15,トラウマ化
自分と走る方向とは逆の方向から光がこちらに迫ってくる。
車だ。
祥生は安堵し、道路の真ん中に立った。
車はブレーキを踏み、中から若めの男が顔を出し、注意を呼びかけてきた。
そんなことは気にせずに、祥生はドライバーの元へと近寄り、「助けてくれ」と懇願。
ドライバーもただ事ではないことを悟り、祥生を助っ席に座らせた。
追っ手が来るかもしれない。
とりあえず今は説明よりもこの場を離れるべきだと考えた。
「とりあえず出してください!」
これを合図に車は走り出す。
説明する気力が今はなかった。
ただ、あの場所から離れたい、それだけが望み。
少し走った矢先、ドライバーが「何があったんだい?」と優しい言葉をかけてくれた。
その言葉は優しかった。本当に、優しかった。
けれど、祥生は彼の顔を見た瞬間、恐怖を覚えてしまう。
それは「人間」に対する恐怖。
人間に監禁され、動物のように飼われたという事実。
1ヶ月という期間が彼の精神に異常をもたらしていたのだ。
祥生から見たドライバーはまるで、黒い顔に赤い目が光ったようなおぞましい顔に見えた。
そして、自分をどうしてくれようか考えているように見えてしまう。
優しい言葉をかけてくれたというのにそれも響きはしない。
全身に冷や汗をかき、治まりかけていた荒々しい息遣いも戻ってきてしまっていた。
祥生から見た人間はあの施設の人間でなかったとしても自分にとって害があるものだと、一種のトラウマ化していたのだ。
「このままだと殺される。」とそんなことあるはずも無いというのに、心の中でそう呟く。
そして奇行に走り出す。
「出してくれ…」
「え?」
「ここから出してくれ!」
車のドアを必死に開けようとした。
ドライバーも満身創痍だったのであろう、鍵がかかっていなかったのだ。
ガチャッ…
ドアが開き、祥生の体は車の外に投げ出される。
運の悪いことに、出た直後に反対車線からトラックが走ってきた。
焦りから前を見ることもしていなかったことが招いた結末。
即死だ。
トラックの運転手は車の運転手に見なかったことにすると言った。
自分が警察に連絡すると。
車のドライバーも面倒事を引き受けてくれることはそうそうないと思い、その場を後にした。
実はこのトラックの運転手はなんの偶然か、あの実験施設の人間のもの。
警察に死体が渡ることはない。
普通の人間が扱う車の事故であるなら少し希望があったかもしれない。
それともこれも施設側の計算のうちなのだろうか?
少なくとも、祥生が逃げたことに関しては、施設側の手の内だったということは確かだ。
追っ手が来なかったのも、すんなりと逃げられたのも彼らの思惑通り。
全ては実験なのだから。




