冒険者 44
驚くべき腕だった。
緑髪の男が放った矢は、風を切って吸い込まれるように猪の頭に突き立った。その一撃は猪の動きを止めるには十分な威力を発揮し、レフターは難を逃れる。
そして、更に猪とレフターの間に水の壁が出現した。
「すご……」
思わず、そんな感想が口から漏れる。なにせ、漫画のようにどこからともなく水が湧き出し、壁を形成したのだ。薄い膜のようにも見えるが、確かに不思議な景色だった。
ミドの風の魔術もすごかったが、水の壁ははっきりと見える分インパクトが強い。
しかし、見た目が格好良くても所詮は水である。それで防御になるのか。
そう思ったが、猪は水の壁を突破できずに動きを止めた。
いや、進んではいるが、体が浮かせられて力が入らないようだった。どうやら水の壁には流れがあり、水流の力で防御を行うようだ。
そこへ、距離をとっていたレフターが戻ってくる。前足を水に取られ、動きが不自由になった猪の背を斬りつけた。絶叫をあげ、顔を上げる猪。そこへ、矢が真っすぐに飛来する。激しく動いていたというのに、矢はこめかみに突き刺さった。頭に当たった時とは違い、深々と突き刺さった矢。
この一撃により、猪はくぐもった声で鳴き、地面に転がる。どうみても致命傷だ。
「やったか?」
「まぁ、大丈夫じゃない?」
馬車の近くで二人がそんな会話をしつつ、油断なく弓と杖を構える。その視線の先では、倒れた猪に向かって剣を伸ばすレフターの姿があった。
「……よし、討伐完了!」
「おお、やったな」
「一安心ね」
討伐完了の報告を受け、二人はホッとした様子で笑った。そして、こちらに振り返る。
「……それで、アンタは?」
「なんで、そんな軽装でこんなところに……」
二人から怪訝な顔で見られながら、苦笑交じりに頷く。
「は、はは……とりあえず、助かりました。俺は安藤奏太。アンドーでも、ソータでも、アンディーでも、好きに呼んでください」
「……苗字持ち?」
「貴族、よね? それにしても聞きなれない名だけど」
名乗ったところ、二人は急に背中を向けてコソコソ話しだした。若干聞こえた内容から、自分を貴族だと勘違いしているようだ。
どうしようかと思っていると、猪の死亡を確認したレフターがこちらに向かって歩いてきた。剣に付いた真っ赤な血を拭きながら歩いてくる様子は、さながら殺人鬼だ。しかし、表情はいたって普通である。
「おお。最初は逃げ出した奴隷かと思ったが、身なりは随分と良いな。まさか、馬車をぶっ壊されて逃げてきた行商人か?」
笑いながらレフターがそんなことを言うと、弓を使う男とローブの女がレフターの下へ走っていった。
「ちょっと待て……!」
「苗字持ちよ、苗字持ち」
再び、コソコソと何かを話しだす三人。たまにレフターが眉根を寄せてこちらを見てくるので、目が合った時は片手を振って応えておく。中々愉快な三人である。
十数秒ほどして、三人は揃ってこちらへ戻ってきた。
「おほん……えーっと、俺がこの炎剣のリーダーで、Bランク冒険者のレフターだ」
「Bランク冒険者のセルカよ」
「Cランク冒険者のサーディだ」
と、三人は自己紹介をしてくれる。先ほどもした気がするが、それに自己紹介を返しながら三人の様子を改めて確認した。レフターは全身を鎧で覆った剣士といった見た目だ。セルカは灰色のローブを着ていて、見た目からも魔術師と分かる長い茶髪の女性である。サーディは少し長い緑色の髪が特徴的な青年で、動きやすそうな軽装の鎧姿だった。全員、二十代後半といった見た目だ。いや、レフターは体が大きいせいか、少し年上に見える。
お互い挨拶が終わったところで、レフターが腕を組んで俺を観察するように見た。
「それで、ソータはなんでそんな恰好で赤大猪に追われていたんだ? あれだけの大物、森の奥でないと遭遇しないだろう? どこかの冒険者の荷物持ちか何かしていたのか?」
レフターが苦笑交じりにそう言ってきたので、同じように苦笑しながら誤魔化す。
「いや、それが、気が付いたらこんな有様で……荷物も何もないし、困っていたんですよ。良かったら、村まで連れていってくれませんか?」
そう尋ねると、レフターは首を傾げた。
「気が付いたら? まさか、記憶喪失か?」
レフターが驚いてそう口にすると、他の二人も眉根を寄せる。
「……嘘でしょ? それは怪しい気がするけど」
「何か、言えないことでもあるのか……」
そんな声が聞こえ、苦笑しつつ首を左右に振る。
「言えないことも何も、気が付いたらこの有様なんでね」
そう言って笑っていると、サーディが顎を片手でさすりながら村を指差した。
「……とりあえず、村に向かうか? どうせ俺たちもこの赤大猪の素材を売りに行きたいしな」
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