表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FATAL LOOM  作者: 水織慧
第一章
2/18

第二話:秀才

 サイラスは、その光景をにわかには信じられなかった。世界屈指の防衛力を誇るトライア騎士連合。その防御の要である重装騎士隊。彼らが一歩たりとも後退する姿など、これまでに見たことがない――ましてや、たった一撃で吹き飛ぶなど。


(次元が……違いすぎる……まずいな、皆、平静を失っている。すぐに手を打たなければ!)


 サイラスは腰から格納結晶(ルーン)を取り出し、軽く握りしめる。呼応して緑の光が(あふ)れる。――直後、『風』の核が出現。すぐさま両足へ(まと)わせると、眼前の敵を見据えた。



 ――伝説級の魔物、漆黒のドラゴン。



 黒曜石のごとく硬質に輝く身体は、それ自体が底しれぬ深淵を体現していた。その闇の中に、熾火(おきび)のように不気味に、紅蓮の光を潜めた双眸(そうぼう)


 それが、サイラスたちを捉えた――直後、耳をつんざくような咆哮が轟く。


「くっ!」


 左から突き刺すような殺気。歴戦の勘が警鐘を鳴らす。


 ――黒い壁。

 否、ドラゴンの巨大な尻尾が、盾を失った魔法騎士団を薙ぎ払わんと今まさに迫っていた。


「――っ! 左だ! 避けろ!」


 間一髪、サイラスは空中へ回避。他にかろうじて反応できたのは、わずか数人。だがそれ以外の者は、なすすべなく漆黒の壁に呑まれていった。


 荒い息を吐きながら、サイラスがなんとか地面に着地した、その瞬間。


「――サイラス!」


 一陣の風が舞い、音もなく一つの影が降り立った。彼はサイラスの隣に滑るように着地すると、静かに顔を上げた。


「――アリウス、か。はぁ、はぁ……遅いぞ、貴様! ……チッ、見ろ、この惨状を……。到着したところでもはや手遅れかもしれんがな。……くそッ。それより、メギナス様を見なかったか?」


「……メギナスはすぐ来るはずだ」


「――! おい、口を慎め。『様』だ。何度言わせるつもりだ」


(……すぐ来る、だと? まさか直前まで一緒にいたのか。いや、あり得ない。『A級』の俺ですら謁見できないあのお方が、こんな秩序を乱す奴に時間を割くはずがない。偶然だ。ただ居合わせただけに決まっている)


「あいつは、なんとなく信用できない」


「その不遜な態度……貴様がいつまで経っても『B級』止まりなのは、そういうところだぞ」


(そうだ、こいつは所詮B級。階級でいえば俺のほうが上だ。それこそがメギナス様の評価の証ではないか)


 そう再確認することで、サイラスの胸中に(くら)い安堵が広がる。


 だがアリウスは、自身の階級のことなど気にも留めていない様子で、戦場を見据えていた。


「それより、あのドラゴン……重装騎士隊がやられている……聖騎士団の加護が間に合わなかったのか……」


「馬鹿な……加護は万全だった! 連携も、陣形も、教本通り完璧に展開した。だが、やつが……やつの強さが尋常ではない」


 ――その時、二人の会話を切り裂くようにドラゴンが咆哮(ほうこう)した。空気が軋み、大地が震える。その巨体が高速回転し、風切り音が大気の悲鳴のように鳴り響いた。


「来るぞ! 左だ、散開しろ! 受けるなよ、直撃すれば消し飛ぶぞ!」


 サイラスが叫ぶよりも速く。先ほどとは桁違いの速度で、再び絶望の闇が迫る。だが――。


(いくら速度を上げようと、一度見た攻撃は俺には通用しない!)


 サイラスは瞬時に上空へ回避。すぐさま身を翻し着地すると、一人、瘴気を纏う漆黒のドラゴンへと突撃していく。


「アリウス! 長引けば死人が増える! 最初から全力で行け!」


 サイラスはアリウスへそう叫ぶと、目の前の敵に再び意識を戻す。上空にそびえる紅の双眸(そうぼう)を見据え、地面を強く蹴った。


 同時に、二つの格納結晶(ルーン)から『火』と『風』の核を取り出し、空中に魔法の刻印(インスクライブ)を書き殴る。


 刹那、刻印が『火』と『風』を引き寄せ、強引に一つの核へと融合させる。バチバチと火花を散らして紫電が明滅し――今にも暴発しそうな、荒れ狂う『雷』へと姿を変えた。


 流れるような手捌きで格納結晶(ルーン)へ移すと、剣の柄へと装填(エンチャント)。雷光が刃を走り抜けるのと同時、彼はドラゴンの頭上に到達していた。


「ドラゴンだろうとなんだろうと、関係ない!」


 サイラスは雷光を帯びた剣を振り抜き二連撃――ドラゴンの額に十字を刻みつけた。空中で態勢を整え、切っ先を十字の中心へと向ける。


 ――一瞬の静寂。


 ドラゴンがよろめき咆哮(ほうこう)しようとした刹那。

 遅れて(とどろ)く雷鳴とともに、サイラスの一撃が正確にその眉間を突いた。


 閃光。空に無数の亀裂のような稲妻が走り、余波で空気がビリビリと震えた。


 一瞬の間を置き、大気を揺るがすほどの叫びが戦場に響き渡る。


 だが、それは悲鳴などではなかった。額に小さな傷をつけた者への、圧倒的な怒りの叫びであった。


 サイラスは唇を噛んだ。


(一番火力の高い雷撃だぞ……!? なのに、傷一つついていないだと……?)


 愕然(がくぜん)とするサイラスをあざ笑うように、ドラゴンの紅い眼が細められた。巨大な顎が開かれ、その周囲にシアンブルーの光が展開する。


「――なっ!? 魔法陣!?」


 瞬く間に魔法陣が完成し、大気が灼熱を帯びて揺らいでいく。


「くっ! まずいっ」


 突如、サイラスの眼前に巨大な火球が出現した。



 ――回避不可能。



 そう覚悟した瞬間、横合いから放たれた衝撃波がドラゴンに直撃。巨体がよろめき、火球の軌道がわずかに逸れる。この好機をサイラスは逃さない。即座に身を反転させ、空を蹴って地面へと急降下した。


 着地したサイラスの視界に映ったのは、ドラゴンの顔へ向けて無造作に手をかざす背中――アリウス・ルーンクレイヴであった。




+ + +

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ