表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ツーリング  作者: おにぎり
第二章~ファハーン
17/135

32日目 幕間

投稿忘れ分です。挿入しました。

32日目 幕間


 これで魔法が使えるのかな?…先程、礼拝堂で儀式を受けたものの、アールは甚だ疑問である。なにしろ彼女はバイクなのだ。人間でなくとも魔法が使えるなら良いが、いくらファンタジー世界でも期待のし過ぎは禁物だ。

「まあ、どっちでもいいですね。今日のご飯は何にしよう…」

 彼女にとってはその程度のものである。基本的にお気楽だ。


 相棒が図書館に行くと言うので、アールは家にかえって相棒の鎧の部品を作ろうと思っていた。変形・合成チートで、とっておきの鎧を相棒にプレゼントする。相棒の反応が本当に楽しみだった。


「バザールに寄って、今日のご飯を考えよう」

 ご飯を作るのも、アールの大事な楽しみ。まだ料理経験は100回もないけど、それにしては上手だと思っている。特に飯盒炊爨には自信あり、だ。

 バザールには大抵毎日通っている。冷蔵庫が無いから出来るだけ食材は毎日買ってきたいのもあるし、買い物自体が彼女の楽しみ。歩いて、店をみているだけで楽しい。


「こんにちは、おじさん」

「おう、嬢ちゃん。こんちわ。今日はなんだい?

 いつもの店のおじさんに挨拶する。この国ではあまり、こういう形の挨拶が無いのか、最初は戸惑った感じになるけど、二度目からは向こうからも挨拶してくれるようになる。気持ちが良いものだ。

 今日は八百屋さんでナスを買い、肉屋さんで鳩の肉を買った。ここでは鳩は結構よく食べられる食材だ。アールも割と好きである。

 フルーツ屋さんで柘榴を三つ買うと、今日の買い物は終わり。値段の相場はまだ良くわからないけれど、以前よりはお得に買えるようになってきた。ビジャンさんに交渉のコツを聞いたのが良かったのだと思う。彼曰く、「……舐められたら負け…」だそうだ。


 ふと見ると、バザールの近くの噴水に大きなアライグマがいた。多分、アライグマだ。

 アールは近づくと、柘榴を一つあげてみた。

『お?!何だいお姉ちゃん?おいらにくれるの?』

 喋った。

 アライグマが、喋った。

 アールも喋り返してみた。

『はい、どうぞ。ボクはアールです。あなたの名前は?』

 陽子さんのチートに感謝だ。アライグマと喋れるなんて!

『おいらはニチリッチだよ!ナードラから商売に来たんだ!姉ちゃん、よくおいらの言葉が分かるねぇ!』

『あ!獣人さんだったんですね!初めて見ました!』

『そう!おいらは獣人だよ!』

 ニチリッチはアールが言葉を喋れる事に、大した疑問は持っていないらしい。なんか単純で面白い。言葉は、さっか音が多くて人間だと発音がすごく難しいが、なんとか会話は出来る。

『ニチリッチさんは何の商売をしてるんですか?』

『おいらは辛い木の種を売ってる!なんかこの国の人は好きなんだって!おいらは旅が好きなんだ!獣人には珍しいんだぜ?!この前なんか双樹帝国にも行ったんだ!すごいだろ!おいらの兄弟たちもみんな旅が好きなんだ!旅好き一家なんだ!』

 香辛料だ。ナードラは暑い国だから香辛料が多く取れるのだろう。ニチリッチさんは人間との会話が楽しいのか、凄く嬉しそうな感じ。 

 その後も、たくさん喋りかけてくれた。


 夢中でニチリッチさんと話していたら、肩を誰かに掴まれた。

「おい嬢ちゃん。面白そうだな。俺も仲間に入れてくれよ」

 ちょっと薄汚れた感じの若い大きな人が、アールたちの会話に入ってきた。強引で嫌な感じだけど、仲間に入りたいなら仕方ないか。

「こんにちは。こちらの獣人さんはニチリッチさん。ナードラから香辛料の商売にきてるんです」

「あ?誰に断わって商売してんだ?あ?てめえ商人なら俺の言葉が分かるよな?俺の所に挨拶がねぇだろ?!あ?!」

 大変だ…何かまずい事を言ってしまったらしい。

「あの…ニチリッチさんはそんなつもりじゃ…」

 男の人はアールに向き直って、ニヤニヤと笑った。嫌な笑みだ。

「おい嬢ちゃん。あんたが落とし前つけてくれるならそれで良いんだよ。ちょっと事務所までおいで。話をしよう」

『ダメだよアールちゃん!おいらなら簡単に逃げられるから!』

 それじゃダメだ。誤解はとかないといけない。

「わかりましたヨ。行きましょう。『ニチリッチさん、また後でね。心配要りませんよ』」

『アールちゃん!!』


 慌てているニチリッチさんには悪いけど、彼を置いて薄汚れた人の事務所に来た。事務所の中にも薄汚れた人がたくさんいた。15人くらい。

「おい、嬢ちゃん。脱ぎな」

 何を言っているんだろう?アールは話をしに来ただけなのだ。小首をかしげていると、いきなり顔をぶたれた。

「脱げって言ってんだよ。もっと殴られないと分からねぇか?!」

 彼らが怒っているのはわかったけど、さすがにアールだっていきなり殴られたら頭に来る。相棒も自分の身には気をつけろと言っていた。

「ボクは話をしに来ただけです。誤解を解きに来たん…」

 アールはまた殴られた。話をしてる途中なのに…この人たちは…

「もう一回ボクをぶったらぶち返しますよ?」

「おう、やってみろ」

 男は楽しそうに言いながら、アールの顔をまた殴った。

 アールはすぐさま男のおなかをパンチした。男は壁にふきとんで倒れた。


「兄貴!」

 周りにいた薄汚れた人たちが、アールに一斉に飛びかかって来たので、おなかに一発ずつパンチをした。

 皆、床に倒れた。

「兄貴さん。起きて下さい。ボクは誤解を解きに来ただけですヨ。そうですよね?」

「そ、そ、そうです…」

「バザールでの商売に兄貴さんの許可が必要なんですか?」

「い、いりません…」

 それなら、完全な誤解だったのだ。

「それなら不幸な誤解ですね。わかってくれたらいいんです。ボクは毎日バザールに行きます。また見かけたら、挨拶してください。兄貴さん達は、もうすこし清潔にした方が良いと思いますヨ?」

 ちょっと余計な御世話かもしれないけど、アールは見ていられなかったのだ。悪い事ではないはずだ。

「わ、わかりました。綺麗に掃除します」

「はい。じゃあボクは行きます。頑張ってくださいね、あ、みなさんボクの名前はアールですヨ」

「はい、アールのあねさん…」

 アールは事務所を出た。誤解が解けたので、それで良いのである。


『アールちゃん!』

 ニチリッチさんが駆け寄ってきた。心配だったのだろう。

『心配要りません。誤解は解けました。…ニチリッチさん、よかったらボクのうちに遊びに来ませんか』

『行く!』

 ほら、こうしていれば友人が増えるのだ。

 アライグマみたいに可愛い、獣人の友人。すばらしい。

 アールはとても満足だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ