表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fの軌跡  作者: ひこうき
Fの覚醒 編
38/60

終末のプロローグ

 無機質なタイルによって埋め尽くされた、広大な空間。端から端が視界に入りきらないほど広々としたこの部屋は、薄気味悪いまでの静けさと薄暗さを伴っている。

 そんな錯覚を起こさせるほど広大な空間に、圧倒的なまでの存在感を放つ、唯一にして超巨大な物体。


 かつて世界を支配していたFコードをその身に宿す、超大規模量子コンピュータ――――クラージェだ。


 そう、ここは熱帯雨林地帯の奥深くに存在する、少年Fが監禁されていた超巨大研究施設の中心部。何人たりとも立ち入ることができない世界の最深部、そのさらなる根源の場所だ。

 科学者達による決死の破壊作戦によって機能停止間際まで追い詰められ、それでも少年Fの怨讐を無尽蔵に宿し、世界を陥れようと藻掻き続けたFコード。

 その悪魔の式に乗っ取られたクラージェは今、全人類から感情を削り取りながらも、本当にごく浅い『眠り』についていた。


 そのクラージェの厳存する薄暗い空間自体が、一種の『死』を帯びている。谷より深々とした静謐さが張り詰めている空間では、空気そのものが鋭利な冷気を帯びており、生物の持った命の煌めきを根こそぎ奪ってしまうほどの負のイメージが存在していた。

 そんな塵一つすら散在しない、不気味なまでに完成された、ただクラージェという悪魔を寝かしつける揺りカゴとなった部屋に。


 ――――たった一人の、少年がいた。


 その少年は山の如くそびえ立つクラージェの前に佇み、遙か上空に点在するクラージェの先端部を眺めていた。

 身に纏うのは、ボロボロに破れたダスターコート。時々覗かせる制服は、かつて彼が人間であったことの名残だ。


 そう、かつて人間だった。

 

 Fコードという悪魔に魂を売り払い、新たな生命として誕生した少年の名は――――小西哲平。


 支倉恭司の、一番の親友だった男だ。


 背後でまばらな足音がする。それは広大なフロアに響き渡り、少しずつ哲平の元へと近づいてきた。

 その足音が至近距離まで到達した所で、哲平は正面を見据えたまま、振り返ることなく口を開いた。

「お疲れさん。クロにシロ……それからフィー」

 哲平の口にした3名――――片腕を失ったクロと、それを支えるシロ、加えてその背後に佇むフィー。

 彼らはその哲平の声を聞くと、歩くのを止めてその場に佇んだ。

「……なんてザマだ、クロ。その様子からして……フェーズ3は失敗か?」

 振り向かずに、されどクロの様態を瞬時に把握した哲平は問いかけた。不機嫌そうな表情を浮かべてそっぽを向くクロに代わり、苦笑いを浮かべたシロが答える。

「いえ、フェーズ3は成功ですよ、哲平様。『Fの覚醒』に『ICDAへの40%以上の損害』、どちらも達成しました。前者は、宮谷志穂から真実を聞いたことで、支倉恭司が既に半覚醒状態でしたので、覚醒は容易でした。ただ、後者の方をクロくんがやりすぎてしまったというか……」

「それを失敗というんだ。撤退のタイミングを計れない奴はすぐに死ぬ。例え力があったとしてもな……」

 哲平がゆっくりと振り向く。それと同時に、視線を逸らしていたクロがビクッと反応した。

「代わりの肉体はもう無いんだ。ちゃんと大切に使えよ、クロ?」

「……ちっ、分かってるよ、ボス」

 そう投げやりに返答したクロを見て、哲平はゆっくりと頷いた。そして次なる視線を、後ろで佇むフィーに向ける。フィーは哲平に視線を送られていることを気に留める様子も無く、浮かび上がった青白のスクリーンを無言で操作していた。

「フィー、その様子からすると、お前の方もダメだったようだな」

「……ネットワークを一対一で取り返された。……僕は全力だった。……僕の完敗だった」

 ブツブツと呟くフィーに対して、哲平はこう問いかけた。


「そうか。まだ『脳』を一つしか使っていなかったのに、全力だったのか?」


「……」

 その哲平の言葉に、スクリーンを弄っていたフィーの指が止まった。前髪に隠れた顔をゆっくりと上げながら、僅かに口元を吊り上げる。

「……ボス、見てたのか」

「いや、その表情で分かる。お前がこれっぽっちも本気を出していなかったことくらいな」

「……」

 ニヤァ、とフィーの口元が一気に吊り上がった。そうして堪えきれないように、少しずつ笑みを溢し出すと。

「……クックックッ……ア、アッハハハハハッッ!!!」

 

 さも愉快と言いたげに、天を見据えて哄笑し出した。


「楽しそうだな、フィー」

「……ククク、楽しいよ、楽しいよ! ……あの女、『小野寺雅美』をぶっ潰すのが。ラストフェーズでグチャグチャにするのがッ……!」

 気が狂ったかのように笑い続けるフィーを暫く見てから、哲平は視線をシロに向ける。

「そうだ。我々の目的はラストフェーズにある。そのため『青』の配布に始まって『Fの出会い』、そしてフェーズ3の『Fの覚醒』と準備を進めてきたんだ」

 哲平の重々しい言葉に、意味深な笑みを浮かべたシロが頷く。肩を借りたクロは視線を外したままだが、その後ろに佇むフィーは残忍な笑い声を発しながら、『目的』を見据えていた。

 フィーにならって哲平は向き直り、そびえ立つクラージェを見上げる。

「そして、残すはラストフェーズ。もう少しだ……計画の完成まで……」

 クロとシロ、フィーという3名の手下を従えた哲平は、Fコードに、クラージェに、世界に、そして何より――――かつての友に向けて、高らかに宣言した。


「さぁ、始めよう。眠りについた俺達のプリンセス――――Fコードを目覚めさせる。腐りきったこの世界を終わらせるために」

お疲れ様でした。Fの軌跡、『Fの覚醒』編、無事完結です!


やる気充電のために、気が向いたら↓をポチっとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ