16,油断
2つの部屋から、2人の人間が消え、施設の中は少し静かになった。
2人が来る前の施設のように戻る。
そして、1つのトラックに積まれた1つの死体が運ばれてくる。
もちろん、それは祥生の死体だ。
報告を受けていた長谷川は死んだような顔で死んだ祥生の遺体を見る。
その場には小澤もいた。
長谷川は、ため息をつく。「またダメだったか。」と言葉を吐き、その場を去る。
小澤は自分が死体の処理をすると言い、祥生の死体を運び出した。
長谷川は研究室へと戻り、結果を記録する。
今までこの施設から人間の社会へと戻れたものはいない。
ここから逃げた全ての人間が、人間を恐れるようになってしまうからだ。
動物園の動物は自然に返せば生き方を知らないため、死んでしまう。
人間は頭が発達している。
そのため、この施設のことが頭から離れずに、生き方は分かっているはずなのに、自ら死を選ぶような行動をしてしまうのだ。
長谷川は気がついていた。
この施設で飼育していた人間が社会に戻ることなど不可能だということ。
人間が生み出してしまったサイクルを壊すことなど今更できないのだと。
それは動物園や畜産、ペットにすら言えること。
長い間研究してきた長谷川が気が付かないわけがないのだ。
ではなぜ、彼は実験を続けようとするのか?
それも彼自身は気づいているはず。
それでも彼は、その事実に気が付きたくはないのである。
それを認めてしまえば…
この時の長谷川はそんな思いにふけっていて、完全に油断してしまっていた。
部屋に誰かが入ってきたことにも気が付かずに、ただ記録をずっと眺めている。
そして、首に何かを刺されたような痛みを感じた時、やっと部屋に人がいるということに気がつく。
刺された部分から何かが注入されてくるのが分かる。
意識を保つのが段々と辛くなってくる。
瞼を閉じたくないのに、勝手に重くなり、最後には完全に気を失ってしまった。




