ノリで弟子にした奴が、実は大魔法使い様だった話
「キャー」
「魔物だ!!!!」
「逃げろー」
魔物に怯え混乱した人々が、四方八方へ逃げていく。
赤子が泣き叫び、
花屋の花は踏みつぶされ、
多くの人が食事中であっただろうレストランでは、割れて鋭くなった食器の破片が、転んでしまった少年の膝をあかくする。
さっきまで賑わっていた街は、完全にカオスと化していた。
そんな中、呑気に屋根で昼寝をしていたのがこの女、ゼータである。
彼女は筋骨隆々で、その足腰を駆使して屋根に上り、誰にも邪魔されない平穏な昼寝を満喫しているところであった。
しかし、魔物が現れたことで、普段はどんなに起こされても起きない彼女も、悲鳴や怒号で目が覚めてしまったらしい。
つまるところ、彼女は今、大変不機嫌なのである。
「チッ、アタシがせっかくの休みを満喫してたっつうのに。これじゃあ、休むにも休めないじゃないか。」
舌打ちをした後、地面から3メートルもある屋根から飛び降り、そのまま魔物へ一直線に駆けてゆく。
そして、腰に携えた大ぶりの剣を片手で引き抜き、そのまま魔物の首を "すとん"と切り落とした。
なんと、ここまでたったの32秒。
驚異的な速さである。
決して、魔物が弱かったのではない。
彼女の規格外の身体能力によって生み出された流れるような技が、異次元だったのだ。
そんな彼女の現在の職業は、騎士である。
それも副団長にまで上り詰めた、つわものなのだ。
その体格は騎士団の中でも1位2位を争うほどであり、もはや彼女のことを女性と認識しているのは、愛らしかった幼少期を知るごく一部の人間だけである。
そのため、魔物に食われそうになっていた所を助けられたこの青年も、彼女のことを男性だと勘違いしてしまっていた。
しかし、青年がその事実を知るのは、もう少し先のお話なので、今は割愛させて頂こう。
「た、助けていただき、ありがとうございました。」
「ん?誰かいたのか。気持ちはありがたいが、お礼はよしてくれ。今は職務中ではないんだ。ただ昼寝を邪魔されたから討ったまで。自分のためにやったことだ。君のためじゃない。」
「それでも、わたしの命を救って下さったことには変わりありません!先ほどの素晴らしい剣技、御見それしました。」
「ああ、そうか?鍛えれば誰にだって出来ると思うが。」
「・・・・・・それは、わたしでも出来るということでしょうか?」
「努力次第だな。君は線が細いようだが、筋肉が少ないわけではない。始めれば、それなりに仕上がると思うぞ。」
「本当ですか!?」
「このアタシが保証しよう。」
「では、折り入ってお願いがあります。初対面のあなたにこんなことを言うのもおかしな話ですが、あなたの剣技に惚れました!わたしを弟子にしてください!!」
「君の気持ちは分かった。だが、アタシもそんなに暇じゃない。2週間に1度なら、見てやらんこともないが、どうする?」
「ありがとうございます!ぜひお願いします。師匠!」
かくして青年は、騎士団副団長直々に剣を教えてもらえることになったのだった。
ゼータの鬼のような特訓が良かったのか、それとも、もともと青年に才能があったのか。
2年後、青年は騎士団入団試験を余裕で受けられる程に成長していた。
「師匠!今日はいよいよ騎士団入団試験ですね。何か受かるコツはあったりするのでしょうか?」
「うーん、君はこの2年でとても成長した。普通にやれば受かるだろう。アドバイスをするとすれば、冷静でいることだな。相手がどんなに強そうでも、アタシ程じゃない。落ち着いて出来れば、大丈夫だと思うぞ。」
「それならば、わたしの得意分野です!任せてください!!」
「お、おう、すごい自信だな。とにかく、がんばりな。」
「はい。では、行って参ります。」
◇◇◆◇◇
数日後、ゼータが騎士団に出勤すると、同僚が騒がしくしているのが聞こえてきた。
どうやら、今年の入団試験の合格者には、見どころのあるやつがいるようだ。
今年は担当では無かったので、ゼータは入団試験を監督しておらず、まだ新人を見ていない。
そのため、初顔合わせである今日をとても楽しみにしていた。
A:「副団長!聞きましたか!?合格者に、あのルカ・エヴァンス様と同じ名前の者がいたとか。流石に同一人物ではないと思いますが、珍しい名前ですからね。一目見ていたいものです。」
「誰だ?そいつ。」
A:「ま、まさか知らないんですか!?」
B:「副団長、いくら筋肉馬鹿だからって、それはないっすよ。仮にもオレたち、王宮勤めなわけですし。」
A:「そーですよ。ルカ・エヴァンス様というのは、3年前に16歳という最年少にして、国に5人しか存在しない大魔法使いの地位を賜った、超有名人です!」
B:「あの方を知らないだなんて、生まれたての赤子くらいっすよ。」
「そんなにすごいヤツなのか。だが、あまり興味はないな。魔法使いというのは、内に引き籠って、訳の分からん術式を組み上げる連中だろう?そんなことをするくらいなら、アタシは外で走り込みをするだろうね。」
B:「うわあ、めっちゃ想像できます。」
C:「まあまあ、とにかく見てみましょうよ。新人。」
「そうだな。そろそろ入団式も始まる。アタシらもそろそろ切り上げて見に行くか。」
◇◇◆◇◇
入団式後ーーー
「うわ、やっべー」
「本物か?!」
「いや流石に・・・・・・。」
「でも、目が黄金色だぞ。」
「神話級の魔力量がないと、あの色にはならないんじゃなかったか?」
「マジか。とんでもないヤツが来ちまったな。」
「俺たちどうなるんだ?」
「大魔法使いって、騎士団長よりも偉いんだろ?」
このように、入団式を見学していた騎士たちが憶測を飛ばし、同期として入団した者たちが困惑する中。
空気を全く読まない者が2人、感動の再会を果たしていた。
「ししょー、受かりましたよ!!やりました!師匠のおかげです。」
「ああ、よく頑張ったな。これは君の努力の成果だ。アタシのおかげなどと言わず、存分に誇るべきだ。」
「ですが、わたしが成長できたのは、師匠の素晴らしいご指導のおかげです。今までありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。」
「もちろんだ。アタシの特訓についてこられるヤツは、騎士団にもほとんどいないからな。君が入団してくれて、本当にうれしいよ。」
「あー。師匠の特訓って、けっこう無茶ぶりが多いですもんね。まあ、そのおかげでたったの1年半で騎士団入団レベルにまで鍛え上げられた訳ですけど。」
「そ、そんなにアタシは酷かったか?そんなことないよな、お前たち!」
ゼータが、後ろの方で遠巻きに様子を伺っていた騎士たちの方を振り返る。
B:「急に俺たちっすか!?」
A:「う、うーん。副団長の特訓は控えめに言って地獄ですね。」
「なんだと、お前たち!」
C:「青年よ、よく副団長の無茶苦茶な訓練に耐えたな。」
D:「お前は勇者だ。」
A:「よくここまで生きてたどり着いたな。」
B:「出会ったばっかだけどさ、オレ、お前のこと尊敬するよ。」
「うう。わたしの気持ちを分かってくれる人がいるとは・・・・・・!そうなんですよ。師匠ったらーーーーーー。」
C:「ああ。言わなくてもいいさ。分かってる。というか、言わないでくれ。思い出しただけで吐きそうだ。」
こうして、先ほどまで遠巻きにされていたはずの青年と、騎士の先輩との間に仲間意識が芽生えたのであった。
D:「・・・・・・なあ、1ついいか?お前ってもしかして、大魔法使いだったりしないよな。」
B:「ちょ、お前。その質問はアウトだろ。」
「いえ、ご心配なさらず。わたしは、大魔法使いなどではありませんよ。」
B:「だ、だよなー。名前が同じだったからさ。頭脳派の魔法使いが、騎士団なんかに来るわけがなーーーーーー。」
「クビになりましたので。」
B:「は?」
「先日、騎士団入団試験を受けるとアミュレッタに言ったのです。そしたら、『貴方は馬鹿なのですか!?大魔法使いとして王宮に仕えるあなたが、騎士として二重に活動出来るわけがないでしょう。』って言われてしまったのです。なので、辞めてきました。」
D:「おいおいおいおい!?アミュレッタ様って、大魔法使いのリーダーじゃ無かったか?」
A:「・・・・・・俺は幻聴を聞いたのだろうか。」
C:「すまない。オレにも聞こえてしまった。」
A:「じゃあ、集団幻聴だな。悪い夢を見てしまったようだ。」
B:「よし、お前も一緒に素振りをしに行かないか?早くこの悪い夢から覚めるんだ。」
「夢じゃないですよ?」
A:「冷静に突っ込まないでくれ!!あんた、なんで騎士団きたの!?おかしいでしょ。」
「なんでと言われましても。職業が騎士って、カッコいいじゃないですか。国中の男児の憧れですよ?」
B:「副団長はこのこと知ってたんすか?」
「はあ?アタシが知るわけないだろう。こいつの名前も知らなかったし。」
B:「ホントに師弟なんすよね?」
「剣を教えるのに名前は必要ないだろう。」
A:「そうでした。副団長って、筋肉馬鹿でした。聞いたオレが間抜けでしたね。」
「わたしは師匠の名前知っていましたよ?街の人に聞いたら、教えてもらえました。」
「そうだったのか。すまないな。どうもアタシはそういうところが抜けているらしい。普通の女性は知り合いの名前を覚えるのか?」
「師匠は、”普通の女の子”になりたいのですか?」
「ああ、まあな。昔の話だ。これでも一応、幼い頃は、村で一番かわいいと言われていたのだぞ。そもそも子供の数が少なかったから、その評価はあてにならないがな。村が魔物に滅ぼされて、騎士に助けられるまでは、概ねどこにでもいる少女だと思うぞ。」
C:「副団長って、そういえば女性だったんでしたっけ。」
A:「え、この見た目と言動だぞ。そんなわけあるか。」
「おい、お前たち!?散々な言い様だな!アタシは男になった覚えはないぞ。」
「たしかに、わたしも初めて聞いたときはとても驚きましたね。というか、今でも信じられません。」
「君もなのか!?どうしてお前たちは揃いもそろって・・・・・・。昔のアタシを見てほしいくらいだ。フリフリの服を着ていたし、髪の毛も腰まであったからな。」
「そんなに言うなら、師匠。ちょおーっとだけ、昔に戻ってくれませんか?」
「はあ?何を言っているんだ、君は。無理に決まってーーーーーー。」
「師匠って、多分30歳くらいですよね。じゃあ、25年前に設定してと。
”汝、女神ホーラーよ。呼びかけに答え、わたしの望みを叶えよ!”」
青年ルカが呪文を唱えると、眩しい光が視界を覆い・・・・・・。
A:「うわ、なんだ?!」
C:「これが魔法なのか?」
「うわあ!師匠、可愛いです!はっ、いけませんね。
初めまして。わたしはルカ・エヴァンスと申します。19歳です。あなたのことも教えてくれませんか。」
「え、えと。ゼータです。6ちゃいです!」
B:「まてまて、どういう状況?カワイイ服着て髪の毛ツインテールにしてる、この小さい子が副団長っつうことか?」
「はい。そうです。」
C:「魔法使いって、こんなこともできるんだっけ!?」
A:「いや、そんなわけあるか!!本来魔法を使うには、魔法陣を書いたり、長い詠唱をしたり、とにかく準備が必要なんだよ。しかも、それで何が出来るかと言えば、蛍の光みたいなのを出すとか、火を起こすとか。あんま実用的なものじゃないんだ。てか、はずなんだよ!!」
「え~そうなんですか?わたしの周りの人は、魔法陣とか長い呪文詠唱している人ほとんどいませんでしたよ?」
A:「そうだった。こいつもいかれてるんだった。こいつ元大魔法使いだったわ。師匠がアレなら、弟子も弟子ってことか。」
「ほめ言葉ですか?」
A:「ほめてねえよ!!」
「ルカとおじさん、どうしたのお?ケンカしちゃったのお?」
A:「お、おじさん・・・・・・。」
「ゼータちゃん、ごめんなさい。ケンカではないですよ。心配をかけてしまいましたね。そうだ!ゼータちゃん、どこか行きたいところはありますか?」
「あたちね、くまさん見にいきたい!!」
B:「副団長!?また熊を素手で倒しに行くんすかっ!オ、オレはもうあんなこと二度と御免です!!」
「たおすう?くまさんたおしちゃうの?」
「多分、ゼータちゃんが言っているのは、テディベアのことだと思いますよ。ねえ?」
「うん!くまさんのぬいぐるみ。まえのね、たんじょうびにね。おとうさまが、くまさんかってくれたの。でもね、そのこケガしちゃってね。しゅうりにだしたんだって。だから、しゅうりやさんにいって、もうだいじょうぶ?ってききたいの!!」
B:「副団長が、テディーベア・・・・・・。」
「ゼータちゃんは、そのお店がどこにあるのか知ってますか?」
「しらなーい。」
「では、ゼータちゃんの父君に聞くしかありませんね。じゃあ、そろそろ帰りましょうか。」
「ばいばい、するの?」
「はい。」
「また、あえるう?」
「会えますよ。」
「そっかあ、じゃあ。まってるね!」
「ええ、ぜひ。」
ゼータの輪郭がだんだんとぼやけていき、まばゆい光が辺りを包み込む。
光が収まると、ゼータは大人の姿に戻っていた。
幼いゼータは、元の時間に戻ったようだ。
「あれ、アタシは???」
「おはようございます、師匠。師匠って31歳だったんですね。」
「なぜルカがそんなことを知っているんだ?!」
「ふふ。魔法使いの秘密です。先輩方も秘密にして下さいますよね?」
A:「あ、ああ。」
C:「もちろんだ。」
その後、ゼータへの、騎士たちからのあたりが少しだけ優しくなり、誕生日にはぬいぐるみが送られるようになったという。
そして、ルカ・エヴァンスは、大魔法使いアミュレッタの強い希望により、大魔法使いの名を返上することは叶わなかったが、騎士団担当魔法使いとして活動することを許されたという。
おしまい。




