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ミド 6

 名乗り合ったところで、そっと立ち上がり、周囲を見回した。岩の横から顔を出してみたが、もう猪もいないようだ。


「よし、大丈夫だね」


「は、はい……」


 二人で這い出るようにして段差を上がり、地面に座り込んで息を吐く。


「いやぁ、本当に助かったよ。ありがとう、ミド」


「あ、は、はい」


 改めてお礼を言うと、ミドは嬉しそうに微笑んだ。これは大人になったら多くの男達を泣かせるに違いない。罪な子である。


「ミドは何歳?」


 なんの気は無しに尋ねてみた。ミドは少し不安そうにしながらも、素直に答えてくれる。


「に、二十になり、ます……」


「え? 二十って、二十歳? あ、そうか! エルフだから長寿なのか!」


 思わず声が大きくなり、ミドはビクリと肩を震わせた。怯えさせてしまったらしい。


「あ、ごめんごめん! 思わず、テンションが爆上がりして……」


「い、いえ……」


 ぎこちない雰囲気でそんな会話をしつつ、ミドの観察をしてみる。ダークエルフというからにはもっと黒い肌を想像したが、それほどでもない。物凄く日焼けしましたと言われても信じるくらいだ。むしろ、肌が暗い分、白髪とのコントラストが際立って格好良い。服装はだぼついた布のシャツとサンダルみたいな靴だが、どれもボロボロで汚れている。これで綺麗な格好をしたらハリウッドスターも夢ではないだろう。


 ミドはこちらが何を考えているかなど知らず、真面目にこちらの口にした内容について答え始めた。


「え、エルフも多分同じだけど、ダークエルフは三十歳くらいで大人になって、それから少しずつ年齢を重ねて、大体二百歳くらいが寿命だと……あ、古代にいたハイエルフっていう種族は、五百歳まで生きたっていう話もあるけど……」


「え? そんなに!? 凄いなぁ……じゃあ、ミドは後百八十年も生きれるんだね」


 そう答えると、ミドは少し悲しそうな顔をして、首を左右に振る。


「……私は、その、ハーフ、ダークエルフだ、から……」


 ミドは悲しそうにそう呟いた。ただ悲しいだけではなく、不安や焦り、憤りなども感じさせる複雑な感情が感じられた。ハーフであるということは、半分は人間か何かなのだろう。もしかしたら、エルフとダークエルフのハーフなのかもしれないが、それでも別に問題ないように思える。


「……ハーフダークエルフっていうと、何か問題があったっけ?」


 苦笑しつつ、さり気なく聞いてみた。すると、ミドは目を僅かに見開き、戸惑うような素振りをみせる。


「え、えっと……ダークエルフは、他の種族と交流しないんだけど、ハーフダークエルフは、その、ダークエルフ達からも、嫌われてしまう存在で……だ、だから、殆どのハーフダークエルフは、人間に奴隷にされてる、みたい……」


「……なんだ、それ」


 ミドの説明を聞き、思わず低い声が漏れる。こんな子を、奴隷にするだと?


「ご、ごめんなさい……っ」


 自分が怒られたと思ったのか。ミドは身を縮めて謝罪の言葉を口にした。その姿を見て、これまでの怯えたような態度を思い出す。こちらの機嫌を窺うような態度や、必死に言葉を選んでいる姿だ。ただ大人しい子供なのだと思っていたが、ミドの話を聞いてそれが痛々しい姿だったのだと気が付いた。


「ごめん。怒っているわけじゃないよ」


 そう告げるが、ミドはまだ少し怯えているようだった。


「……奴隷って、一般的なの?」


「た、多分……どの国でもあるんだと思い、ます。その、ヴェリン王国しか知らないですけど……」


 ミドの言葉に、成程と頷いた。


「……つまり、ミドは奴隷になりたくないから森で暮らしていたってことか」


 そう口にすると、ミドは眉を八の字にしたまま、静かに否定の言葉を呟く。


「い、いえ……私は、奴隷だったけど、逃げ出してしまって……」


 そう言って、ミドは俯く。不安そうな顔だった。奴隷だったことが知られて、こちらの態度が変わるかもしれないと思っているのだろうか。


「……そうか。でも、逃げれたんなら、今はもう奴隷じゃないね」


 不安を解消しようと思い、笑いながらそう告げると、ミドは驚いたような顔になった。


「え? で、でも……逃げた奴隷を連れ戻したら、報奨金を貰えることもあるし……持ち主が死んでいたら、奴隷は拾った人の物だから……」


「物って……ミドは人、いや、ハーフダークエルフか。まぁ、俺は同じ人間だと思っているからさ。元奴隷とか気にせず、友達だと思って接してほしいな」


「……お、同じ、人間、ですか?」


 動揺するミド。それを見て、首を傾げる。


「あ、もしかして、人間って一括りにされると嫌だったかな?」


「いえ、そんな……友達と言ってもらえて、嬉しかったくらいで……」


 まだまだ動揺した様子だったが、ミドはそう言いながら静かに微笑んでいた。


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