プレト村 45
村までの道すがら、レフター達から情報収集を行った。こうなったら記憶喪失ということにした方が怪しまれないかと判断し、魔獣に追いかけられたせいで大半の記憶が飛んだことにしている。
「……つまり、そこの村がヴェリン王国のプレト村?」
「そうだよ。商人なら、地名は一番に覚えることじゃないのか?」
「いや、商人かどうかも……」
そう言って苦笑すると、セルカが目を細めてこちらを見てくる。馬車の御者席にはレフターが乗り、馬車の荷台には赤大猪の体の半分が乗っている。必然的に、外を歩くのはセルカとサーディといった具合だ。
「怪しいわね。名前は憶えているのに……」
「年齢も二十歳くらいだろ? それなら、普通は商人だとしても見習いじゃなくて一人前になってないとおかしいぞ」
「……見る限り、冒険者でもなさそうだしな」
と、絶賛怪しまれている最中である。
自分でも苦しい言い訳だと分かっているので、苦笑いするしかない。
「まぁ、自分の身体能力を考える限り、戦闘なんかはできないだろうね」
「魔術はどうなの?」
「魔術も……どうして良いかも分からないから」
セルカの言葉に曖昧に答え、再び苦笑する。こちらが困っていると思ったのか、セルカは腕を組んで唸った。
「……とりあえず、身分の証明すらできないって言うんだから、まずは冒険者ギルドにいって冒険者登録ね。そしたら、魔力量測定もあるから、魔術への適性も分かるかもしれないわ」
セルカがそう言うと、サーディが眉根を寄せてこちらを見る。
「……身元不明で、尚且つ記憶喪失だろ? 大丈夫か?」
と、サーディが曖昧に尋ねた。それにセルカは肩を竦めて鼻を鳴らす。
「別に冒険者登録するだけなら可能よ……そんな人物を登録させて良いのかって意味なら、話した感じで分かる通り、悪い人間じゃないからそれも大丈夫」
「ま、そうだな。あるとしたらルカス王国やティアバルナ帝国のスパイぐらいかもしれんが、それならあまりにも怪しいやり方で潜入してることになる。いくらなんでも、何か企んでいるってのは無理があるだろ?」
セルカに続き、レフターも危険人物および他国の間者説を否定してくれた。これは助かる。レフター達しか人間の知り合いがいないのだから、ここで敵視されたら話にならない。
「いや、俺だってソータが危ない奴だなんて思ってないさ。だが、冒険者ギルドまで連れてくとなると、多少はそのあたりも、な……」
レフター達が否定的な意見を出すと、サーディも眉を八の字にして言い訳をする。どうやら、サーディとしてもそこまで疑っていなかったようだ。
「……おっと、もうそろそろ準備しておけよ。通行証も無いんだから」
「了解」
村への入り口が間近になり、雑談をやめて顔を上げる。村は思ったより大きく、背の高い塀が周囲を囲んでいた。中は見えないが、大きな木製の扉があり、その前に二人の槍を持った男が立っているような状態だ。意外にも村の出入りは多いらしく、前には馬車一台とローブを着た男、そして鎧を着た四人の男達の姿があった。その中の一人、鎧を着たスキンヘッドの男がこちらに顔を向ける。
「お? レフターか」
「おお、久しぶりだな。ズヴェトコ」
どうやら知り合いだったらしい。横で聞いていたところ、ズヴェドコと呼ばれた男は冒険者で、町や村を巡る行商人の護衛を依頼されているようだ。ちなみに村には一泊の予定とのこと。
「次の者……って、レフターか。冒険者パーティー、炎剣だな。今朝村を出たばかりじゃなかったか……って、なんだ!? そのデカイのは!?」
少し緩い感じの門番がレフターの顔を見て笑みを浮かべて談笑しようとしたが、すぐに馬車の上に乗る猪の死体に気が付き、驚愕する。
「……お、おお。なんだ? 死の森に寄ってみたってか?」
ズヴェドコも顔を引き攣らせて猪の死体を確認し、呟いた。それに苦笑しつつ、レフターは素直にこちらを指差して答える。
「ああ。こっちのが街道で追いかけられてたんだよ。で、俺たちが倒したってとこだな」
「……ん? そういえば、お前は炎剣のメンバーじゃないな? 誰だ?」
門番から目を付けられてしまった。何者か確認しようという質問だったが、その言葉に皆の視線が僕に集まる。どう答えようかと思っていると、レフターが代わりに答えた。
「ああ、街道を一人でいたんだ。記憶が混乱しているみたいだぞ」
レフターがそう口にすると、門番は眉根を寄せた。
「……怪しくないか?」
「分からん。ただ、間違いなく悪人ではないと思うぞ」
門番とレフターがそんな会話をしてからこちらを振り向く。
「……名前は?」
「ソータ……アンド・ソータだそうだ」
「珍しい名前だな……どこの国の者かも分からないのか?」
「会った時、大型魔獣に襲われていたからな。荷物も全て紛失してしまっている」
こちらが答える前に、レフターが全て答えてしまう。全て不明という形で納得してもらえるのだろうか。変なことを言って尋問なんてことにはならないだろうか。
不安になっていたが、門番は腕を組んで頷き、笑みを浮かべた。
「……仕方ない。炎剣のメンバーということにしよう。もし何か問題が起きたら、全部レフターの責任ってことでよろしく」
「俺かよ!?」
意外、というか、予想通り門番は緩かった。良いのか、それで。セキュリティの重要さを教えたいところだ。しかし、今の僕はセキュリティーが緩くないと困るので、ここは何も言わないでおく。
「助かった。ありがとうございます」
門番に一礼してお礼を述べると、門番たちが顔を見合わせた。




