森の外へ行く 40
昼頃、マルサスが訪ねてきた。律儀な性格なので、きちんと昨日言った果物を持ってきてくれたようだ。とても新鮮に見えるが、もしかして午前中獲ってくれたのだろうか。
「ありがとう」
「構わない。カラビアはどうだ」
「今は寝てるよ」
そう答えると、マルサスは薄く微笑んで頷いた。
「そうか……なら、我は帰るとしよう」
「え? 会っていった方が良いよ。不安だろうから」
「……では、一時間だけ待とう」
帰ろうとしたので呼び止めると、マルサスはその場に座り込んでそんなことを言った。本当に一時間で帰ってしまいそうなので、慌てて寝室にカラビアを呼びに行ってみる。すると、ベッドにしがみ付くようにして眠るカラビアの姿があった。
「カラビア、起きれるかい?」
肩に手を置き、名前を呼んでみた。すると、カラビアの頭がぴくりと跳ねる。
「ん……? あ……あれ?」
カラビアは寝ぼけているらしく、周りを見て、片手で頭を掻きながら顔を上げる。
そして、俺と目が合った。
「おはよう」
そう言って笑顔を向けると、カラビアは「ひゃあ」と声を上げて後ずさった。ベッドの上だったので、そのまま後方に行きすぎて床に落下してしまう。
「だ、大丈夫!?」
驚いて声をかけると、カラビアはベッドの下から顔を半分だけ出してこちらを見上げた。
「……そ、ソータさん?」
「そうだよ。おはよう。マルサスさんが会いにきたよ?」
そう口にした瞬間、カラビアは一気に上半身を出して、顔を上げた。
「マルサス兄様が……!?」
マルサスの名前を叫び、飛び出すような勢いで寝室から出ていく。そんなカラビアの姿に笑いながら、玄関の方へ向かった。
すると、カラビアとミドが玄関の扉の前で右往左往しているではないか。
「あ、ソータさん! 扉が……」
「ああ、ごめん」
言われてようやく扉が開けられないのだと気がついた。もしかしたら、ミドとカラビアを住民登録しないといけないのかもしれない。
扉を開けると、カラビアが入り口から階段の上の方を見上げ、マルサスの名を呼ぶ。
「マルサス兄様!」
その声を聞き、階段の上からマルサスが顔を出した。
「元気そうだな」
マルサスがそう言うと、カラビアは本当に嬉しそうに微笑んだ。そして、そのまま階段を登らずに話し続ける。
「マルサス兄様は元気?」
「ああ、元気だ。どうだ? 寂しくないか?」
「独りじゃないから、すごく楽しいよ!」
「そうか」
そんなやり取りをする二人を見て、苦笑しながらマルサスに声をかける。
「下に降りてきたら?」
「む……そうだな」
返事をして、マルサスが階段を降りてくる。段差もあり、マルサスが更に巨人になったような錯覚を受け、何となく一歩後ろに下がった。かなりの圧を感じる。
カラビアは慣れているからか、笑顔を崩さずにそわそわしながらマルサスが降りてくるのを待った。
二人は玄関前で向かい合って立ち、嬉しそうに会話をしている。そんなカラビアの背中を見て、ミドが嬉しそうに微笑んだ。
「仲が良い兄妹だね」
そう告げると、ミドは深く頷いた。
「はい。カラビアさんが嬉しそうで良かったです」
そう言ってニコニコ笑うミド。ミドも良い子である。いつか、ミドを捨てたというダークエルフ達とも笑い合って話ができるようになると嬉しい。
まぁ、ミドがそれを望めば、だが。
そんなことを思いつつ、話が落ち着いてきたので声を掛けた。
「そういえば、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「……む? なんだ」
声をかけると、マルサスがこちらを見下ろし、カルビアも振り返った。それに曖昧に笑いつつ、お願いをしてみる。
「えっと、村のドラゴン対策をしたいんだけど、今の状態だと少し時間が掛かりそうなんだ。だから、森の外に行って街で物を売りたいんだけど……」
そう告げると、マルサスは眉根を寄せた。
「森の外か。我は外まではいけない」
その言葉に、片手を左右に振って苦笑する。
「あ、大丈夫。森の外まで連れて行ってくれたら、後はどうにかなると思うんだ」
「そうか。それなら可能だ。ただし、森を出るまでに二日掛かる。その後、ソータが戻ってくるまで待つなら、それなりに日数がかかるだろう」
「あ、それなら大丈夫。街に行っても一泊か二泊くらいしかしないと思う。そもそも、お金もないから、もしかしたらすぐに帰ってくるかもしれないし」
笑いながらそう答えると、後ろからミドが異を唱えた。
「も、森からでても、近くの街まで一日はかかると思います。それに、街に入るには身分証か通行証が必要に……」
「え? けっこう厳しいね、それ」
ミドの言葉に、思わずそう呟いて口を尖らせる。そうなってくると、一生森から出られないではないか。
神を名乗るおじいさんへの不満を露わにしていると、ミドが慌てて別の案を提示してきた。
「そ、それなら、少し離れますが、森の近くにある小さな村だと入りやすいかもしれないです……ただ、その、森で魔獣狩りをする冒険者が多いので、ちょっと怖いですけど……」




