幕間:盤上の支配者たち
混乱を極める城内の一角。影に溶けるようにして、その様子を窺う男がいた。
魔法都市ミストラルが放つ二重スパイ――メギナス・サレン。
彼は窓から、広場で荒れ狂う紅蓮の雷光――ガドルフの最期を冷ややかな目で見下ろしていた。
「……あの、ガドルフがやられるとは。しかも、あれはただの風魔法だぞ。まさか本当に『災厄』なのか?」
直後、爆音が響き、天守すら揺るがす衝撃が走る。
「アリウス。もはや貴様に掛けるしかないか。……さて、鬼が出るか蛇が出るか」
メギナスはそう言葉を残すと、音もなく闇へと消えた。
+ + +
「不完全だ。あまりに、不完全すぎる」
ヴァレリウスは、血の海と化した広場を見下ろし、吐き捨てるようにつぶやく。
ギルド長の死も、王の無能さも、アリウスという『バグ』の脱獄も、すべては人間という不確かなシステムが招いたエラー。
「この不完全な世界を『修正』できるのは――もはや、この私しかいない」
彼は己の信ずる正義という名の狂気を瞳に湛え、一人、静寂に包まれた教会支部へと歩を進めた。
――冷たく、暗い教会。
灯りもつけず、ヴァレリウスは一人、祭壇へ跪いた。
自らの意識を神聖な領域へと沈め、彼は静かに、祈りを捧げる。
≪スキャンを開始……完了≫
≪対象:適格者候補 [VALERIUS BLACKWOOD]≫
≪魂の適合率:70%≫
≪クエリ:付与済みプロトコル『CODE: Tartaros』の昇華≫
≪昇華条件:適合率80%以上 ―― [警告:条件未充足]≫
≪プロトコル移行:適格性確認フェーズを強制執行します...≫
≪権限限定譲渡:CODE: Keraunos≫
≪最優先事項:CODE: Atropos の排除。付随する世界不全を全て消去せよ≫
≪≪最終指令:PURGE DISORDER. ――『粛清』を開始せよ≫≫
脳内に鳴り響く無機質な『神』の啓示。それが、彼の狂信に絶対の正義を与えた。
掌に収束するのは、純白の輝きを放つ秩序の象徴――『CODE: Keraunos』。
「ふん。神はまだ、この私を試されるというのか。……よかろう。かつての私の『家族』のように、すべてを白く清浄な輝きへ戻そう」
彼の瞳には、救済ではなく、一切の情を排した「抹消」の光だけが宿っていた。
+ + +




