焦燥〜推しの子に逢いたくて〜
……2時47分。
(今日の推しの子のライブは)
15:00〜15:30。
「寝過ごし、た?」
昨夜寝たのは9時過ぎ。数時間後に一度起きたが、二度寝して、現在。
(いや、いくらなんでも……)
(あり得る、か)
ラヴレターを書くのに必死で二連続徹夜だった。
俄には信じ難いが、時計は嘘を吐かない。少なくともスマホである以上、電池切れではなかった。
(電車で、何分だ?)
田舎者である。東京の電車事情など、若い頃に住んでいた&通っていた範囲以外ほぼわからない。
目的地は下北沢まちの案内所、下北沢駅東口前広場内。
G先生の地図によれば、公共交通機関で57分。──絶望だった。
(いや、待て)
「タクシーなら」
──25分。
(どう呼べば最速だ?)
フロントへ頼むか……いや、確かホテルのチラシに、
「あった」
某飯宅配屋のタクシー手配アプリ、その広告だった。
「これで行こう」
首都高代込みで約一万円。
(それがどうした!)
こっちは電車代と宿泊費だけで八万円近く出しているのだ。今更惜しむ額ではない。一億円、とでも言われようもんなら流石に払えないが。
ともあれ大事なのは、「四日間全通します」と推しの子へ告げたにも拘らず「行けませんでした」では済まされないことだ。──愛するあの子を悲しませるわけにはいかない。
初めて使う配車アプリに戸惑いながら、乗車場所をホテル前に。どうやら1分か2分で来られるらしい。
髭は案外伸びていなかったので無視。今日は話せるわけでもない。それぞれ三十秒と掛けずに歯磨きと着替え。コーディネートは元々今日明日のどちらかで着るつもりだったラフなもの。靴だけ合わないが、荷物の都合で仕方なかった。
(貴重品と部屋の鍵)
あとはライブ時間内に辿り着ければ今望み得る最善だ。
近年稀に見る素早さで部屋を出て、エレベーターで一階へ行き、玄関からガラス扉越しに外を見る。
(暗、い?)
今日は雨か曇りだったろうか。
いや、何かがおかしい。
外へ出てみても、人が居ない。
結構な人が行き交う地域である。
地元のド田舎とは違うのだ。
(まさか)
もう一度スマホを確認。
……2時。
(14時、では、ない)
良かった、ちゃんと、逢いに、行ける。
なお、配車先を指定したつもりだったアプリは、更に操作が必要だったらしく、手配出来ていなかった。




