最初の施設は 9
町作りシミュレーションゲームをする上で、まず基本となるものがある。
道路や線路、海路、空路などの交通インフラだ。これがないと人口が増えない。そして何より、生活インフラだ。
水、電気、ガスなどである。これらがないと、家や店、工場ができてもすぐに人がいなくなってしまい、ゴーストタウン化してしまう。街の充実化以前の問題だ。
頭の中で何千回も繰り返してきたゲームスタート時の注意点を思い出しつつ、画面の上に指を置いた。
見慣れた画面が起動し、パッと航空写真が映し出された。左上には小さなメニューボタンがあり、右上には日時が記載されている。ちなみに年数も記載されているが、二十億から始まっている。まさかとは思うが、この世界が出来てからの年数だろうか。アホじゃあるまいか。ちなみに、日時は五月五日十四時過ぎである。祝日じゃないか。
そんなことはさておき、右下にも丸いボタンがある。いつもの癖で、そのボタンを見た瞬間、そこをタップしていた。
「わ、わ、わ……!?」
画面を見て驚きの声をあげるミド。その様子に苦笑しつつも、画面をタップする手を止めることはない。
周辺の様子は、どうやら実際に自分が歩いた場所のみ表示されているようだ。範囲はまだまだ狭いが、その辺りもゲームらしくて少し嬉しい。
丸いボタンに触れると、様々な情報ツールが横並びに表示された。その中で、四種類の色で描かれた楕円が重なり合うマークをタップする。すると、航空写真のような画像に様々な色がついた。
「い、色がつきました」
ミドも実況中継をしてくれている。助かります。
「こ、この色はなんですか?」
「ん? ああ、この色は資源があることを示しているんだ。目に見えるものだけじゃなくて、例えば鉄鉱石や石油、天然ガスなんてのも資源として表示されているんだよ。色が濃いところは資源が多く埋まっていたりもする」
そう言って、画面の映像をミドに見せてみた。しかし、それに疑問符を浮かべて首を傾げる。顔には理解できないと書いてあった。
「えっと、つまり、この色が付いているとこの下には金や銀、銅みたいな良いモノが埋まっているんだよ」
そう告げると、ミドは目を見開いて驚く。
「そ、そうなんですか? すごい……そんなマジックアイテム、初めて聞きました……!」
と、ミドが驚いたり感心したりしながら画面を注視した。だが、このタブレットの本当の凄さはそこではないのだ。
「ふふふ。まぁ、見てなさい」
「あ、は、はい。み、見てます」
ミドは素直である。うむ、偉いぞ。
そんなことを思いながら、今度は画面の津波マークをタップする。すると、画面には青い色と白い色、そして黄色が表示された。本当なら赤い色も表示される筈だが、近くにはそういった災害の危険はないらしい。
「ふむふむ。意外と、この川はあまり氾濫しないみたいだな。それなら少しだけあっちに切り開けば、すぐに施設も作れるかも」
「ナ、ナル、ホド……」
良く分かっていないようだが、ミドも相槌を打ってくれたので早速実行しようと思う。
画面上に表示される航空写真は大部分が黒く塗りつぶされたようになっているが、それでも見える範囲だけで必要な設備は作ることができるだろう。
「えっと、CPは……やっぱり千ポイントだけか。それなら、水道管を引く距離が限られてるから……まずは取水施設と」
そう言って、画面の左上にあるメニューボタンをタップする。画面の左側にメニューが現れ、その中から建物マークを選んだ。するとメニューが切り替わり、施設の種類が表示される。道路や電車、飛行機、雷マークなどが並ぶ中、水滴のようなマークを選択する。今度はそのマークから右側に様々な施設が横並びに表示される。
「最初だから、簡単な取水施設からかな。これを、川の上流に設置して……」
いつものゲーム感覚で施設を選んで川の上流部分をタップした。すると、激しい地響きと共に川の上の方で地面から何かが出現した。驚いて振り返ると、二階建てくらいの灰色の建物が建っていた。川の方に向かって丸い鋼管が伸びており、そこから川の水を吸い上げてくれる施設だ。なんと、最低限の浄水設備もついた施設である。水道水のクオリティーを上げると住民の満足度も上がる為、いずれは最新浄水施設も設置したい。
「な、ななな……っ!? な、何か出てきました……っ! だ、ダンジョン!?」
「お、ダンジョンとかもあるの? へぇ、凄いなぁ」
驚愕するミドの言葉に逆に驚く。ダンジョンとか面白そうだが、死ぬ未来しか見えない。恐らく、入る度にマップが変化したり、凶悪なモンスターが大挙して押し寄せてくるような場所に違いない。
「まさか、あ、あの建物は、その、ソータさんが建てられたんですか……?」
こちらが平然としていることで気が付いたのか。ミドは目を見開いたままこちらに顔を向け、人差し指で突然出現した取水施設を指し示した。
「そうそう。やっぱり、まずは水が必須だからね」
そう答えると、ミドは目を丸くしたまま固まってしまったのだった。
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