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【別視点】ミドの境遇 7

【ミド】


 馬小屋で藁を地面に敷き、そこに横になって体を休める。指の感覚が無かった。十年も同じ生活を続けている筈なのに、まだまだ楽にはならない。すぐに体が大きくなれば良いのに、私の成長は悔しいほど遅かった。


 目を瞑ればすぐにでも眠りに落ちそうだったが、隙間風が寒くて眠れなかった。藁にくるまって寝るべきかと手を伸ばした時、外から大きな声がした。


「ミド! ミドはどこだ!?」


「は、はい……っ」


 低い男の怒鳴り声に慌てて返事をし、馬小屋の外へと走っていく。外では声の主である太った中年の男が立っていた。商人のボルジャナだ。手には短い棒を持っており、眉根を寄せてこちらを睨んでいる。


「貴様! どういうつもりだ!?」


「な、なにが、でしょう……?」


 ボルジャナの言葉に思わず聞き返してしまった。すぐに己の愚に気が付いてしまったが、もう遅い。何か言う暇もなく、ボルジャナは持っていた棒を片手で振り抜いた。直後に頬に激しい衝撃を受け、そのまま地面に倒れ込む。視界が揺れて、口の中には血の味が広がった。


「この、ダークエルフ風情が……! 馬鹿にしているのか!?」


 ボルジャナは怒鳴りながら、持っていた棒で叩き、足蹴にしてきた。痛みと衝撃で朦朧とする中、ボルジャナの気が済むまで暴力を受け続ける。


 後から、誰かが商品である壺を割ってしまったのだが、それを私のせいにされてしまったのだと知った。そんなことはいつものことなのに、どうしてすぐに謝罪しなかったのか。謝罪していれば、何度か殴られるだけで済んだはずだ。


 ああ、私はどうしてこんなに頭が悪いのだろう。だから、ダークエルフの皆から捨てられてしまったのかもしれない。


 そう思ってしまうと、涙が止まらなくなった。だめだ。食事がもらえて、寝る場所があるだけでも感謝しなくてはならない。私は、奴隷なのだから。


 そうやって、毎日を必死に生きてきた。でも、抜け出せない闇の中を進んでいるような気持ちで、明日はどうなるか考えるのも怖かった。


 そんなある日、隣の村まで商売に行く為、同行することになった。奴隷として売られてから一度も町の外へ出ることが無かった為、少しだけ嬉しかったのを覚えている。


 その道中の時だった。森の近くで馬車が壊れ、急いで馬車の修理をすることになったのだ。ボルジャナだけでなく二人の部下と護衛の冒険者もいたが、その時だけは皆が馬車の壊れた車輪をどうにか補修しようと集まっていた。


 もしかしたら、今なら逃げられるかもしれない。そう考えた。街道傍の森は死の森と呼ばれる危険な場所だったが、もうそこで死んでしまっても良い。そう思った時には、もう逃げ出していた。音を立てないように森の方に向かい、誰かが気が付いて声を上げた瞬間、森に振り向いて地を蹴った。


「ミド! 貴様……っ!」


 ボルジャナの怒鳴り声が響き、心臓を素手で掴まれたような恐怖心に足が止まりそうになったが、必死に走った。森の中に入り、木々を避けながら走る。木の根に引っかかって転倒し、泥に頭から倒れ込んでも、すぐに立ち上がって走り続けた。


 そうやって必死に走り続け、幸運にも大型の魔獣には遭遇せずに隠れられる場所を見つけた。大きな木の洞だ。


 ここなら、もう大丈夫かもしれない。


 そう思ったら、不意に眠気がきた。木の幹に体を預けてすぐに視界が暗くなり、眠りに落ちる。


 朝、自然と目が覚めるまで寝たのは何年ぶりだろう。今まで感じたことのないスッキリとした感覚だった。


 だが、木の洞から出てすぐに後悔する。広い森の中だ。幸いにも近くに魔獣はいないようだが、下手をすればすぐにも死んでしまうだろう。


 不安になりながら、どうにか食べる物を探した。運良く魔術が使えるから、どうにかなるかもしれない。


 そう思ったが、甘かった。見つけたのは果物と食べられる草、キノコくらいだ。魔獣に襲われにくい小動物や鳥もいたが、捕獲はできなかった。


 そうして、毎日お腹を空かせながら森の中を歩き、寝る場所を見つけたら休むといった生活をしていた。


 十日も経った頃だろうか。川に辿り着いた。死の森から森の外まで続いている川だ。ここなら、もしかしたら魚が獲れるかもしれない。


 そう思って、川すぐ横を上流に向かって歩き続けた。一日、二日と歩き続けたが、魚が獲れそうな場所はなかった。しかし、自分が隠れるには丁度良い場所を見つけた。川のすぐ傍にある小さな段差だ。少し抉れていて、少しくらいの雨ならば防げそうだ。


 そこに隠れてみると、安心したのか眠くなってきた。お腹が空いて仕方がないが、眠気がそれを上回った。


 どれくらい寝ただろうか。


 何処かで激しい地響きが聞こえてきて、目が覚めた。音が近づいてきている。そう思い、段差から顔を出して音のする方向を見た。


 現れたのは、少し地味な服装の人間だった。

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