初めての村へ……行けない 43
朝。電子音に起こされて目を開ける。ベッドから起きると、真っ暗な寝室の景色があった。だが、そこにはミドもカラビアもいない。
軽く伸びをして、ベッドから降りる。今は朝の八時だ。
結局、電気がないと大半の機能が使えなかったが、とりあえず家に入ることはできたので助かった。
洗顔すらできないので、寝癖を少し直すだけにしておく。本当に新しい服が欲しい。ついでにせめて石鹸が欲しい。なぜ、寝具や調理器具と食器の一部はあるのに、衣服は付いていないのか。
色々と疑問はあるが、単純におじいさんの気持ち一つかもしれないし、今は置いておくとしよう。
外の景色は、昨日とはまた違う表情になっていた。運良く雲一つない晴天で、どこまでも広がるような草原の美しさを見ることができた。
そして、昨日ははっきりとしなかった街道と、遠くに見える村の姿も。
「よし、頑張ろうか」
人間、ゴールが見えているとやる気になるものである。
そこからは気分良く歩き続けることができたが、街道にまで辿り着いて変化が起きた。街道は不揃いな石畳で、地平線まで続くほどだ。この街道を敷くのは大変だっただろうなぁ、などと思いながら歩き、気がつく。
「痛……っ」
柔らかな土の草原を歩いていて気が付かなかったが、もう靴の底の一部が薄くなっていた。石畳の欠けた部分や、割れた破片を踏み、足の裏に痛みが走ったのだ。
「……服だけじゃなくて、靴も欲しいな」
そう呟きながら、擦り減った靴を見る。靴底で溝が残っているのは土踏まずの部分だけだ。土踏まずがしっかりあることを喜ぶべきだろうか。
そんなことを考えていると、奇妙な違和感を感じた。顔を上げて、周りを確認する。
すると、自分が来た方向、森のところから大きな何かが走ってきているではないか。
「猪!? なんで、森の外でもお前に追いかけられないといけないんだ!?」
話が通じる相手ではないのに、思わず文句を言いながら、遠くに見える村に向かって走る。
街道にはぽつぽつと人影や馬車のようなものが見えるが、遠い。それに、大半が異変に気がつき、村に向かって走り出してしまっている。
というか、鎧を着た人や魔術師っぽいローブを着た人も逃げているのは何故なのか。村に猪が突撃したら困るだろうから、どうにか街道で討伐してくれないものか。そうなると個人的にも助かるのだが。
そんなことを考えながら、石畳の上を必死に走る。足の裏が痛いし、息も切れる。連日歩き続けているので、本当に限界だ。
しかし、猪の激しい足音は着実に迫ってきている。
「無理! 絶対に無理! もう、は、走れない……!」
弱音を吐きながら、もつれそうな足に力を込める。膝から力が抜けていくような感覚があるが、それでもなんとか真っ直ぐに走った。とはいえ、走れてももう間も無く追いつかれるだろう。
万事休すか。
そう思ったその時、村の方からこちらに向かって走ってくる一団がいた。
馬車が一台と、その周りに三人の人影。先頭を走るのは赤い髪の男だった。
「炎剣だ! 横に退け!」
「……っ」
その声を聞き、意味は分からないが横に飛ぶ。どうせ限界だったのだ。もう自棄である。最後の力を振り絞って右手側に飛び、頭を庇いながら地面を転がった。そのすぐ隣を馬車がすごい勢いで通り過ぎていく。
「ふん……!」
そして、後方で鋭く息を吐くような声と、激しい金属音が鳴り響いた。地面に倒れ込み、荒い呼吸を繰り返しながら、なんとか顔をそちらへ向ける。
そこには、あの化け物猪と真っ向から剣一本で戦う男の姿があった。背中に盾を背負っているようだが、それを使わずに両手で剣を握りしめ、猪の巨大な牙を剣で打ち払っている。
恐るべきことに、猪は二トントラック並みに大きいのだが、剣で牙を弾くと猪の体がズレたりしていた。どんな膂力があればそんなことが可能なのか。というか、普通なら体重差で弾き飛ばされるだろう。
この世界の物理法則はどうなっているのか。そんな疑問を持っていると、俺と猪の間で止まった馬車の近くに、二人の人影が現れた。一人は御者をしていた緑色の髪の男だ。そして、残り一人が灰色のローブを着た女である。緑色の髪の男は帽子を被っており、弓を構えている。女は金属製っぽい大きな杖をもっていた。
「レフター! 頭を狙うぞ!」
「動きが止まったら炎の矢を打つわ!」
二人がそんなことを言い、レフターと呼ばれた赤い髪の男は頷いて答える。
「余裕がない! 下がるから、援護してくれ!」
「分かった!」
「それなら、足止めに水壁を使うわ!」
レフターの一言に、二人が即答する。かなりチームワークが良さそうだ。
「フッ!」
「…………水壁!」
短いやり取りだというのに、三人はそれぞれ素早く動き出した。




