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動物研修  作者: アズキ


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4,否定

長谷川の目はいかんせん、生気を感じさせない。

祥生と悠太のアンケートを見ても表情が変わることはなかった。


だが、座っている人たちの方向を向いた途端、口元が少しニヤついたように祥生は見えてしまった。

そして、ホワイトボードに2枚の紙をマグネットで貼り付ける。


紛れもなく、それは2人のアンケート。

しかし、その2枚は裏返しで張り付けられていた。


「アンケートのご協力、ありがとうございます。

では、ここからこのアンケートを使って話をしていきましょうか。」


え?内容を公開するのか?

と祥生は思った。

せっかく親にバレずに済むと思っていたのにら公開されたらアンケートの意味がないではないのかと。


「1つ目の質問は『動物園は必要か?』というものでして。

それに対して、2人はどちらも『はい』と回答しました。理由はどちらも似ていた。

大雑把にまとめると、『肌で動物のことを感じるべきだと、それによって学習を人間がするべき』でしたね。」


紙は裏返しのまま長谷川は話し出した。

親に自分の文章を見られずに済んだと少し安心していたのだ。

親たちも自分たちの文章のまとめを聞いて納得しているように顔を縦に振って頷いていた。


「ところで、研修生はもちろん知ってると思いますが、動物園の4つの役割は知っていますよね?

『種の保存』『教育・環境教育』『調査・研究』そして『レクリエーション』です。

そのうちの1つに2人の意見は合致している。

ですが、なぜ、学習をしなければならないと思いますか?」


「その動物に触れて、その動物がどんな状況におかれているのかを知る必要があるからです。」


祥生の口からはそう言葉が発せられていた。

習ってきて自分が大切だと思っていることを口にしただけだった。


「状況というのは?」


「そうですね、例えば、絶滅の危機に追いやられているとか、住む場所が減っているとか。」


長谷川の話に頷くように、祥生の話にも親たちは頭を縦に振った。


「けれども、その状況下に追い込んでいるのは、一体誰なんでしょうかね?

2人が学ばなければならないと感じているものは、とある生物によってもたらされているものなのですよ。それが何か分かりますか?」


「人間…ですね。」


今度は悠太が答えた。

親たちの表情が少し曇り始めているように思える。


「そうです。

人間が環境を壊さなければ、動物たちがそんな状況にいる必要もない。

私たちが学ぶ必要もなかったはずなんです。そう思いませんか?」


確かに…

と、祥生と悠太は思ってしまった。

動物の専門学生として、この意見に同意してしまったことに少し不安を感じていた。


「それに、動物園の起源は貴族のような偉い身分の人々が自分たちの力を見せるための見世物だった。

4つの役割というのは人間が都合よく付け加えた後付けの設定だ。

人間が動物を支配していたいという欲求から生み出されたものなんです。

3つ目の質問ですが、人間が動物を支配することに対してどのように思うか、というものでしたね。」


ここまでの話の展開で確実に長谷川のペースに飲まれていることだけは確かだった。

祥生と悠太の思っていること、いや、ほとんどの人間が思ってきたであろうことを全て否定されたというのに、妙に納得がいってしまう内容だからだ。


そして、3問目は2人が1番悩んだ部分。


「小川さんの方の意見は私もそう思いますね。

あまり手を出すべきことではなかったと。

しかし、黒田さんの意見の必要なことだったというのは少し引っかかります。

確かに、必要なこともあることは認めましょう。

しかし、手を出してはいけない領域まで人間が踏み込んでしまっていることは確かだと、私は考えています。特に動物園に関しては…」


祥生は悠太の方をチラッと横目で確認した。

少し動揺していて、呼吸が乱れているように見える。

それもそのはずだ、長谷川の異様な雰囲気が話し始めると同時にさらに不気味さを増していて、否定されていないというのに祥生も呼吸が乱れている気がしたからだ。


「人間は、自分たちの都合のいいように物事を上書きする。

昔は4つの役割など気にする人はいなかった。

それなのに、環境が悪化し動物たちが数を減らせばその時だけ何とかしようともがく。

人間が一定の範囲で暮らしていける存在であれば、環境は穏やかなままだったと思いませんか?

自分の利益の為だけに不利なことには目を瞑る、それが人間なんです。」


部屋の空気がいっぺんに変わる。

まるで恐ろしい何かが部屋に入ってきたかのように。

親も祥生と悠太も、その場に氷漬けにされたかのように動けずに言葉も発することもできなかった。


ただ、長谷川の意見を聞き、その内容が理にかなってしまっていることを受け入れるしかなかったのだ。

それだけ、長谷川は人間を嫌っているということなのだろうか?

そうしたら、人間の1人や2人殺めている可能性すらあるのではと良くない妄想が祥生の頭の中で広がってしまう。


だが、部屋の空気はジェットコースターのように変化した。


「すいませんね。

勝手な自論を展開させてもらいました。

これからの研修ではこのような考え方が出てくるのでウォーミングアップ的な意味合いも込めてやらせてもらいました。

少し、怖かったですかね?

それは申し訳ない。

大丈夫です。これから話すのはこの研修で何をするのか、そしてそれぞれの役割について話していきます。」


長谷川はニコッと人の良さそうな笑顔を浮かべたが、いかんせん目は笑っていないままだ。

親たちは「な〜んだ。」とでも言うような安堵の表情を見せている。

呑気なものだと、祥生だけが長谷川の異質さを疑っていたのだ。


果たして、研修の内容とは…

そして、親にも与えられているという役割とはなんなのか…

嫌な胸のざわめきを抑えながら祥生は聞くことにした。

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