賢者を探してた三人 56
手を合わせて拝む男は三十代後半といった感じだった。普段はオールバックにしてピシッとした執事さんなのかもしれない。しかし、今はところどころ穴が空き、薄汚れた執事服を着たボサボサ髪の男だ。そして、コートを着た金髪の女は何故かすやすやと寝てしまっているし、鎧を着た五十歳ほどの髭の男は白目を剥いて仰向けに倒れている。
地獄絵図のような状況だが、とりあえず話は聞いておかねばならない。
「……えっと、貴方達はどこのどなたでしょう?」
そう尋ねると、拝む男は跪いたまま背筋を伸ばした。
「は、はは……! 賢者様、我々は貴方様を探して、遥々セルディカ神聖王国より参りました……! どうか、その御力をお貸しください……!」
「セルディカ……?」
またまた新たな情報が飛び出てきた。困惑しつつ、三人の名前について尋ねる。
「あ~……セルディカ神聖国の皆さん? 俺の名前はアンド……違う。安藤奏太。お名前を聞いても?」
何故か外国人風に名乗りそうになり、名乗り直す。すると、男は素晴らしく綺麗な土下座の格好で口を開いた。
「はは! こちらの麗しきご令嬢がセルディカ神聖国の王女、リリー・アン・セルディカ様です! そして、私が執事のフォル・カロル。こちらが元近衛騎士のラウム・オティス殿でございます」
そう言って、フォルを名乗る男は再び頭を下げた。
なんと、王女様御一行だと名乗るフォル。しかし、何故そんな王女様が部下二人しかつけず、あんな街道から外れた場所を彷徨っていたのか。
流石に鵜呑みにはできない内容だ。
「……リリー様と、フォルさん、ラウムさんですね。それで、どうしてこんなところに三人で?」
そう尋ねると、フォルは真剣な顔で頷いた。しかし、フォルが答える前に白目を剥いていたラウムが意識を取り戻した。
「ぬあっ!? こ、ここは……!?」
ラウムが跳び起きたので、フォルと一緒にビックリして振り返る。
「おお! ラウム殿! ここは賢者様のご住居です!」
「な、なな、なんと……っ!? まさか、ここが伝説の大樹の塔!?」
また知らない単語が出てきたぞ。なんなんだ、その伝承は。
「……いや、普通の家です」
一応訂正してみたが、二人には聞こえていなかった。ラウムは立ち上がり、周囲を興奮した面持ちで観察し、フォルが再び涙を流しながら祈りを捧げる。
「むむむ……確かに、見たこともない建物だ。使い方も分からぬ設備が並んでおるぞ……! おお、ついに、我らは辿り着いたのだな……!」
「賢者様……! 賢者様ぁあああっ!」
時間が経てば落ち着くかと思っていたのだが、ラウムが起きたことで騒がしさは二倍になってしまった。もう収拾がつかないような状況だ。どうしたものかと思っていると、最後に安らかに寝ていたリリーが目を覚ます。
「……こ、ここは……?」
薄く目を開けて、そう呟いた。小さな声だったが、ラウムとフォルはすぐに反応する。
「お、おお! リリー様! 起きられましたか!? 吾輩です! 吾輩がおりますぞ!」
「リリー様、フォルです! 分かりますか!?」
起きたばかりだとしんどい、テンション高めのオジ二人。その大きな声に小さく頷き、リリーは地面に手をついて体を起こした。
「……私は、どうなって……」
リリーが困惑した様子でそう呟くと、フォルが横に跪き、涙を流しながらこちらを指し示した。
「リリー様! 我々は、ついに賢者様の下に辿り着いたのです……! 三ヶ月の旅路が実を結んだのですよ!」
その言葉に、リリーの視線が俺に向く。
「まぁ……この方が、森の賢者様……」
そう呟き、リリーはそっと姿勢を正した。そして、手を合わせて祈る。
「……賢者様……」
「いやいやいや」
なぜか森の賢者なる存在として話が進んでいるが、なんのことかも分からないのだ。
「俺は賢者とかじゃないよ? さっきも名乗ったけど、名前は安藤奏太。普通の人間ですから」
そう告げるが、フォルは困ったように笑った。
「は、はっはっは! いえいえ、そのようなことはありませんとも!」
フォルがそう口にすると、ラウムも大きく頷く。
「うむ! このような見たこともない建造物! これはまさに、伝承によって伝わる森の賢者の住まう場所であろう!」
その伝承すら知らないのに、どうせいと言うのか。
呆れつつそんな二人を眺めていると、リリーが自分の胸に手を当てて口を開いた。
「賢者様では、ないのですか? しかし、この建物を見れば、我々よりも遥かに優れている技術をお持ちなのは間違いありません。賢者様、どうか我々に力をお貸しください……」
そう言って、深く頭を下げるリリー。困った。リリー達の必死な様子はとてもではないが、演技ではない。しかし、こちらにも事情があるのだ。
タブレットを確認すると、CPは減っていないようだった。恐らく、鰐ももう諦めてどこかへ行ったのだろう。
「……とりあえず、今は答えることができないから、村まで案内してあげようか。プレト村っていう村がすぐ傍にあるから」
そう告げると、リリーは眉を八の字にしつつ、静かに頷いたのだった。
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