小さな村を目指せ 41
冒険者。それは戦闘を特技とした集団のようだ。基本的には魔獣を狩って素材を集めたり、普通の人では辿り着けない山、森、崖などまで赴き、希少な鉱石や薬草を手に入れたりする者たちらしい。
話を聞くだけなら面白そうな職業だが、誰でもなれる上に、腕っぷしがあればのし上がれることから、かなりのアウトロー率を誇る職業でもあるそうだ。
というか、犯罪者が隠れ蓑として冒険者になる例もあるとのこと。いやいや、その辺りのセキュリティはどうなんだ。犯罪者が利用できていたら駄目ではないか。
しかし、その話は今の俺にとっては渡りに船である。残念ながら、そのアウトローたちと同様に、俺も身分を証明できない立場なのだ。なんと嘆かわしいことか。
「……それじゃ、村に入って冒険者になれば証明書も作れるわけか」
「そ、そうですね。あの、本当になんの身分証も無いんですか? その、ソータさんくらいの大魔術師であれば、魔塔のメダルとか持ってたり……」
「魔塔ってなに?」
「え?」
自然な流れで聞いたのだが、ミドは絶句してしまった。それに、マルサスは首を傾げて口を開く。
「……森の魔術師とはそういうものだろう。どんな存在とも深く関わらず、暗い森の中で独り、魔導の深淵を覗いているのだ」
「え?」
マルサスが魔塔とはまた別の内容を話しだし、ミドはそれにも疑問の声を上げる。なんだ、森の魔術師とは。
「……それは、悪い魔法使いの伝承じゃないですか?」
「いや、森の魔術師だ。知らないのか」
と、二人は似て非なる言葉を言い合い、お互い首を傾げた。はっきり言おう。不毛な争いだと。そもそも、この世界のどんな伝承も歴史も俺には無関係だ。考えるだけ無駄である。
「俺のことは置いておいて、とりあえず村で冒険者になることから始めようか。村でも魔獣の素材とか売れるのかな?」
「売れます。できたら、冒険者になって冒険者ギルドという場所で物を売り買いすると良いと思います。村では買い取れない高価な品も買い取ってもらえるので」
「おお、それは良いね! 一石二鳥だ」
ミドからもたらされた情報に大喜びで頷く。ミドは「イッセキ……?」などと首を傾げていたが、今はそれどころではない。
せっかく森を出るなら、もう一つ検証しなくてはならないことがあるのだ。そう、人口のカウント問題である。なにせ、一応は村として機能していたザガン族の村が地図に記されただけで、我が街の住民としてカウントされたのだ。そうなってくると、森の外の村や町も地図に記されれば我が街の住民かもしれない。
もしくは、それぞれの国の町や村となり、俺の町の住民にはならないかもしれない。まぁ、こちらのほうが濃厚だろう。なにせ、もし前者ならば、各町や村を旅してまわれば死ぬほどCPが稼げるということになる。それも、永続的にである。
いくらなんでも、そんなクソゲーではないだろう。
そう思いつつ、試さずにはいられない。それがゲーマーの性である。
「それじゃあ、行ってみようか」
そう告げると、族長に話を通して許可をもらってきたマルサスは腕を組んで唸る。
「……武器や防具は持っていないのか」
「持っていないなぁ」
「そうか」
そんなやり取りをして、ミドとカラビアに振り向く。
「それじゃあ、行ってきます」
「や、やっぱり、私も行った方が……!」
「……ちゃんと、帰ってくる?」
二人は玄関でそれぞれ返事をしてくれた。ミドは村まで付いてくると言っていたが、流石に危険なので待機指示である。
「大丈夫、大丈夫。村はそれほど出入りに厳しくないみたいだし、ダメそうなら逃げるからね。ちゃんと戻ってこれるよ」
ミドとカラビアに向けて笑いながらそう告げると、二人は複雑な顔で黙った。二人が不安なのも分かるけど、かといって連れて行くわけにもいかない。カラビアはもしかしたら鬼人族とバレないかもしれないが、そもそも毛皮を巻き付けたような服装で目立ち過ぎる。
まぁ、俺も着古した部屋着ではあるけど、若干マシだろう。
「それじゃ、改めて、行ってきます」
「は、はい……」
「……帰ってきてね?」
不安そうな二人に手を振りながら階段を上がり、マルサスを見上げる。
「後で様子を見に来てね」
「毎日顔を出すとしよう」
お願いをすると、マルサスはさらりと了承してくれた。最強の防犯サービスだ。ありがたい。
「ありがとう」
素直に感謝を伝えると、森の入口へ向かうマルサスがこちらを振り向かずに頷いた。
「……うむ」
そんな不器用な返事を聞き、俺は笑いながらマルサスの後に続いたのだった。




