ぎなので、
「アール、昼飯にしようよ」
相棒が呼びに来た。絵を描いていたので、時間に気付かなかったらしい。これも良くある事。
簡単な軽食だ。焼いたパンに鶏肉を崩したものと、玉ねぎスライスと、トマトを挟んで、酢とオリーブオイルと塩コショウしただけ。二人で台所に立って、ちゃちゃっと簡単に作れる。こういうシンプルなのはとても良い料理だと思う。アールは好きだ。
食後にアールは紅茶を飲む。相棒はコーヒーだ。二人とも薄めが好きだ。
相棒は一本タバコを吸う。アールも一本貰って吸った事があるが、あまりおいしくは無いと思う。でも、匂いはそれほど嫌いではない。
食後に相棒は親父のところに行く、と言って出かけていった。
「行ってらっしゃい。ボクもアファーリーンさんの所に後で行くから、帰ってきても居ないかもしれませんよ?」
「ん、わかった。行ってきます」
「はい行ってらっしゃい」
食器の片付けをして、もう一度絵の前に座る。アールはまた集中して、筆をとり始めた。
シュッシュ…
ひと筆ごとに、絵が変わっていくこの感触が、アールは好きだ。
自分の見た風景の感想を、絵にかきこめるような気がするのも好きだ。
シュッシュ…
「イセ君、いるかね?」
アールは立ちあがって玄関を開けて出迎えた。
顔を見なくてもわかる。レイラーさんだ。最近は一日おきに来る。
来て、相棒と何やら会話したかと思うと、急いで帰っていく。
良くわからない人だ、とおもう。
「こんにちは。相棒はいないですヨ?」
「おやいないのかね…それは残念だ」
「まあ、水を一杯飲んでいってください」
アールは陶器の椀に水を汲んで出した。
「ああ、アール君。ありがとう」
レイラーは藤を編んだソファーに座って溜息を吐いた。随分と急いでいたのだろう。
変わった人だけど、まっすぐで、頭がよくて、アールは自分がこの人を好きだと思う。
「時に、聞くがね。アール君はイセ君のなんなのかね?妻なのかね?」
ほら、質問を逃げない。「聞いていいか?」などと聞いてこないのが、アールは素敵だと思う。
「妻ではありませんヨ。相棒です」
「相棒とは何なのかね?」
アールは考えた。考えても良くわからなかった。
「相棒とは、ボクと伊勢修一郎の関係です。伊勢修一郎とボクの関係です。それで全部です」
良くわからなかったから。思ったように話した。
「良くわかった」
わかったらしい。さすがに頭の良い人は違うと思う。
レイラーを送り出し、アミルさんの家に行く。妻のアファーリーンさんに料理を習っているのだ。長女のアフシャーネフさんも、アールと一緒に料理を習っている。
一応、最低限の調味料があるから日本食は作れるのだけれど、素材がそろわない。
やはり、その土地で採れたモノは、その土地の料理が一番合うんじゃないかとアールは思う。
二人と料理をするのは、楽しい。何かを作ったり、体験するというのはとても素晴らしい事だ。知識はあるが、体験は63日分しか無いアールは、そう思う。
今日は鶏のヨーグルトソース煮を習い、バターナンを一緒に焼いた。器に盛って帰って、今日の夕食だ。
家に帰ると、飯盒でご飯を炊く。
パンとか、スパゲッティがあっても、朝夕のご飯は出来るだけ譲れない。伊勢とアールのこだわりだ。
みそ汁も作る。玉ねぎの味噌汁にした。味噌汁は何の具でもOKなのが素晴らしくエレガントだと思う。
「ただいまー」
日が沈んでから相棒が帰って来た。
「お帰りなさい相棒。ご飯、出来てますヨ」
相棒は手を洗って水でうがいをし、顔を洗って席に着いた。
「「いただきます」」
二人そろって、ご飯を一口食べて、味噌汁を飲む。
相棒がみそ汁を飲んで、首をかしげた。彼の面白い癖だ。
「今日習ってきた料理はどうですか?相棒」
「まんざらでもねぇな」
相棒がこういう言い方をするときは、結構気に入っている。アールはちゃんと知っている。
「そうですか、ふふ」
「ああ、おかわり」
「はい、ふふふ」
アールは笑いながらおかわりをよそうのだった。




