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異世界ツーリング  作者: おにぎり
第八章~ケセラセラ
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二年と142日目 幕間

8.17 6話目

二年と142日目 幕間


 今日は昼飯屋は休みだから、新料理の実験である。

 朝からアールは厨房で麺を打っていた。

 先日、相棒とロスタム君が電気分解の実験で作った、かん水を使っている。整流器がマシになってきたみたいだ。


 えいっ!

 力のある彼女の事、黄色い生地をぐいぐいと伸ばしていく。

 テーブルの下ではツンが欠片の落下を待っているけど、アールはそんなへまはしない。


「フィラーさん、これから焼きそばを作りますヨ。作り方を覚えて下さいね」

「ヤキソバ、ですか?」

「ボクと相棒の国の、国民食の一つです」

 うむうむ、とアールは大きく頷いた。なんたって焼きそばなのだ。絶対に間違いはないのだ!


 かん水が無かったからラーメンや焼きそばは作れなかったけど、ようやく夢がかなうんだ。灰や天然ソーダでもできるけど…何かそれは嫌だったのだ。


 それはともかく、ラーメンや焼きそばを嫌いな日本人がいようか…いや、いない。アールはまだ食べた事が無いけど、相棒の記憶により美味しい事は知っている。

 相棒はごく普通の醤油ラーメンが好きだ。そして焼きそばには芥子マヨネーズが必須だ。


「そのヤキソバっていうのは美味しいんですか?」

「日本の縁日の定番です。美味しい事は間違いないですヨ!」

 最近のアールは、相棒のくれた記憶を掘り返して、色んな料理を作る事にしている。

 味の記憶もあるのだけど、自分で食べて見るとやっぱり少し違うんだ。それが面白い。


「アール」

 相棒が部屋から顔を出して、アールに呼びかけた。

 ツンが相棒のズボンのすそを噛みに行った。ツンはすっかり大きくなった。細身の短毛の薄茶色の中型犬。サルーキに似ている。

「今年の誕生日に贈ったものを、売り出そうと思うんだが良いかい?本格的じゃなくて技術サンプルだけどさ」

「ん?構いませんヨ。あれは喜ばれます」

「ん。サンキュ」

 別にわざわざ自分に確認を取る必要はないけど、聞いてもらって悪い気はしないとアールは思った。

 みんなに喜ばれるものは、どんどん形にすべきなんだ。

 アールにとって、あれは嬉しかった。みんなにもおすそ分けしたい。


「アール様、旦那様から何を贈られたんですか?」

「相棒が作ったプリザーブド…枯れない薔薇ですヨ」

「…すごい!!」

 ほら、フィラーさんだってこんなに目を輝かせる。

 相棒の仕事で喜ぶ人が増えるのは良い事だ。いつでも綺麗な花が見られるなんて、本当に素敵だとアールは思う。


「旦那様はすごいんですね!!」

「相棒はすごくないですヨ。時々、すごいだけです」

 フィラーさんには、まだわからないみたいだ。

 相棒のすごく無さと、すごさを、本当にわかっているのは、多分アールだけだろう。アールは相棒の相棒だから当然だけど。

 まあ、アールにとっては相棒がすごかろうと、そうでなかろうと、そんなのはどっちでもいい。相棒は相棒だ。


 それにしてもフィラーさんはだんだん良く話すようになってきた、とアールは思う。体重も増えて、随分とふっくらしてきたと思う。

 彼女は色々と引きずってるモノがあるから、「アール様」とか呼んできたりするけど、それにはアールはもう慣れた。

 ただ、お風呂にも一番最後に独りで入るし、まだ借りてきた猫のような雰囲気があるのはいただけない。まあ、「慣れろ」と相棒が言っていたし、あんまり言わないようにしている。ゆっくりと変わっていけばいいのだろう。



 よし。麺の生地を伸ばして…包丁で切って…軽く揉めば出来あがり。見た目は良い。

 蒸し器で5分くらい蒸して…ほぐして…ごま油をまわしかけて馴染ませれば…うん、良い感じ。


「さて、じゃあ具を作りますヨ。玉ねぎとニンジンを千切りにしてください。それと…」

 豚肉は無いので、棘猪のベーコンを使う事にする。むしろ、こちらの方がおいしいかもしれない。

 味の決め手は自家製ウスターソース。これは昼飯屋でも使うので、大量生産しているのだ。


 ふとそこで、アールは困った。キャベツが無い。…とりあへずゲルカードを使う事にした。緑の葉野菜だ。

「フィラーさん、ちょっと庭の菜園からゲルカードを取ってきますね」

「はい」


 野菜作りは面白い。土からどんどん育って行くのを見ると、不思議だと思う。どんな事だって、根っこのところは不思議なのだ。

「ゲルカードっと……あれ?」

 アールが庭に出ると、ツンが畑を荒らして遊んでいるのが目に入った。出てきたばっかりの芽をパクパクつまんでいる。

「……ツン!!こらぁぁ!!」

「っっっ!!!」

 アールの怒声に、ツンは全力疾走で家の中に逃げて行った。異常に速い。サイトハウンドだけの事はある。

「もうっ…せっかく出てきたのに……まあ仕方ないか。ゲルカードっと。」

 アールは一瞬で気分を切り替えると、ゲルカードを摘んで、洗ってから厨房に戻った。


 アールが戻ってくると、フィラーが厨房でわたわたしていた。

「フィラーさん、どうしたですか?」

「アール様、ちょっと目を離した隙に、ツンが…麺を…」

「ツン!!!」


 シューイチロー家は今日も平和である。




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