3,アンケート①
施設の中は、まるで博物館のようだった。
いや、病院と博物館の合体、とでも言うべきだろうか。
通路の両脇にはガラス張りの展示物がある。
しかし、動物に関連するものはない。
人間の身体についてや、人体模型が何個か置かれているだけだ。
「なぁ、ここにあるの、みんな人間のだよな?この施設って動物の研究をしてるんじゃないのかな?」
悠太が聞いてきた。
「んな事言われても分かんないよ。ここは人間ゾーン的なものなんじゃないか?どこか別の場所に動物の《《剥製》》があったりしてな。」
「そうだと思うんだけど、なんていうか、気味が悪いだろ?」
悠太がヒソヒソ声で言ったが、その通りだ。
周りにある人体模型や、人間の解剖図は見ていて気味が悪い。
まるで自分たちが解剖されているかのような気分になってくる。
それに、作り込みがすごいのか分からないが本物のように見えてしまうのがさらに気味の悪さを際立たてていた。
そう思っていたのは祥生と悠太だけではないようだ。
彼らの親たちも施設の中を気味悪がっている様子だった。
展示品を見る目は「気持ち悪い。」と訴えかけるかのような眼差し、産まれた時から一緒にいるんだ、それぐらい分かる。
特に祥生のお母さんはそういうのをハッキリ言うタイプだったから、今の時点で言葉に出していないことに驚きさえしていた。
2階に続く階段を登り、教室のような部屋へと案内される。
「ここでお待ちください。責任者が来ますので。」
それぞれ椅子と机が6個ずつあり、全員が席に着いた。
席に着いてもやることは変わらない。
親たちは雑談で盛り上がっている。
祥生と悠太はまだ下の階にあった人体模型について話していた。
「なぁ、悠太。気のせいだといいんだけどさ、下にあった人体模型、なんだか本物の人間の肌に見えたんだけど。」
「ちょ、おま、なんてこと言ってんだよ。そんな訳ないだろ?あと、そういうのがもし勘違いなら、すんごく失礼なんだからもっと声量落とせって。」
「あぁ、ごめん。いや、本当にそう見えたんだって。まぁ、この施設の再現力が凄いってことなのかもだけどさ。」
「そうだとしたら、俺らがやることもかなり大きなことかもな。ちょっとワクワクしてきた。」
「最初からワクワクしてるだろ。それに、俺らはあくまで研修生、危険なことはさせて貰えないだろうよ。」
悠太は「ちぇ。」という顔をして手を頭の上で組み天井を見つめる形となった。
研修先なのに失礼なのはどっちだと祥生は思ったが、注意はしなかった。
責任者が部屋へと入ってきた時の悠太の焦る姿を見たかったのだ。
こういう部分だけを見ると、祥生も真面目だと言えるような存在ではない。
案の定、責任者が部屋へと入ってきた時、悠太は焦りながら姿勢を正した。
それを見て祥生は吹き出してしまうのを必死に堪える。
入ってきたのは、スラッとした175cmぐらいの身長をした30代ぐらいの男性だった。
もちろん白衣を着ている。
ストレートの髪の毛は男の中では少し長めの部類だ。
前髪は少し目にかかる程度。
彼は両手を後ろで組み、少し高圧的な態度に思えた。
それよりも祥生が1番気になった部分は彼の生気のない眼差しだった。
本当に生きているのかっていうぐらい目に生気がなく感じられたのだ。
彼はホワイトボードの前に立ち、話を始めた。
その瞬間、彼が笑ったのだ。
生気のない目からは想像もできないほど口元は満面の笑みといった感じになっていた。
「研修生の皆さん、とそのご両親方、今回は私の研究所を研修先に選んでくださりありがとうございます。
ここの責任者、そしてあなたたちの担当者になります長谷川と申します。よろしくお願います。」
喋り方も至って普通。
というより、目を瞑り、喋り方だけを聞けば本当に気のいい人だと思えると祥生は思った。
しかし、顔を見るとそうでもないだ。
目が全く笑っていないように見えてしまう。
それが少し怖いまであった。
「今回、ご両親をお呼びいたしましたのは、お子様がどのような役割をするのかを説明する際に聞いて貰うためです。
もちろん、ご両親にも《《役割はあります》》。
それも後でしっかりとご説明いたしますので。」
そう言うと、長谷川は後ろに隠していた両手を前に持ってきた。
その手には紙が2枚ある。
それを祥生と悠太の机に置いた。
両親たちはその紙を何の紙だろうと覗き込もうとしている。
テストでカンニングをするみたいな動作に祥生はまた笑いを堪えた。
「研修生のお二人には少しアンケートを取らせてください。
紙に直接書くだけで大丈夫ですので。
研修生がアンケートを書き終わるまで少々お時間をいただきますね。」
両親に声をかけたあと、長谷川は祥生と悠太を見守った。
2人はカバンの中からシャーペンを取り出し、アンケートに取り組んだ。
両親たちはそれぞれスマホを触っていたり、話をしていたが誰1人として長谷川に話しかけようとはしなかった。
彼の異質な雰囲気からだろうか?
それとも、祥生と悠太を見守っているのを邪魔しないようにと空気を読んだのだろうか?
そんなことはどうでもいいと、頭をアンケートに祥生は戻すことにした。
アンケートの内容はこうだ。
Q,動物園は必要だと思いますか?
はい、いいえ
Q,上の回答でそう答えた理由を教えてください。
Q,人間が動物を支配することをどう思いますか?
この3問だけ。
だが、祥生も悠太もどう回答すればいいのかとても難しいアンケートだった。
特に、動物関係の仕事を目指そうとしている人にとっては、ある意味苦痛になりえてしまう可能性すらあるのではないかと思いつつペンを走らせていた。




