7,アナウンス
祥生と悠太の部屋に同じ声が響く。
その人物の姿を見たのは1度だけだと言うのに、なぜだか声を覚えてしまっている。
声の主は長谷川だ。
『目覚めましたか。
研修内容の見学は明日から始まりますが、既にあなたたちは展示動物です。
外を通りかかる人間にいくら話しかけたところで、あなたたちの声は動物です。誰も理解はできません。
唯一、理解できるのは私、長谷川だけです。』
祥生も悠太も理解したことが1つあった。
どれだけ、外の人間に話しかけたところで、誰も理解しないわけだ。
今、自分たちの声は動物の鳴き声と同等なのだから。
監視されながら、人々の見世物となり、これから生きていかなければならないという絶望。
どうにか逃げ出す方法を考えなければと、脳は必死に考える。
けれど、死が隣り合わせであるということも理解していない訳ではなかった。
目の前で父親を殺された悠太は特にだ。
『まだ消灯の時間ではないので、そのまま、展示場で過ごしていて下さいね。
消灯の時間が来た後に、バックヤードの部屋へと繋がる通路を開けます。』
学校でやっていることと似ている。
夜はケージや、室内で飼い、昼は外の放飼場や違う見せるためのケージで飼うのだ。
その間に行うことといえば、掃除。
おそらく、この施設も同じようになっているはずだ。
通路、と言っていたため、収容の時間に逃げ出すという方法は不可能に近いだろう。
自分たちが展示場だけでなく、外に放飼場があり、そこへ出して貰えるなら脱走のチャンスが巡って来るかもしれない。
明日の施設見学でそれを見極めるしかない。
それからアナウンスはなくなった。
時だけが過ぎていき、ガラス越しにこっちを見る人の目が痛く、祥生は布団の中に潜っていた。
悠太はというと、ベットに座り、頭を抱えている。
目の前で実の親を殺されたのだ。
無理もないだろう。
精神状態を保つのも難しい状態になっているはずだ。
おまけで、こんな所に監禁されてしまっているのだから。
何時なのかも分からない状態で、ただ時が過ぎるのを待つ。
部屋に時計はない。
家具は用意されているのに、時計はないのだ。
万一に備えてなのか、家電などもない。
いくら考えても、頭にあるのは恐怖と不安。
途中でトイレに行きたくなったが、壁などがある訳でもないので、ガラスの向こうから丸見えだ。
故にトイレなどできたものではない。
収容の時間を待つことにした。
体感、1時間半ぐらい経ったのではないかと思った時、再び長谷川の声でアナウンスが聞こえる。
『収容の時間です。
今から扉が開きます、そのまま通路を通ってバックヤードに進んでください。』
祥生は言われた通り、扉が開いたあと、通路を進んだ。
部屋に着くと、展示場とは違い、細かい網目の鉄格子のような場所となっていた。
もちろん、ベットやその他の家具、風呂、トイレもついていたが、展示場に比べてみると監獄という言葉が似合う場所だ。
そして、すぐ隣で音がした。
網越しに見てみると、向かい側にも同じ部屋があり、そこには悠太が収容されていたのだ。
「悠太!よかった、バックヤードだと一緒だし、話せるんだな。」
「それは良かったけどよ。今の状況は全く良くねぇよ。
どうすんだよ、ココから一生出れねぇなんてたまったもんじゃねぇよ。」
「それは俺も今考えてる。
あの…お父さんの件は…」
「言うな!もう思い出すのはウンザリだ!
麻酔を打たれて、効果が切れてきた時ぐらいからずっとあの場面が頭に流れてきたんだ。」
悠太の声は若干だが、震えていた。
泣くのを必死に堪えているといったところだろうか?
だが、この状況を打破する方法を考えるには、2人で協力をする必要がある。
この収容の時間が唯一の話せる瞬間。
その時間を無駄にしないようにだけ気をつけよう。
祥生は変に冷静な頭に切り替わった。
「この時間だけが作戦会議ができる時間だな。」
「作戦会議?」
「ココから出るためのだよ。」
「おい、そんなに大きな声で言うなよ。
おそらくはこの場所も監視カメラか何かで見られて、聞かれてる。
そんなことをデカい声で話したら即バレだろ?」
「あぁ、そうだな。悪い。
とにかく、明日の施設見学でどうにか穴を見つけないと。」
「それは俺も思ってた。
ただ、普通に歩いて施設見学なんて、甘いもんじゃないと思うぜ。」
「そうだよな…」
悠太の言う通りだ。
囚人のように歩いて回るとは限らない。
どれだけ、この施設が警戒をしているかということで、自分たちの運命が決まるのだ。
隣に悠太がいる状態でトイレをするのは嫌だったが、仕方なく用を足した。
風呂も、トイレも何もかもが筒抜けの状態というわけだ。
それは展示場の中でも、バックヤードの中でも何も変わらないこと。
時間になると、白衣を着た人が、夕食を持ってきてくれた。
健康に気を使った栄養バランスが考えられていそうなものだ。
食べないわけにはいかない。
いざと言う時に、空腹では何も出来ないからだ。
2人は食べ終わると、それぞれが風呂を済ませ、ベットに横になる。
部屋以外に明かりはなく、電気を消してしまえば真っ暗にすることができるようになっていた。
相変わらず、時計はないため、早めに寝ることにした。
「なぁ、悠太。」
「何?」
「俺たち、ココから出られるのかな?」
「分かんねぇ。でも、こうなっちまったからには仕方ない。何としても逃げる方法を探さないと。」
そうして2人は眠りについた。
この時点で彼らは人間ではなく、人間にされてしまったのだ。




