お風呂は大丈夫か 38
色々と見て回り、部屋を簡単に説明している間はミドがマルサスに補足説明をしてくれていたので、意外と早く許可が下りた。
「……我々より遥かに良い生活をしていることが分かった。これで帰るとしよう」
「了解」
外に出て、対面するように立ち、返事をする。俺の隣には寂しそうなカラビアと笑顔のミドが立っている。
「……カラビアを頼む。また、会いに来る」
「マルサス兄様……」
マルサスの言葉に、カラビアが涙声で頷く。やはり、唯一の家族がいなくなるのは寂しいようだ。だが、これからは俺とミドがいるし、少しでも気持ちが楽になると嬉しい。
そう思いつつ、暫くはマルサスがいなければダメだろうということも分かっていた。
「あ、明日は果物を持ってきてくれないかな? ちょっと在庫が……」
「……分かった。それでは、また来る」
理由を付けてマルサスに来訪の約束をさせると、さらっと了承してもらえた。良かった、良かった。
皆で立ち去るマルサスの背中を見送ってから、再び家の中に入る。そして、カラビアに声を掛けた。
「それじゃあ、食事もしたし、お風呂に入ろう。やり方を教えるから付いてきて」
「は、はい!」
物凄く緊張した様子だが、カラビアは素直についてきた。そして、服を着たままお風呂場に行き、浴槽にお湯を溜めながらシャワーの使い方をレクチャーする。ミドがもう覚えているので、一緒に入ってもらおうかと思ったが、よく考えたら子供のように見えても二十歳である。なんとも判断に困る。そう思って、自分でやり方を教えておいた。
必死にやり方を覚えていたカラビアだったが、洞窟で十数年暮らしていた割に綺麗である。洞窟内の川で水浴びをしていたというが、一日に何度も水浴びをしていたのだろうか。
「もしあれだったら、お風呂は一日に三回くらい入っても良いよ。お湯タンクの残量があるから、連続は厳しいかもだけど」
「そうだったんですね」
お風呂の説明をしていると、何故かミドが驚いていた。無尽蔵に出るわけではないので、効率的に使っていただきたい。
「それじゃあ、試しに先にお風呂に入ってみて。あ、あんまり長く入ると大変だから、そこは気を付けてね」
「は、はい!」
カラビアの良い返事を聞き、ミドと一緒に外へいく。もし倒れられたら大変だ。ミドにコップで水を持って待機してもらい、リビングルームでカラビアが風呂から出てくるのを待った。
そういえば、リビングにはテレビが最初から備え付けられているけど、何も映らないよな。
そんなことを思いながら、待つこと五分。意外にもカラビアがすぐに出てきた。
「あ、あの……け、毛皮を着ていて大丈夫……?」
そう言って、扉の向こう側でカラビアが聞いてくる。もちろんである。我が家は裸族を推奨してはいない。かといって、着替えがないのも問題だ。
「そうだね。とりあえず、どうにかして服とか調味料を手にいれないとなぁ。ゲームなら外と道路や線路を繋ぐだけで良いのに、大変だよ」
「よ、良く分からない……」
「あ、カラビアさん。ソータさんが難しい言葉を言った時は、あまり気にしないで」
「う、うん……」
二人はそんなやり取りをして、こちらを見る。何故か疎外感を感じるぞ。
そんなことを思いつつ視線を向けると、カラビアの毛皮から水が滴っていることに気が付く。あ、身体をしっかり拭いていないな。まぁ、タオルとか無いから、マルサスが討伐した魔獣の毛皮で体を拭くしかないのだが。
「あ、お風呂場でできるだけ水気を無くしてから出てきてね。毛皮を置いてるから、それを使ってくれたら大丈夫だよ。できるだけ柔らかい毛皮を選んだけど、全然水を吸わないけどね」
そう言って苦笑していると、カラビアは慌てて返事をした。
「あ、ご、ごめんね!」
カラビアは謝ると、すぐに自分が着ている毛皮を脱いで自らの体を拭き出した。その衝撃なシーンに、即座に顔を横に向ける。
「お、お風呂場に毛皮があるから! そっちでね!」
「あ、はい!」
声を掛けると、カラビアが奥へ向かう足音が聞こえた。ホッと一息付き、隣を見る。すると、ふわふわした様子のミドの顔があった。
「……見た?」
そう尋ねると、ミドは顔を真っ赤にして俯く。耳の先まで真っ赤だ。
「……破廉恥な」
「わ、わざとじゃないんです……っ」
俺が何を言ったのか分かっていないだろうが、ミドは必死に弁明した。はっはっは。面白い。この三人での共同生活なら、楽しそうである。
そんなことを思い、俺はミドをからかって遊ぶのだった。




