竜騎士団の影と、最初の選択 #008
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「わーい! やったね、シャリク様! リュミエールお姉様! これで、これから、三人で、いーっぱい、いーっぱい、すっごく楽しい、すっごく素敵な、大冒険の、本当の始まりだねっ!」
ミィナは、そう言うと、シャリクとリュミエールのそれぞれの手を、一切の、微塵のためらいもなく、驚くほどに柔らかく、そして、まるで彼女の周りを常に舞っている、あの春の陽光を閉じ込めたかのように驚くほどに温かい、小さな両手で、優しく、そして力強く握った。
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彼女の手から伝わってくる、どこまでも純粋で、どこまでも裏表のない温もりは、シャリクの、そしておそらくは、その隣で静かに微笑むリュミエールの、まだどこか、過去の絶望や、未来への不安によって、僅かに凍てついていた心を、確かに、優しく溶かしていく。まるで、彼女の周りを常に舞う、あの心地よい風が、全ての淀んだ空気を浄化し、新たな生命の息吹を運んでくるかのように。
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竜騎士団はひとまず、シャリクにとって忌まわしい記憶の染みついた納屋から、その、鉄と血の匂いを色濃く残して、姿を消した。
だが、あのヴァレリウスが、シャリクへと、そして二人の竜姫へと向けた、決して、決して、決して諦めることのない、そして、執念深さを感じさせる、全てを見透かすかのような視線。
それが、シャリクの脳裏に、痛々しく焼き付いて、決して離れない。
三人は、ひとまず古びた納屋を後にする。
シャリクの胸には依然として、大きな、そして、深い、深い不安が、まるで暗雲のように、あるいは、彼の過去のトラウマの全てが凝縮されたかのように渦巻いている。
しかし、それ以上に、彼の、永い間、打ちのめされ、見捨てられ続けてきた魂のその最も奥深い場所では、この世界のどんなものよりも力強い始まりの予感がする。
まるで生まれたばかりの、そして、これからこの世界の全てを照らし出すほどの、無限の輝きを放つであろう一番星のように、力強く、どこまでも、どこまでも輝かしく、満ち溢れていた。