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イリアス? 4

 ふと、目を覚ます。


 まるで十時間以上寝ていたかのように、すっきりとした目覚めだ。


 夢。そうか、夢だったんだ。それはそうだ。だって、あんな怪しい神様がいるわけないじゃないか。神様というからにはもっと威厳があって、後光なんか差して見えるに違いない。


 そう思いながら、恐る恐る目を開ける。


 視界いっぱいに青い空が広がっていた。空は高く、細く長い雲が幾つか流れていた。その隙間を、鳥ではない何かが飛んでいく。黒く大きなそれは、まるで巨大な爬虫類に見えた。


「……う、嘘」


 そう呟き、地面に手をついて上半身を起こす。手のひらには冷たい土の感触があり、身体を起こすと深い木々の匂いがした。周囲を見ると、そこが森の中なのだと理解する。すぐ近くには木々はなく、開けた空間になっていた。そして、奥には池か川の淵部分のような水面が見えた。流れはあまりなさそうなので、池っぽい気がする。


 気になって、池の方へと移動してみた。水面は波立っていないせいか、まるで鏡のように景色を映し出している。恐る恐る覗き込んでみるが、そこにはいつもの男の姿があった。年齢は二十代中ほどに見えるが、実際は二十七歳だ。目にかかるほどの黒い髪と部屋着用のゆったりしたスウェットと襟の無い上着のせいで、より幼く見えてしまうのかもしれない。


「……もしかしたら美少年になっているかと思ったけど」


 そう呟きつつ、自分の顔を確認する。うん、いつも通り。


「さて、ここはどこだろう」


 顔面チェックを終えて立ち上がり、周囲を改めて確認した。静かな森の中に見えるが、本当に別の世界なのだろうか。


「東南アジアにある、すごい自然がいっぱいの地域とかと言われても納得してしまいそうだけど」


 そう口にした瞬間、まるでそれを合図にしたように森から何かが飛び出した。現れたのは全身を硬そうな毛に覆われた生物だった。顔が大きく、大きな牙が生えている。あまり見たことはないが、猪のようだ。


 ただし、サイズがおかしい。まるでトラックのような巨大さだ。そして、色も赤っぽい。


 やばい。突進されたら間違いなく死ぬ。猪はこちらをしっかりと見ており、少し姿勢が低くなったような気がした。臨戦態勢に見えて、すごく怖い。


「……よし。いざという時は池に飛び込む。それしかない。飛び込むぞ」


 そう言って、横目で池の方に目を向けた。


 そこでようやく気付く。ついさっきは池のすぐ手前だけしか見ていなかったから気が付かなかったのか。


 池の中心に、妙な影があったのだ。岩の上部が見えているようにも見えるが、明らかに動いている。よくよく見れば、表面には鱗のような模様があると分かった。まさか、ドラゴンか。そう思ったが、かなり長いようなので、大蛇なのかもしれない。


 いや、今はそれはどうでも良い。一番気にすべきところは、これで逃げ場を失ったということだ。


「お、落ち着け……話せば分かる」


 そう呟きつつ、池の淵に沿って移動してみた。猪を刺激せず、そっと森の中へ姿を消すのだ。そうすれば、あの大量の木々が足止めをしてくれる。


 そう思った矢先、猪は無言で地を蹴った。激しい地響きと土煙を上げて、猪が迫ってくる。


「お、落ち着けって!」


 トラックだ。トラックが物凄い速度で向かってくるぞ。猪は真っすぐ走るから、横に逃げるんだ。


 そんな言葉が瞬時に脳内を駆け巡り、弾かれるように横へ走り出した。全力疾走だ。


 大丈夫だ。木々が生えているエリアまであと僅か。意外と近いじゃないか。


 そう思ったのも束の間。背後からは猛然と向かってくる地響き。背後を振り返ると、猪が方向転換して走ってきていた。


「小回り利くの!?」


 絶叫である。声を裏返らせながら、ギリギリのタイミングで森の中へ逃げ込み、木々を盾にして走る。我ながら素晴らしい判断だ。


 そう思ったが、背後からはとんでもない音が聞こえてきた。耳が痛くなるような激しい破壊音だ。腹に響く轟音に振り返ると、巨大な大木を突進で破壊した猪の姿があった。


 恐ろしいことに、猪は木々に衝突する度に少し速度を落とすだけで、次々に薙ぎ倒しながら前進しているのだ。


「あんなの猪じゃないよ! 詐欺じゃない!?」


 涙が出そうなほどの恐怖で、必死に叫びながら走る。あのおじいさん、なんでこんな場所に……!?


 神を名乗るおじいさんへの怒りが沸々と湧きながら駆け回る。まだまだ猪は付いてきているが、息切れしていて体力の限界も近い。


 もはや怒りと恐怖で走っているに過ぎない。


「光! も、森を、ぬ、抜ける……!?」


 鬱蒼とした森の中を駆け回っている内に、ようやく進行方向が明るくなってきた。


 森からの脱出を果たして、それで助かるのか。それは分からないが、そこに賭けるしかない。


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