村の食事 50
結局、冗談だと言って断っても、レフターは報酬として金貨一枚をくれた。皆に見えるように金貨を掲げ、俺の手の上に置く。それに冒険者ギルド内では拍手喝采が巻き起こり、これはなんの儀式なのかと首を傾げた。
まぁ、結果として金貨一枚もらえたのはとてもありがたいことだ。まぁ、思ったより薄くて小さいとは思ったが、金って一グラムで何千円とかの世界だった気がするから、そんなものかもしれない。中々純金など触る機会もないから詳しくはないけども。
初日からお金もゲットして、宿にも泊まれた。レフター達に感謝をしつつ、夜は皆で食事である。宿には食堂があり、鉄貨五枚という格安で食事ができるとのことだった。
どれくらいが適正価格なのか分からないが、鉄貨五枚は安いようだ。
「お、今日はパンか」
「豆はあんまり好きじゃないのよねぇ」
「……俺も平焼きが食べたかったな」
そんなことを言いながら、食堂でテーブルを囲むレフター達。その席に同席させてもらっているが、あまりの台詞に唖然となる。
目の前には、焼き立ての美味しそうなパンと赤っぽいソースの掛けられたパスタみたいな麺類。そして、豆が入ったサラダの三品だ。もう、文句のつけようがない。ここ数日、焼けた肉と果物ばかり食べてきた俺にとって、これは間違いなくご馳走だ。
「贅沢を言ってはいけません。このような食事ができることを神に感謝するのです。ちなみに、神はおじいさんではありません。美しい女神様に、です。それでは、いただきます」
手を合わせて、食事の前の祈りをささげる。念入りな感謝の祈りだ。できることなら、再びこの食事ができますように……。
そんな真摯な祈りを見て、レフター達は顔を見合わせた。
「……おい」
「やっぱり、どこかの貴族か?」
「とりあえず、異国の祈りなのは間違いないわね」
レフター達はひそひそとそんな会話をしているが、今はそれどころではない。祈りを終えたからには食事だ。さぁ、実食といこう。
両手でパンを掴み、口に運ぶ。小さな村だから正直期待していなかったが、そのパンはこれまで食べたどのパンよりも美味しかった。香ばしい焼き立ての香りに、パンの甘味が噛めば噛むほど口の中に広がる。
バターが練り込まれているわけでも、クリームが入っているわけでもない。プレーンなパンだ。それでも、本当に美味しいと思えた。次にパスタにも手を伸ばす。フォークがあったので自分の取り皿にパスタを取り、口に運ぶ。
少し平たい麺だったが、モチモチしていて良い食感だった。ソースは意外にも甘辛い味付けである。中華とイタリアンを混ぜ合わせたような不思議な味付けだったが、塩以外の調味料を口にすることができた俺としては至高の逸品である。
もちろん、サラダも美味しい。豆も殆ど芋のような食感と味わいだった。銀杏にも近いだろうか。味付けはシンプルだが、それが野菜とあっていて美味しいサラダになっていた。
「美味しい!」
泣きそうである。
今後、どうにかしてこの村と交流をしていきたいところだ。小さな村だと思ったが、こんなところでもきちんと物流は出来ているらしい。食材も調味料も揃っているようだ。毎週買い付けに来れないだろうか。来るとしたら自分しか適任者がいないし、月に一度が限界か。
そんなことを考えていると、レフター達が唖然とした顔でこちらを見ていることに気がついた。
「相当腹が減っていたようだな」
「一日食事をしていなかったのかしら」
「……俺の分も食うか?」
そう言われて、気が付けばこちらの更にパンが三つ積み重なっていた。パン三重塔だ。素晴らしい。世界遺産にしよう。
こうして、村初日の夜は最高の気持ちで眠りにつくことができた。魔力ゼロがなんぼのもんじゃい。
朝になり、実家の地下室では感じられない鳥のさえずりを聞いて目が覚めた。ベッドの質はあまり良くないが、意外と熟睡できた。まぁ、森の中を歩き続けたり、猪に追いかけられたりと、一日で体力は使い果たしていたせいだろうか。
そんなことを考えていると、窓際のベッドで寝ていたレフターが目を覚ました。
「……ふぁあ……ん、おはよう」
「おはよう、レフターさん。サーディさんが先に起きるかと思ったら、熟睡ですね」
そう言って壁際のベッドで寝るサーディを指差すと、レフターは欠伸を噛み殺しながら頷く。
「うむ。あいつは夜型だからな。まぁ、パーティーで斥候をやってる奴は夜型が多いんだよ。普段から夜間の警戒もしてるからな。昼間、皆が起きている時間が一番安心して寝れるんだろうさ」
「なるほどねぇ」
レフターの説明に頷き、ベッドから降りて立ち上がる。体を伸ばしていると、レフターはこちらを見て口を開いた。
「それで、これからどうするんだ? 身分証はできたが、どこにも行く予定はないんだろ?」
そう問われて、どうしたものかと頭を悩ませる。冒険者になるという最重要任務は果たしたのだ。ならば、次は物資の購入だろうか。
「とりあえず、この服しか持ってないんで、服を買いに行きますかね」
そう言って笑うと、レフターは呆れたような顔で笑ったのだった。
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