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Fの軌跡  作者: ひこうき
Fの軌跡 編 (前)
7/60

会いに来た


 そして経つこと約80分。俺は必死に第25管区エリア1の駅内を走っていた。時計を見ると、現在時刻は3時29分13秒。約束の時間まで残り1分を切っていた。

「うあぁあ!!どいてどいて!」

 混み合う人を避けるようにしながら俺は走る。

 人とぶつかりそうになっては避け、逆流に押されまいと必死に抗う。不特定多数の他者に睨まれるが、そんなもの気にしている場合ではない。

 モールドが登場した際、世界中の地名が一斉に廃止され、代わりに各国に1から198までのナンバーが割り振られた。日本のナンバーは15だ。

 ただ、15年が経った今でも、ナンバー15と呼ぶ人はあまりいない。俺もそうだが、大抵の人は普通に日本と呼んでいる。

 さらに日本では北から南まですべての土地が、38個の管区に再分割され、それぞれの管区では平均42個のエリアにさらに細かく分割されている。

 例えば、俺の学校は第21管区のエリア12から13にまたがって存在している。俺と哲平がいた寮は、同じ21管区のエリア32だ。第20管区から25管区までは、昔は関東地方と呼ばれており、今では日本でもっとも経済活動が活発な場所となっている。

 また、エリアの数字が若い方が、より都会的であると言ってもよい。

 例え第20管区から25管区の中であっても、一番数字がデカいエリアに行くと視界に入るのは荒れた山だけで、民家なんてものは一切見あたらない。

 逆にエリア1などの都会では、人目につかない場所が存在しないほど、日中の人口密度が高い。


 つまり日中まっただ中の今、第25管区のエリア1にいる俺は、日本で一番混雑した場所に立っていることになる。


「うぉおおおおおおおおお!!!」

 俺の目指す方向とは正反対の方角に流れる人混みに捕まり、俺は危うくエリア2行きの飛行船に乗ってしまいそうになった。全員が俺よりも適合率が高いワケで、当然適合率が0%の俺がその流れを押し戻せるハズがなく、あらん限りの力で横に脱出する。

 モールドの登場から5年後を機に、交通面での技術が大幅に向上し、それからさらに10年経った今となっては、全てのエリアに公共の飛行船が通っている。とくにエリア1では、20秒置きに新しい飛行船が来たりもする。

 しかし俺は約束の時間に間に合わないとのことから、専用空路を持つタクシーを利用してここまで来たのだ。そのおかげで月の食費の半分を失うことになったが、自分の命には代えられない。

 低い態勢で人混みをかき分け、なんとか駅のホームに出ることができた。荒く息をしながら、時計で現在時刻を確認する。

 3時29分48秒。約束の時間まで残り12秒。

 良かった、間に合った。俺は思わず安堵のため息を漏らす。

 そして時計から視線を目の前に戻すと。ニッコリ笑顔の宮谷が、目の前にいた。

「うひゃあ!」

 情けない声と共に尻餅をつく。俺と宮谷の周りでは、スーツ姿の人々が忙しく行き交っており、俺たちの様子を気にする者はいない。

「どうしたんですか?変な声だして」

 宮谷は昼間と同じく制服姿だった。纏め上げられていたポニーテール状は解かれ、美しい黒髪は肩の下辺りまで垂れ下がっていた。満面の笑顔を見せる宮谷は、右腕につけられたピンク色の腕時計を確認する。

「ずいぶんとギリギリですね。何処かで道草でも食ってたんですか?」

 んなワケねーだろ、と立ち上がる。俺はようやく落ち着くと、宮谷にはっきりと言った。

「ていうか、そのクラスの女子と話すときの猫被った話し方止めろって」

 なんか鳥肌が立つ、と口で言ったら殺されそうだったので、心の中で呟く。俺の言葉に対して、宮谷は直視できないほどの満面の笑顔で答える。

「え~、猫被ってるって、どういうことですか~?私はいつもこんな感じですよ?」

「・・・・・・そっすか」

 どうやらコイツはいつも表面では、この優しいお嬢様キャラで押し通しているようだ。

 しかし裏では、記憶を書き換える装置を使って、今日のようなことをしているのかもしれない。

 今日のようなこと―――。

 とそこで俺は今日の出来事を思い出すと、酷く寒気を感じた。慌てて話題を変える。

「で、でさ、話って何だよ?」

 諦めモード発動の俺は、目を背けて頭を掻きながら、ニコニコの宮谷に聞く。

 宮谷はいきなり俺の右手を掴むと、俺をひっぱりだした。

「まあまあそう焦らず、恭司君。それじゃ、行きましょうか!」

「はい?何処へ?」

 一拍置いて、笑顔の宮谷は言う。

「ひ・み・つ♪です!」

 ピキッと。

 世界が割れる音がして。

 どうしてだろう。こんな可愛い女の子に手を引っ張られて急かされるなんて夢みたいな出来事が起きてるのに、鳥肌が収まらないや。

 固まったままの俺は、笑顔の宮谷に引きずられながら駅のホームを出た。

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