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異世界ツーリング  作者: おにぎり
第八章~ケセラセラ
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二年と351日目

二年と351日目


 伊勢とアールは久々に魔境で狩りをした。


 戦闘士を名乗るなら、たまにはこうして実績を上げておく必要がある。二級戦闘士で有名な二人の事、何もしなくても除名される事は無いが、それでも周囲の目は気にする必要があるのだ。

 棘猪は取れなかったものの、魔狼2頭、裸赤狒々1頭、裸緑猿11匹を仕留めた。1日の狩りとしたらかなり上出来である。もちろん銃を使っている。


 二人はそのまま家には帰らずに、街道の休憩所で一泊する事にした。

 久しぶりに夜の砂漠が見たかったのだ。

 家の皆には言ってあるので、心配をかける事は無い。


 伊勢は休憩所の城壁から出て、街道横に転がっていた背丈ほどもある大きな岩によじ登った。足を投げ出して岩の端に座る。

 アールは伊勢の足もとで、岩に背中を預けて立っている。


 月は満月。

 風は無い。

 音もない。

 延々と礫が連なる平野があるだけだ。


 伊勢は小石を手にとって投げた。


「相棒、あっという間ですね」

「そうだなぁ…俺なんかもう35だぜ?」

「四捨五入したら初老ですヨ」

「はははははは!確かに!」


 驚きだ。もうすぐ初老とは!


「でも、この体のせいで、あんまり歳とったようには感じないんだよな」

「はい、相棒。でも、ちょっと変わりましたヨ」

「そうか?」

「はい、相棒は前よりほんの少しだけ、怖がりじゃなくなりました。色んな事を引き受けるようになりました」

「うん」

「立派になりましたねぇ、相棒。ちょっとだけ、かっこいいですヨ」

「そうだろう?もう少し褒めてくれてもいいのだよ明智君」

「ふふふ、今日はこの辺にしときます」

「うーん、残念。ははは」

「ふふふ」


 変わるつもりもなく、変わっていくのだ。生きているのだから。


「アールは、結構変わったな」

「ボクのスタートは記憶と意志だけでしたからね」

「うん」

「知ると、自動的に人は変わるんだと思います」

「うん、変われる範囲でな。良くも悪くもな。あのマルヤムだって変わったからなぁ」

「オミードにべったりですもんね。べろべろばぁって」

「べろべろばぁ」「べろべろばぁ」

「あははははは」「ふふふふふ」


「あれ、オミード絶対怖がるよな?」

「泣きましたからね…ふふ」

「俺はマルヤムが変わる時は死ぬ時だけだと思ってたよ」

「アレですヨ、アレ。…生命とは動的平衡にある流れですヨ」

「お前はどっかの分子生物学者か!」

「ふふ、間違えました?」

「そんなに間違っちゃいないんじゃないか?」


「ボクも岩に登ります」

「これは俺の岩だ!」

「相棒のものはボクのもの!」

「それも間違っちゃいないな」


 アールは変形チートで足を延ばして岩に登った。伊勢の斜め左の角に腰を下ろす。

 伊勢の向いている方向は南西、アールの向いている方向は南南東。


「うーん、チートクライミングずるい」

「結構難しいんですヨ?伸ばすのにちょっと集中がいりますから」

「俺にはわからん」

「ふふ、ですよね」

「うん」


 ちょっとだけ間が空いた。伊勢はタバコに火を付けた。アールは月光に浮かぶ地平線を見ている。


「凄いですよね。どんどん大きくなって。ほんとに凄いです」

「飲んで寝て出して、大きくなるね」

「赤ちゃんは凄いです。あんなに小さかったのに」

「ああ、生まれた時は、ほとんど未熟児だったのにな」

「本当に軽くて、落とすのが怖かったです」

「だから俺はあんまり抱かないんだ」

「ふふ、知ってます」

「ご存知でしたか」

「ええ、もちろんですヨ。あっ」


 キツネみたいな動物が駆けて行った。こんな砂漠にも、動物がいるのだ。


「レイラーがいなかったらフィラー、まずかったんだろう?」

「そうかもしれません。出血が止まらなかったので」

「そうか。レイラーには世話になりっぱなしだな」

「たぶん、レイラーさんもそう思ってますヨ」

「だから良いんじゃないか」

「確かにそうですね」

「あいつはどうすんだろうね。もう28だろ?」

「え?知らないんですか?」

「え?」

「ふふふ、じゃあ秘密にしておきますヨ」

「秘密ならしょうが無いな」

「はい」

「ちょっとだけ教えてくれよ」

「ダメです。後のお楽しみです」


 アールは笑いながら踵で軽く岩を蹴った。小さく破片が飛んだ。


「次はセシリーとファリドかなぁ。ラヤーナとファルサングかアフシャーネフとダールかもな」

「どうでしょう。セシリーさんも次で借金完済ですね」

「うん、それは間違いない。セシリーは自己評価以上の能力があるんだよ」

「やっぱりタイラス・アポロニウスは受けましたね」

「タイタス・アンドロニカスだからな。悪役はモングなんだし」

「敵役をモングにしたのは地味に効くかもですヨ?」


 二人はフフンと笑い合った。


「オミードは普通の人間とかエルフより強いかもしれませんね」

「ああ、俺も思った。交雑強勢だっけ?でもなぁ…」

「そうですね。良し悪しです」

「うん、子供がな。まあ、それも含めてどうなるかわからないけど」

「まだ、本人が赤ちゃんですけどね」

「ははは、だな」

「ふふふ…ケセラセラ、ですヨ」

「ケセラセラ、だな」


 精々やるだけやって、ケセラセラ、である。

 みんな、それしか出来ない。

 神様以外は、それしか出来ない。

 だから一生懸命に、本気で、全力で、精々やるだけやる。


「ロスタムの神様はどうなったんだろうな」

「ロスタム君は、…ずっと探す気がします」

「絶対にわかんないだろうな。そういうもんだ」

「わからない方が良いのかもしれません」

「そうだな。ロスタムはずっとあれで良いと思う。自操車の運転以外はな!」

「ふふふ。ロスタム君は…ロスタム君の神様に助けられてる気がします」

「ああ、確かにそうだなぁ」

「羨ましいですか?」

「いや、そうでもない」

「ボクもです」


 伊勢とアールに神様は必要ない。


「相棒、実は携帯に陽子さんからのメール、来てるんでしょう?」

「うん。やっぱバレてたか」

「どうするんです?」

「わかってるだろ?」

「言ってください」


 伊勢はアールを見た。アールも伊勢の顔をまっすぐに見ていた。


「アール、俺は―――――にしたよ」


 アールは笑って言った。


「相棒、ボクにはわかってましたヨ」



-------------

fin.

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