13,暗い森の中
時間は少し遡る。
悠太は祥生の肩を借りて外へと出た頃だ。
外壁の向こうへ出たあとはただひたすらに走るだけだった。
自分がどこを走っているのかすら分からないのに前に突き進んでいく。
彼に当たる風や木々の葉、枝はまるでそっちへと行くなとでも言うかのように行く手を阻んでくる。
その導きには従わずに悠太は走った。
だが、ある程度走ったところで軽くバテてしまう。
走ることはやめても、歩みを止めることはしなかった。
ただ前へと進む、それだけを頭の中で巡らせ、体へと指示を出している。
パキッ…
別に、森の中では珍しい音でもない。
枝でも踏んだのかもしれないと、普通なら素通りする音。
けれど、走っていた悠太にとって、初めて聞いたかのような違和感を感じる音だった。
枝ではない、何か別のものを踏んだような。
地面から足を離して、下を見てみる。
すぐに何か分かった。
それは骨だ。骨を踏んだのだ。
一体なんの動物の骨なのだろうか?
彼の頭の中からは長谷川が説明していたこの施設の所有地である森にいることが完全に消滅していたのだ。
しかし、彼もさらに歩いた先で理解する。
その骨がなんの骨なのかを。
森には珍しい色が点々としている。
それらは全て骨であったのだが、1つの骨を見た時、自分が不味い状況に置かれていることに気がつく。
人間の頭蓋骨が転がっていたのだ。
そこでようやく思い出す。
ここが施設の所有している森だということを。
あの施設の人間が考えることだ、この森に凶暴な野生動物を放っていたとしても不思議ではない。
それに襲われた哀れな人間の白骨を見てしまったのだと、悠太はそう解釈した。
そして、その動物に出会わぬうちにここから外へと出なければと、さらに歩みを進める。
日が沈み始め、辺りが暗くなり始めた時、森の端まで来れたことが分かった。
それと同時に、どうやって出れば良いのかという絶望感も生まれた。
森の端というのはさらに高い外壁で囲まれていて人間がいくら登ろうとしたところで外へと出ることはできないだろう。
悠太は必死に外に出る方法を考えた。
しかし、その方法は浮かばない。
無駄な時間だけが過ぎていく。
気がつけば辺りに明かりは全くなくなり、夜になっていた。
ガサッ…
悠太のすぐ後ろから物音が響いた。
追っ手か?施設のやつが捕まえるために来たのか?
それとも、野生動物か?
暗くてよく見えないが何かが動いている。
そして考える暇もなく、それは襲いかかってきた。
反射的に悠太はその場から逃走。
後ろを振り向く余裕はない。
疲れきっている体の最後の力を振り絞り全力疾走をする。
だが、その努力も虚しく後ろから何かが走ってくる音は迫ってくる。
疲れきった体が最後の力を振り絞ったってたかがしれているのだ。
後ろから迫る音が更に近くなった時、誘惑に勝てずに悠太は振り向いてしまった。
それは動物とは言えないような形をしていることが分かる。
だが、暗くて何なのかは全くわからない。
そして、振り返りながら走ったことと、暗くて足元が見えないことが重なり、悠太はその場で転んでしまった。
慈悲などはなく、暗がりで謎の生物に馬乗りにされる。
悠太はうつ伏せで、その生物を見ることはできない。
だが、妙に腕を掴む手が何かに似ていることに気づく。
相手の力が強く振りほどくことはできない。
次の瞬間、首の辺りに激痛が走る。
何をされたかは明白だった。
その生物に噛まれたのだ。
噛まれた部分から血が溢れ出し、悠太は人生で1回も出したことのないような悲鳴をあげる。
激痛と首を噛みちぎられてしまったことで意識が飛びかけてしまう。
最後の抵抗で暴れたが、彼がそれで得たのは自分の腕を掴むものを見ることができたということだけだった。
そしてなぜそれが、何かに似ていると分かったのかハッキリしたのだ。
悠太の上に乗り、彼の首を噛みちぎったのは追っ手でも野生動物でもない、「人間」だった。
それを理解した上でも頭の中は追いつかない。
なぜ人間に襲われている?
なぜ自分を食べようとしている?
共食いをしなければいけない理由を彼は知らなかった。
この森には食べられるものがほとんどないといってもいいからである。
森ならば少しは食べるものがあると思うかもしれないが、この森は針葉樹。
針葉樹というのは人間が素材として人工的に育てる木々のこと。
そして、動物たちにとっては餌になる要素がほとんどないと言っても過言ではない。
そんな森で暮らしていれば、食べ物を求めて共食いに走ってしまうのも無理はないのだ。
人間同士の共食いは病気になるリスクがあるということも知らずに。
けれど、その病気に対抗出来る免疫を手に入れてしまう可能性すらあるのだ。
そんなことも知らずに、何も得ることができずに、悠太は悲鳴をあげ続け、数分後にはこと切れてしまっていた。
あとは食べられ、白骨になるのを待つだけなのだ。




