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奇妙な反論


 セシリオ・アゲロは自身の経営する店で、いつもの面子に結婚を報告した。


「は? 本気ですか?」

「本気です」

「よりによって朔夜と?」

「ええ、朔夜です」

 報告された二人は信じられないやら呆れるやら若干引いた目で彼を見た。

「正気とは思えません。自分の養女むすめと?」

「宮廷の許可は下りるのかい?」

「もともと血縁は有りませんから何も問題ありませんよ」

 セシリオは笑う。

「血縁、ねぇ」

 ウラーノ・ナルチーゾは自分の髪を弄る。

 納得いかないと言う彼の癖だ。

「セシリオには是非とも私と結婚して欲しかったのだけど……いや、まだ間に合う。朔夜の次でも構わない。結婚しよう」

「寝言は永眠してから言って下さい。気持ち悪い」

「つれないなぁ。私はこれで結構本気なのだけどね」

「一層気持ち悪い。あなたと結婚するくらいならスペードと結婚した方がマシです」

「嫌ですよ。男と結婚なんて。僕にだって選ぶ権利はあります」

「これは失礼。スペードはウラーノと結婚したかったんですね」

「八つ裂きになりたいならそう言ってくれればいつでもして差し上げますよ?」

「八つ裂きくらいじゃ死ねません」

 セシリオは笑う。

 スペードは深い溜息を吐いた。

「それで? 女神の祝福はあったのかい?」

「婚姻の儀でそれを確認するんですよ」

 セシリオは上機嫌でグラスに葡萄酒を注ぐ。

「僕はてっきり玻璃の方かと思いました」

「え? なぜです?」

「玻璃の方が圧倒的にあなたの話題に上がる」

 スペードは退屈そうにタロッキの札を弄びながら言う。

「玻璃はあれで可愛いですが、まだ若い。それに、僕は朔夜を手放したくない。朔夜を手元に置いておけば朔夜に依存しているあの二人も離れたりしないでしょう?」

「一番朔夜に依存しているのは君じゃないか」

 ウラーノがからかうようにセシリオを見た。

「そう、ですかね? まぁ、朔夜は特別ですから」

「特別?」

「女神の意志を感じ取れる」

 ウラーノは笑った。

「朔夜は手放したくない、玻璃は可愛い。じゃあ、残る瑠璃はなんだい? 二人のおまけかい?」

「まぁ、そんなところですかね。まぁ、あの子はあの子で可愛いのですが、手放しても惜しくは無い。むしろ、今、あの子が手元にとどまっていることの方が僕は不思議です。あの子は本来一つの場所に留まれない。玻璃が居るからこそ我々と共に行動しているのでしょうね。あの子が門限を守るところを僕は見たことが無い。規則は壊すためにあると勘違いしていますから」

「瑠璃は近頃噂になっていますね。すばしっこく喧嘩っ早い娘だと。宮廷騎士に目を付けられても知りませんよ」

「それが、勧誘を受けたそうですよ。まぁ、騎士団長ではなく下っ端の騎士ですがね。団体行動は面倒だと断ったそうですが、最近は傭兵の真似ごとを始めました。あの子はそろそろ自立するんじゃないですかね?」

 セシリオはさして興味なさそうにこたえる。

「それを考えると瑠璃は可哀想だね。養父ちちにさえ関心を持たれていない」

「そうですか? 僕に説教される数が一番多いのは間違いなく瑠璃ですよ」

 玻璃は従順すぎる。

 朔夜は少しばかり小言が言える程度には成長した。

「瑠璃は初めから僕に反発ばかりですからね。上下関係をはっきりさせなくては」

「大人げないね」

「まったくです」

 二人は自分のことなど完全に棚にあげて言う。

「大人げのある人間を僕は見たことがありませんね」

「それもそうだね。まぁ、私は日を改めて君の家族の様子を見に行くよ」

「玻璃が嫌がりますよ」

「酷いな。私は彼女を気に入っているのに」

「まぁ、結婚祝いくらいは用意しますよ。どこぞの少数民族の呪の人形でも」

「玻璃が喜びそうですね」

「基準は玻璃ですか?」

「あなた達がそんなことばかり言うからです。ああ、玻璃と言えば未だに読み書きが出来ないのですがどうしたものでしょうか?」

 どこかに良い教師が居ないだろうか?

 彼が言うと二人は大きな溜息を吐く。

 友人はいつの間にか過保護な親馬鹿になっていた。

 まるで彼一人が異空間に分離してしまったかのようだと彼らは思ったに違いない。

 だが、セシリオから見れば二人の方が異空間に住む理解不能の存在になりつつあるのだ。

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