幕間:歪む歯車
サイラスはギルドに向かいながら、前日のことを考えていた。
(あの魔法はなんだ? いつの間にあんな力を……。
教本を完璧に修めたおれが、あいつのデタラメな魔法に翻弄される。メギナス様も、おれではなくあいつばかりを見ていた。
昨日のドラゴン戦だってそうだ。あいつは最初から一人でやれた。トドメを譲ったのは、憐れみか?
……ふざけるな。アリウス、きさまはずっと、おれを見下していたのか?)
ギルドに到着したサイラスは、そこで足を止めた。
見慣れたはずの入り口が、異様な静寂に包まれている。
そこに鎮座していたのは、白と金で装飾された豪奢な馬車。間髪入れずに、ギルドの入り口から純白の衣をまとった集団が現れる。
(なんだ……あいつらは? 聖都の……?)
その集団の中心で、サイラスは信じられないものを見た。後ろ手に拘束され、連行される人物――アリウス。
「ア、アリウス!?」
思わず叫ぶサイラス。
だが、先頭を歩いていた長身の男は、サイラスの方をチラリと見ただけだった。路傍の石ころでも見るような、完全なる無視。
男は塵一つない衣を翻して馬車に乗り込み、アリウスもまた、無言のままその闇の中へと消えていく。
馬車が遠ざかる音だけが響く中、サイラスは呆然と立ち尽くした。
「いったい……何が起きてやがるんだ……」
サイラスは急ぎギルドの中へ入り、ギルド長室の方から歩いてくるメギナスを見つけた。
「メギナス様! 今、聖都の者が……」
「ああ、アリウスに異端審問の令状が下った。そして、ギルド長はアリウスを正式に破門した。もう二度と戻ることはないだろう」
(アリウスが、異端……? …………は、はは。……そうか、そういうことか)
サイラスの脳裏で、閃光のように辻褄が合った。
(あいつの異常な強さは、才能じゃなかった。努力でもなかった。……すべては、禁忌に手を染めた結果だったのか)
ストン、と胸のつかえが落ちた。自分が劣っていたわけではない。相手がルールを破っていただけなのだ。
(所詮は、呪われた『オルフェウスの血』か……。憐れなものだ)
サイラスの中で何かが、歪な音を立ててカチッとはまった。
「……アリウスだけじゃない。教会に目をつけられた以上、このギルドも終わりかも知れんな」
「いえ、私がおります! このギルドの秩序は、この私が正してみせます! ――では、失礼します」
そう言うとサイラスは、奥へと歩いていった。その瞳からは迷いが消え――代わりに、どこか昏い光が宿っていた。
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