表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fの軌跡  作者: ひこうき
Fの覚醒 編
27/60

望んだ世界

「一体、何がどうなっているのだ!」

 非常事態を告げるけたたましいサイレン音に、ライエルの怒声が掻き消される。

 そんな最中、冷や汗を浮かべながらパネルを高速で叩いていた一人の少女、小野寺雅美は現在、二つのことに焦っていた。

 一つ。

 先ほどコンディション・レッドが発令されて間もなく、支倉恭司が胸を押さえて藻掻き、そのまま倒れたこと。

 今は横になって安静にされているが、突然の出来事だったので、雅美を含む一同を盛大に驚かせた。状況が状況なだけに看病することが出来ないから、なおのこと雅美に不安を与えていた。

 

 そして、二つ。


 雅美はスクリーンに浮かび上がった結果を見て、小さく舌打ちをした。

「駄目です!A1からB5までの、全てのアカウントが拒否されました!私達、完全にこのフロアに閉じこめられましたよ!」

「!?」

 彼女の必死な声色にいち早く反応を示したのは、この場にいる誰よりも強いはずだった、ライエルだった。

「閉じこめられた……だと……?」

 雅美は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。

「ICDA全体のネットワークに、外部から侵入されたようですね……!しかも訓練場の操作回線のみへの干渉……明らかに私達上位能力者がココにいることを見越してのクラッキング……」

「な……」

 ふざけるな……!と罵声を上げたライエルは、フロアの入り口に向き直ると、ポケットからカプセルを取り出した。

 彼を能力者として頂点たらしめている『橙』のモールドだ。

 ライエルは躊躇うことなく、それを自身の首に刺す。そして内部の液体を全て注入し終えると、突如彼の周囲を紫電が走った。

 バチバチッ、と弾ける電撃を、ライエルは自身の右腕に掻き集める。

「―――――は!」

 かけ声と共に、ライエルは貯めた電撃を非常階段へと続くシャッター目がけて放撃した。

 しかし。

 本来ならばビル一つ吹き飛ばしかねないライエルの放った電撃が、バチィッ、という情けない音と共に打ち消された。

「なら……!」

 次の瞬間、ライエルの姿が消えた。

 非常階段への道を遮るシャッター目がけて急突進し、電撃を帯びた右拳を叩きつける。

 ゴンッ、!と鈍く響く音を発したシャッターはしかし、適合率92%のライエルの拳を受けてなお、僅かに形を歪めるだけだった。

 ライエルが初めて目を見開く。

「忘れちゃったの、ライエル? このモニタールームと訓練場全体が、日頃のライエルの訓練に耐えられるよう、特殊な対電磁素材と緩衝材でできているからね。ライエルがいくら電撃を放ったり殴ったりしたところで、この部屋に穴を開けることはできないよ」

 そう呟いたのは、僅かに不安そうな表情を浮かべ、壁に背を持たせたユウリ・アリフォンスだ。

 それだけじゃ有りません!と雅美は続ける。

「179フロアから侵入した何者かが現在、上フロアで実行部の鎮圧部隊と抗争中……既に第180から第200フロアまでが制圧された模様!」

 バカな、とライエルが呟いた。

「先ほどの、侵入者を告げるコンディション・レッドが発令されてから、まだ5分も経っていないぞ!?そんなこと……」

「音声、入ります!」

 と、焦り混じりのライエルの言葉を掻き消すように雅美は叫ぶと、スクリーン上の再生ボタンをスライドした。

 同時に、ノイズ混じりの音声がフロア全体を包む。


『あっははははははははぁ!!』


「―――――!」

 笑い声が、フロア全体に響き渡った。

 少年の、本当に愉快そうな笑い声だ。


「なっ……」

 ライエルの消え失せた驚きの言葉を合図に、フロアにいた一同が、一斉に言葉を失う。


『何なんだ、この化物は……!』

『たった一人で、これほどの数を相手に……!』

『第201フロアに続く障壁、突破されました!』

『撃て!とにかく撃つんだ!』


 銃撃音がこだまする中、実行部の鎮圧部隊の痛切な怒声が嫌に目立つ。

 しかし、次の瞬間。

『全部消えろおおおおおおお!!』

 少年の悪魔染みた笑い声が、全てを包んだ。

 そして、張られていた弾幕音を一瞬にして掻き消すほどの盛大な爆発音が、フロア全体に響き渡った。

 その上のフロアで起きた爆発の衝撃が、ライエルを含む一行のいるモニタールームまでもを震わす。

「きゃあっ!」

 先ほどまでライエルに踏みつけられていた少女、椎名花蓮は短い悲鳴を上げたが、この状況で彼女に反応できる者はいなかった。

 そして、上のフロアで繰り広げられていた戦闘は、あっさりと収束した。

 ICDA実行部の主力戦闘部隊と、たった一人の少年。


 どちらの勝利で幕引きがされたかは、言うまでもない。


 頭上では赤色に点滅を繰り返す非常事態用のアナウンスが駆け回り、重く苦しい空気が周囲を少しずつ囲っていった。

 この状況下でおそらく最も冷静なはずである彼女、雅美はしかし、胸の内で信じられない、と呟いていた。


 この世界に存在する、秘密結社や組織。これらの治安を維持していく上で、必ず必要となる物が2つある。

 一つ目は、敵の襲撃に備えた、確固たる防御設備だ。例え攻撃を受けたとしても、秘密を守るに足る、十分な防御設備。


 そして二つ目として、組織の存在自体を他者に知らせない、というものがある。


 両者はその存在が中途半端な物では、組織の存在をむしろ危険に晒す。

 そういった観点からしても、ICDAが後者の手段を極めた組織であるという事実には、微塵の疑いようも無い。なぜならば、ICDAは設立から8年という歳月の間、一度たりとも一般人の目に晒されていないからだ。

 ICDAがベアリングという会社内部に存在している理由も、当然後者を極めるためだ。

 エリア1のど真ん中に存在する謎の超巨大施設と、ひっそりとビル内部に隠れた施設とでは、どちらが一般人の関心を集めるかなど、議論するまでも無いだろう。

 だがそれ故の、知られた際の組織の脆さ。


 いや、違うだろう。そう雅美は心の中で否定する。


 ICDAは、前者の防御の面でも、そこらの組織とは比較にならない力を持っていた。

 考えるまでも無く当然のことである。ICDA本部にいる2000人弱の人間は、全員が常人を遙かに超越した力を持っているのだから。

 だが、その中でも戦闘面に特化した実行部の主力部隊。

 彼らを、侵入を許されてから僅か5分程度で壊滅させた少年は、一体何者なのか。雅美はそのことが疑問でならなかった。

 同時に、雅美にはもう一つ大きな疑問があった。


 そう、侵入者の目的だ。


 雅美は、自身の中で質疑応答を繰り返す。


 ―――――侵入者の目的は、ICDAの保つ、Fコードの情報?

 否。それならば、ICDAという存在を知っていた時点で、ある程度の情報は掴んでいるはず。

 ―――――では、己の力の誇示?

 否。それでは、その後の追跡を振り切るには面倒な本部で、事を起こした理由が分からない。


 雅美は考え続ける。


 ―――――侵入者がICDAの存在を知っていたことは置いといて、では何故、侵入者がこのICDA本部にわざわざ赴いたのか。


 ―――――他に無くて、ICDAに存在する物。


 ―――――Fコードの情報?

 否、それは先ほど否定した。

 ―――――新型のモールド?

 可能性としては、十分にあり得る。だが、それでは事を大きくする理由が分からない。


 事を大きくする。


 大きく。


「―――――!」


 少女は、気がついた。ある重大な見落としをしていることに。


 侵入者が、一人とは限らないことに。


 雅美は、一気に思考を加速させた。


 ―――――あれほど目立った戦闘を行なった理由。

 ―――――まさか、他の侵入者の陽動?

 ―――――そして、今他に起きている異変。

 ―――――私達、ユウリと、ライエルと、椎名と、そして突然倒れた恭司さんが、この部屋に閉じこめられている……。

 ―――――閉じこめられている……?閉じこめる……?何故?何のため?

 ―――――もし目的が、ICDAの内部に存在して。

 ―――――そして、侵入者がICDAを襲ったのが、最近内部で変化があったからだとしたら。

 ―――――ICDAでの変化。

 ―――――支倉恭司、世界で唯一の適合率0%の男が、やって来たこと。


 まさか。


 そう雅美が心の中で呟き、隣りで力なく横たわる、支倉恭司を視界に捉えた瞬間。


 先ほどまで気を失っていたはずのその男が、突如に目を剥いだ。

「―――――!」

 そして支倉恭司という少年が、まるで欠陥の残ったロボットの如く、ぎこちない動きで立ち上がるのを見た雅美は、ただ何も言えずに呆然としていた。


「―――――ライエル・ウェーバー」


 突如呼びかけられた青年は、勢いよく振り向いた。そしてその声が先ほどまで気を失っていた少年によるものだと知るや否や、強ばった表情を緩めた。

「何だ、ようやくお目覚めかい?落ちこぼれ君」

 この状況下で他人を揶揄するライエルの心持ちを、雅美は理解することが出来なかった。

 自身にかけられた言葉を気に留める様子も無く、少年は歩き出す。

 一直線に向かう先は、ライエル。

「な、なんだ?」

 ツカツカ、とサイレン音の中で、無機質な足音が響く。そして、早足でライエルに近づいていった支倉恭司は、彼の目前まで到達し。

 そのまま横をすり抜けた。

「―――――!?」

 ユウリ・アリフォンス。小野寺雅美。ライエル・ウェーバー。そして、椎名花蓮。

 全員の視線が、世界で最弱の少年に集まる。

 少年はライエルを過ぎてからしばらく歩を進め、未だに床に這ったままの椎名のちょうど手前まで来ると、その動きを止めた。

「……」

 無言のまま、僅かに怯えた様子の少女を見下ろした少年は、ゆっくりとしゃがみ込む。

 そして、その口を開いた。

「これ、貰うね。いただきます」

「え……?」

 少年から発せられた声は、何故だろうか、雅美には先ほどまでの支倉恭司と比べて、幾分幼くなったように感じられた。

 困惑する少女に笑顔を見せた少年は、ぐちゃぐちゃになって床に広がったサンドイッチ、その内の一つを手にすると、そのまま口元まで運ぶ。

 あっ、と椎名が止めようと手を伸ばす。

 しかし、少年はそれを気に留める様子も無く。


 パクッ、と。


 全員の視線を受けた少年が、型の崩れたサンドイッチを躊躇うこと無く口にした。そして、しゃがんだまま美味しそうに咀嚼する。

 少年が口を動かす度に、何やら砂が擦れるような音がする。ライエルの靴に付着した汚れが、先ほどのサンドイッチにも付いたのだろう。

 間近で少年の奇行を目撃した椎名は、言葉を失うと共に驚きから目を大きく見開き、それを少年の背後から見下ろしていたライエルは、あからさまな嫌悪の表情を浮かべ、いつの間にか雅美の傍にいたユウリは、意味深な笑みを漏らしていた。

 ゴクッ、と。

 少年は名残惜しそうに、口に含んだサンドイッチを喉に通した。

「うん、うまかった。ごちそうさま」

 そう優しい笑顔で目前の少女に語りかけた少年は、ゆっくりとその場に立ち上がる。そして、ライエルに背を向けたまま数秒間沈黙し。


 ゆっくり、振り向いた。

「―――――!」


 少年、支倉恭司を見た雅美は、言葉を失った。

 先ほどの少女に見せた、あの優しげな笑顔の持ち主とは思えぬほど、その表情は怒りに染められていた。


 そう、怒りだ。

 

 少年の瞳には、これまでの人生の中で決して持つことが無かったような、純粋な怒りが宿っていた。

 この場で最初に少年の瞳に着目したのは、恐らく黙って少年を見つめていた雅美だろう。

 彼女は、思った。

 ―――――あの恭司さんが。まるで、何かを達観しているかのような、淋しい瞳をしていた彼が。あれほどまでに、純粋な感情を顕わにしている。

 何故、と感じるのは無理もないだろう。しかし、恐らくこの場でその答えを出せる人間は存在しなかった。

 僅かに身構えているライエルへ向けて、怒りを顕わにしていた少年が、ゆっくりと口を開く。

「僕が……」

「?」


「僕が創りたかったのは……僕が望んでいたのは、こんな世界じゃない」


 はっ?とライエルが今度こそ声を漏らす。意味が分からないと言いたげな表情だ。

 それに対し、少年がゆっくりと続けた。

「ライエル・ウェーバー。僕と一つ、賭けをしないか?」

 少年の問いかけに、ライエルが不敵な微笑を浮かべながら返す。

「……何を?」


 そしてその問い返しを受けた少年が、怒りの中で、同じく不敵な笑みを漏らしながら答えた。


「僕と、手合わせを願いたい。もし僕が勝ったら、彼女の作ったこの料理を全て食べろ」

「!?」

 この言葉に最初に反応したのは、言葉をかけられたライエルでは無い。床に伏したまま少年の背中を見上げていた、一人の少女だった。

 そして少年の言葉を受けた張本人は、わずかに目を丸くする。

「いや……どうしたんだい、少年。まだ倒れたショックで錯綜しているのかな。それともお寝ぼけか」

 少年は応えない。

 先ほどまで嘲笑しているかのような態度だったライエルは、少年の様子に対して何かを感じたのか、咳払いをして真面目な声色で続ける。

「こんな状況だ。私と君が争わねばならない明確な理由でも無い限り、私は承諾しかねるが……まさか下僕の残飯をはね除けたことに苛立っているとは言うまい?」

「あるさ」

 少年の切り返しは早い。

「あるさ、闘う理由。ライエル・ウェーバー、お前が言うには、弱者は存在自体が罪なんだろう?」

 ほう、とライエルは呟く。

「自身の能力を客観的に評価できる人間は嫌いじゃない。いや、世界一の落ちこぼれ君である君の場合は、立場上そうせざるを得ないのも事実だが」

 くくく、と笑いを溢しながら、ライエルは続る。

「何、別に私は弱者を全て処理しようなどとは考えていないよ。弱者といえど、人は人。特に関わり合いも無ければ、むざむざ手を加えようとはしないさ。君も死に急ぐような真似は止めた方がいい」

「違うな」

 ライエルの言葉を、不敵な笑みを浮かべた少年が遮る。

「違う、違うよ、根本から間違っている」

 そして少年は、迷いのない堂々とした様子で、告げた。


「ライエル・ウェーバー、弱者は君だ。僕や、僕の後ろにいるあの子よりもずっと下の。どうしようもなく弱い人間なのさ。君のような弱者を裁くのは、強者である僕の務めだと思わないか」


 少年の、そのあまりに唐突で突飛した発言に、一同が言葉を失った。

 しかし数秒もしない内に、ライエルの乾いた笑い声が沈黙を破る。

「あ、あ、あっはははは!面白いこと言うねぇ、きみぃ!」

 そして暫く笑い続け、さもおかしくて堪らない、といった様子で声を漏らす。

「くくくっ……!いいよ、いいよ。面白いねぇ、いや実に!くっ……はははははっ!世界で一番弱い君が強者でぇ!?世界の頂点に君臨する、この私が弱者ぁ!?」

 傑作だぁ!と手を合わせながら、止まらず高笑いするライエル。そしてようやく落ち着いてきたのか、ヒーヒー言う自身の呼吸を整え、しかし未だに笑いを漏らしながら彼は言う。

「くく……よし、いいだろう……」

「!?」

「!?ちょっ、待ってください!」

 ライエルの受け返しに反応した、椎名花蓮と小野寺雅美。

 後者の人間が、ライエルに詰め寄ろうとする。

「何バカなことを言ってるんですか!? そんなの、相手にならないに決まっているでしょう!?恭司さんは、アナタの拳一つで死んでしまうんですよ!?」

 いや、と彼女は目眩を感じつつ続けた。

「大体、今はそんな状況じゃないでしょう!早く上の侵入者を止める手だてを見つけなくては!」

「いいよ」

「!?」

 雅美の必死の説得を砕いたのは、隣で微笑を浮かべるユウリ・アリフォンス。

「今の私達に出来ることはないよ。この場で一番力を持つライエルでも、ここから出ることはできない。なら……」

「ユウリ!」

 雅美の怒声を物ともせず、ユウリは笑顔で言った。

「支倉恭司と、ライエル・ウェーバー。両者の相対を、ICDA副会長として許可するよ」

 その言葉をきっかけに、一同を沈黙が走る。

 そして最初に声を発したのは、笑いが漏れるのを堪えるようにするライエルだった。

「くく……。そう言うわけだが、少年よ。私は君と闘うことに異存は無い。敗北の際に、このゴミを食べることも約束しよう。……だが、私だけがペナルティーを負うのも癪だ」

 どうだい、とライエルは続ける。

「君が負けた暁には、私に一生の忠誠を誓うというのは」

「!この……!?」

 怒声を発しようとした雅美を制したライエルは、視線は少年に向けたまま続けた。

「強者であるらしい彼は、弱者の私よりも勝つ可能性がずっと高いのだよ?負けかねない私だけが罰を負って、一方の彼がないでは、とてもイーブンな話とは思えないがね」

「くっ……」

 少年の揚げ足を取るかのような発言に、雅美は言葉を失う。暴言の一つでも吐いてやりたい気分だったが、唇をきつく結んで堪える。

 余裕な様子のライエルに、雅美はどうしようもなく苛立ちを感じていた。

 これほどの力を持って、どうしてここまで器が小さいのか。他者を見下し、むやみに力を振るい続ける。

 内心、雅美は少年の言葉に一理あると感じていた。人間性に限っていえば、彼ほど腐って脆い人物が他にいるだろうか。

 だが、それとこれとは話が別だ。彼が世界トップクラスの能力者であることに違いはない。能力使用どころか、最悪デコピン一つで少年は意識を失うかもしれない。

 そのような一連の思考から、何としてでも止めようと考えていた雅美はしかし、行動に移ることができなかった。

 雅美の視線上に存在する、少年の姿が。

 ただ、佇んでいるだけなのに。

 微笑を浮かべたその少年から、雅美は得体の知れない何かを感じてしまったからだ。

 何か、とは、もしかしたら幸を生むものかもしれないし、悲劇を呼ぶものかもしれない。それは雅美の知るところではない。

 だが、これまで自身の可能性を塞ぎ込んでいた少年は今、未知の可能性に満ちていた。少なくとも雅美にはそう感じられた。

 そして、先ほどの少年の顕わにした、感情に満ちた瞳と結びつく。


 ―――――何かが、違う。


 ポツポツ、と雅美の内に、期待にも近いような、興味にも近いような、そのような感情が姿を現し始めた。

 そして雅美に応えるように、少年は再びライエルへと面向かった。

「いいだろう、分かった。僕が負けたときは、お前の下僕にでも何にでもなってやる」

 まるで期待していた回答が得られたかのように、ライエルは高らかに笑い出す。

「はははははっ!!これはいい楽しみができた!まさか組織のお墨付きの落ちこぼれを、この手で砕ける日が来ようとは!はははははっ!!」


 赤色に染まるモニタールームの中、ライエルの笑い声だけが嫌に響いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ