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怪しい? 5

 森を抜けたと思ったら、そこはまだ森でした。


「な、何の冗談、なんだ……」


 勢い余って地面を転がり、景色がぐるぐると回る。確かに開けたのは開けたが、今度は大きな川があったのだ。対岸を見ても森が続いており、どう見ても簡単に脱出できる感じではない。


「し、死ぬ……まじで死ぬ。絶対に死ぬ……」


 絶望と共にデスソングを呟いていると、背後で巨木がへし折られる音がした。背後を振り返ると、そこにはあの猪が……。


「こ、こっちです……!」


「え?」


 声がしたので川の方を見ると、幅の少ない河原にある大きな石の裏に誰かがいた。


 少し暗い肌をした子供のようだ。髪が真っ白で驚いたが、若白髪かもしれないので、全く気にしていない風を装いたい。


「は、早く!」


 その声を聞き、慌てて立ち上がる。変なことを考えている余裕は無かった。弾かれるようにして走り出し、子供のもとへと滑り込む。


 しかし、岩の裏側は段差になっていた。スライディングの形で岩の裏に回り込んだ為、程なくして僕は浮遊感を味わうこととなる。もしや、先ほどの子供は絶望感に支配された僕の脳が見せた幻だったのだろうか。


 そう思ったその時、目の前に細い手が現れ、反射的に両手で掴んだ。


「う……っ」


 子供の呻き声。その声を聞きながら、片足が地面に触れたのを感じて踏ん張る。もう片方の足は川の上に飛び出た状態で止まっており、身体の大部分は岸に残っていた。掴んだ手の方向を見ると、そこには先ほどの子供の姿があった。見れば、川の傍は小さな崖のような状態になっていた。岩の下に段差があり、幅一、二メートルほどのスペースがあるようだ。そして、壁の部分は抉れていて隙間が出来ていた。ちょうど、大人がうずくまれば一人か二人は入れる隙間だ。


「お、お邪魔します!」


 一言だけ口にして、子供のすぐ横にもぐりこんだ。ネズミ返しになったような壁に背中を合わせ、自分も壁になったつもりで気配を消す。


 段の上、大岩の向こう側では猪が歩き回っている音が聞こえる。隣を見ると、白髪の子供が両手で自分の口を塞ぎ、ジッとしていた。よく見れば、肩が細かく震えている。見た目通り、戦う術を持たない本当の子供なのかもしれない。


 身を晒してまで助けてくれたのは相当な覚悟だったはずだ。


 暫く、川の水面を無心で眺めながら待ち続けていると、猪の足音が徐々に遠くなっていった。それでも動けず、二人でジッと耐えること数分。どちらともなく、ホッと息を吐く。


「……もう大丈夫かな」


「よ、良かった」


 二人でそんな言葉を口にして、すぐに子供の方へ顔を向ける。


「ありがとう! 助かったよ!」


 まさに命の恩人だ。そう思い、泣きそうな気持ちになりながら感謝を述べた。


「あ、う、うん……」


 子供は照れているのか、少し俯きがちになってはにかむ。間近でその姿を見て、子供は女の子なのだと思った。


 真っ白な髪は艶やかで肩までかかるほど長く、服が大きいせいか、ほっそりとした肩も見えた。目は大きくて切れ長だ。とんでもなく整った顔立ちをしており、まるで精巧な人形のような美しさである。恐ろしく美人になるだろうなと思いつつ、ふと気が付いたことがあった。


 耳が、細長いのである。横に伸びた細長い耳を見ていると、子供はハッとした顔になり、両手で耳を隠す。


「あ、そ、その……」


 困ったように……いや、怯えたような表情で口籠る。その様子を見て、どうやら耳のことを気にしているのだなと察することができた。


「ごめん、見入っちゃってた。可愛い耳だと思うよ」


 そんな下手なフォローをしつつ、唐突に思い立った。もしや、この子はエルフではないのか。そのことに気が付いてしまったら、もう止まらない。こちとら人生を掛けたゲーマーである。居ても立っても居られない気持ちで質問をしてみた。


「あ、もしかして、エルフ……?」


 そう尋ねると、子供は眉根を寄せて沈痛な顔になった。あれ? エルフってNGワード的な扱い? もしかして、差別用語?


 急に不安になるのは小心者の証である。


 様子を窺っていると、エルフらしき子供は怯えの色を濃くして僕を上目遣いに見てきた。可愛い。


「……そ、その、わ、私は、ダーク、エルフ、なんです……」


「ダークエルフ?」


 聞き返すと、身を竦めてしまった。


「え? 格好良いじゃないの。エルフとダークエルフだと、使える魔術に違いがあったりするのかな?」


 そう尋ねると、きょとんとした顔が返ってきた。何か、おかしかっただろうか。


「……た、多分、あまり変わらないと……私は、エルフに会ったことないから、わ、分からないけど……」


「へぇ、そうなんだね。あ、俺は安藤奏太。君は?」


「あ、み、ミド・ラーシャル、です……」


 遅くなったが、お互い名乗り合う。


「ミドって呼んでいいかい? 俺のことは好きに呼んでね」


「あ、では、ソータさんと、呼びます……」


 そう言って、ミドは小さく微笑んだ。

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