驚きの地下生活 37
カラビアを連れて、皆で家に帰る。我がスイートホームだ。地下生活と侮るなかれ。その生活水準は現代日本の一軒家レベルである。
「……カラビアの住む場所だ。見ても良いか?」
妹の住まいが気になったのか、マルサスが神妙な顔でそう言った。
いや、入れるかな?
そんなことを思いながら、巨大なマルサスを見上げる。
「……狭いけど、大丈夫?」
「地下にあるのだ。それくらいは覚悟している」
即答だった。まぁ、良かろう。多分、少し頭を下げれば天井には当たらないはずだ。天井は意外と高いし。
瞬時にそれくらい大雑把に考え、立ち入りを許可した。
「ただいまー」
「た、ただいまー」
帰宅の挨拶をしながら扉を開けると、ミドもそれに倣った。先に二人で室内に入り、振り返る。
「いらっしゃいませ」
笑顔でそう告げると、オドオドした様子のカラビアが入ってくる。更に、その後ろからは厳しい顔のマルサスが続いた。
そして、驚愕する。
「……朝?」
「な、なんだ、これは……」
目を皿のように丸く見開いて、室内を見回すカラビアとマルサス。靴を脱いでねと言おうと思ったが、二人とも素足だった。
「ここは玄関であり、リビングルーム。こっちは寝室で、反対側はキッチン。奥はトイレとお風呂場かな。気になってそうだし、寝室以外は案内しようか。あ、狭くない?」
そう尋ねると、マルサスが首を九十度横に倒した状態で頷いた。
「……問題ない」
「問題ありそうだけど、まぁ良いか」
まっすぐ立てないマルサスに苦笑してからキッチンの方へ向かう。部屋の移動の時は扉を潜らなければいけない為、マルサスは四つん這いのような状態で移動することとなった。やはり、通常の家のサイズは鬼人族には厳しいらしい。
キッチンに行き、簡単に肉を調理してみせた。ミドはお手伝いだ。カラビアはどうして良いか分からない感じだったので、ダイニングの椅子に座って待ってもらった。
「……これが人間の世界か」
調理中にマルサスがそんなことを言うので、苦笑して否定しておく。
「いやいや、多分ここだけだよ」
そう告げると、マルサスは目を鋭く細めた。その表情に首を傾げつつ、料理を完成させる。肉を焼いただけだけど、それでも十分美味しいから驚きである。デザートは冷蔵庫で冷やしておいた果物だ。
「今は味付けは塩しかないけど、いずれは調味料とかパンとか手にいれたいね」
笑いながら料理を配膳し、テーブルを皆で囲む。まぁ、マルサスは椅子に座れなかったので、テーブル横で胡坐を掻いて座ることとなったが、仕方がない。
「……美味い」
「美味しいです」
マルサスとミドが満足そうに頷き、感想を述べる。気になってカラビアの方を見ると、カラビアはまだ料理に手を付けていなかった。俯き、肩を震わせている。
「……大丈夫?」
尋ねてみると、カラビアは泣きそうな顔で頷いた。言葉は出ず、手で焼けた肉を食べようとするので、横に置いたフォークを指差す。
「これで刺して、食べてみよう」
そう告げると、カラビアは慌ててフォークに手を伸ばし、見様見真似で肉を食べる。少し熱かったのか、驚いていたが、すぐに肉一切れを食べてしまった。お腹が空いているのかな。
そう思ったが、どうやら違うようだ。
肉を食べながら、カラビアはぽろぽろと涙を零す。その様子を見て、ミドとマルサスも手を止めた。皆がカラビアの様子を窺っていると、やがて微笑みが返ってくる。
「……美味しい」
カラビアがそう口にして、ミドは嬉しそうに微笑んだ。カラビアもホッとしたようだ。少し時間はかかったが、簡単な食事が終わり、次の場所へ案内する。
「ここがトイレとお風呂場だね。本当なら大浴場が欲しかったけど、温泉旅館はユニーク施設だからなぁ。すぐには出来ないし……」
愚痴も交えつつ、ミドと一緒にカラビアとマルサスを案内する。
「ユニーク?」
「ソータさんは時々とても難しいことを言われますので……」
首を傾げながら四つん這いで移動するマルサスと、苦笑交じりにフォローのような言葉を口にするミド。二人も最初より仲良くなった気がする。
「さて、ここがお風呂だね。お湯が出るので、湯浴みをすることができるし、水が流れるので綺麗な環境でトイレを使うことができるよ」
そう言って、怪訝な顔をするマルサスにお風呂場を見せて、シャワーでお湯を出してみせた。湯気が立つのを見て、マルサスが目を丸くする。
「と、まぁ、こんな感じかな? トイレも一緒だね。温水シャワー機能もあるから、便利だよ」
そう告げると、マルサスは呆れたような顔になった。
「……全く分からん」




