14,脱走
バックヤードで1人、悠太が助けを呼んでくれるのを待つ祥生は何も考えられなくなっていた。
昨日までは隣に友人がいるという安心感があったのだが、今は孤独。
施設から出ようという考えも、底を尽きそうになっていたため、考えることを1回やめていたのだ。
そんな時、1人が近ずいて来る音が聞こえたのだが、祥生は気にも止めなかった。
声で分かったが、小澤だ。
「これでも食べるか?」
小澤は前と同じくチョコレートを差し出してきた。
祥生の中にふと1つのアイディアが降ってきたような気がしたが、今はそれは明確には分からない。
祥生はチョコレートを受け取り、口の中へと放り込む。
その味はムカつくほど甘くて優しい。
この状況とは大違いだなと、美味しいはずのものに対し、悪態をつくまでになってしまっていた。
「今日は受け取るんだな。
よければ、これから毎日何かしら持ってきてやろうか?」
そう言いながら、小澤は手でジェスチャーのような仕草をした。
これは、自分には言葉が通じないという設定のためであろう。
理解をしていた祥生は小澤の方を見ながら頷いた。
彼の目は自分のことを本当に可愛がろうとしているような目に見えてしまう。
しかし、彼がそんなふうに見ないものが1つあった気がする。
それは一体なんだったっけ?
頭の中で過去の記憶を探りながら、今の小澤の顔と照らし合わせてみる。
その答えは頭を回転させなくても分かった。
分かったと言うよりは答えが向こうからやってきたと言うほうが正しい。
その場に長谷川が現れ、祥生に向かって話しかけてきた。
「お友達の件は残念だ。
あの森に入るとは予想外だった。
無事を祈る他ないな。
あ〜それと、学校の方なんだが、連絡がこちらに来ても無駄だ。
帰ったと伝えて、親に電話させる。
君の親を偽って話をするからね。」
学校からの助けを待つのは得策ではなかった。
でも、そんなことよりも1つ気になったことがある。
それは小澤が長谷川を見る目だ。
自分を見る目と明らかに違う目をしている。
それが何を意味するのかまでは読み取れやしなかったが、少しの違和感があることには変わりなかった。
その後、長谷川はその場を去り、小澤が残る。
彼は何も言わなかった。
ただ、祥生のことを見つめて、数分そうした後、その場を去った。
それから毎日、小澤は色んなお菓子を祥生の元へと持ってきてくれるようになる。
そして、祥生が生活するスペースが段々と変わっていく。
楽しめると施設の人が感じるものが増えていった。
俗に言う「環境エンリッチメント」だ。
動物が退屈するのを防ぎ、本来の行動を引き出そうとする目的で行うもの。
だが、大抵はいいものとは言えない。
作って終わりのでは意味がない。
というか、最初に目標を立てなければなんの意味もないのだ。
実際、祥生の環境エンリッチメントに対して記録を行っているのは小澤ぐらいで他は反応を観察するだけだった。
そして、作るれたものや、展示場に入れられたものはそのまま放置されている。
それが1ヶ月続いた。
とっくに悠太のことは諦めてしまっていた。
これだけ待って助けが来ないということは、そういう事だろう。
悲しみに暮れたりもしたし、ベットの枕を何回濡らしたか分からない。
それでも、祥生は施設からの脱出を諦めていた訳ではなかった。
そしてチャンスは巡ってきたのだ。
いつものようにバックヤードで小澤からお菓子を貰う。
今日は少し大きめな飴玉を貰った。
これを祥生はチャンスだと確信している。
小澤がその場から離れ、どこかへと行った時、飴玉を口の中へと入れ、苦しい振りをして、その場に倒れた。
飴玉を喉に詰まらせたというフリだ。
監視カメラがついていたため、すぐさま施設の人間が走ってきて、バックヤードの扉を開ける。
運が良いことに、来たのは1人だけだった。
施設の人間が近ずいてきた瞬間、そいつをなぎ倒し、外へと出た。
施設見学を行っていたおかげで、どこに何があるのかは把握している。
そのまま「何事もなく」外に出ることができてしまった。
この時、悠太を逃がした時に感じた違和感を覚えたが、構っている余裕はない。
外に駆け出し、一心不乱に走った。
最初に通ったフェンスゲートが鬼門だと思っていたのだが、扉は真ん中に人が1人すり抜けられるほどの隙間があることに気づく。
そのまま道路沿いに必死に走った。
そのうち、1台の車が通りかかるのが見える。
救われた…祥生はそう思った。




