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【別視点】カラビア 36

【カラビア】


 洞窟を出る……そんなこと、とっくの昔に諦めていた。


 小さな頃は、ただ夜が怖くて仕方がなかった。大声で泣き続けたり、必死に眠ろうとした。


 十日に一度の食事は知らない内に洞窟の入り口に置かれていた。最初はどうにかして食事が置かれるところを見ようとして洞窟の入り口近くにいたが、そうすると食事は置かれなかった。


 仕方なく、洞窟の奥で待つことにした。


 たまに、マルサス兄様が来てくれた。それが一番嬉しくて、毎日来てくれないかとお願いした。それから暫く、一週間に一度来てくれたこともあったが、月に一度しか駄目になったと言われた。


 僕が、ワガママを言ったからだ。ワガママを言ってしまったから、マルサス兄様が月に一度しか来れなくなってしまった。


 それからは、絶対にワガママを言わないと誓った。マルサス兄様から色々なことを教えてもらい、外の話も聞いた。


 洞窟の中は広く、奥には毛皮を重ねて作った寝床もあった。小さな川も流れていたので、そこで水浴びもできた。ただ、一番奥の穴には骨が幾つもあって怖かった。だから、洞窟の真ん中と入り口の間で日々を過ごした。


 洞窟の中にはたまに小さな動物が来る。餌をあげていたら逃げなくなった動物もいて、それが唯一の同居人だった。小さな動物がいても、話すことができなくて寂しかった。不思議と毎日涙が止まらない時もあった。どうして涙が出るのか分からず、ただ、泣き続けると胸が痛くなって辛いのだと知った。


 少しずつ身体も大きくなり、泣くことも減った。その頃から、もしかしたら、やがて自分にも角が生えるのではないかと思うようになってきた。そう思うと、とても幸せな気持ちになれたし、今の寂しい気持ちにも耐えられる気がした。


 毎日、角が生えていないかと頭を触って過ごしていた。何年もして、ついに気になってマルサス兄様に尋ねてみたことがある。


「僕の頭に、角が生えることはある?」


 そう尋ねたら、マルサス兄様は泣きそうな顔で笑って、僕の頭を撫でてくれた。でも、角が生えるかもしれないとは言ってくれなかった。


 また、涙が止まらなくなってしまった。どうしてだろう。今までも悲しくて堪らない時はあったはずなのに……悲しくて、辛くて、どうしようもなく寂しい。


 でも、ワガママは言えない。もし、ワガママを言って、マルサス兄様が会いに来てくれなくなったら……そう考えるだけで、胸が痛くなり、震えが止まらなくなる。


 だから、マルサス兄様が来た時は嬉しい気持ち以外を無くして、笑顔で話をしようと決めていた。


 でも、それから数年……突然、知らない誰かと会うことになった。マルサス兄様以外の人のことは忘れてしまっていたが、こんなに小さな人は見たことが無かった気がする。だって、僕と同じくらいの背の人と、明らかに小さな子供だ。細くて、小さい。頭に角が無いようだから、もしかしたら僕と同じ忌み子かもしれない。


 そう思ったが、二人は人間とダークエルフだという。マルサス兄様に聞いてはいたけど、鬼人族以外の種族を見たのは初めてだったので驚いた。


 初めて見るマルサス兄様以外の人物だからか、二人とも可愛いと思った。


 そして、気がつけば僕がここから出て、ソータさんという人間と、ミドさんというダークエルフの二人に付いていくことになった。


 その話を聞いて、酷く悲しい気持ちになった。考えないようにしていたけれど、ずっと角が生えなかったら、もっと寂しい場所へ行くのではないかと思っていたのだ。


 そこはマルサス兄様も会いにきてくれない場所で、動物達も来ないような暗闇だ。


 そう思った瞬間、これまで我慢していたものが溢れ出してしまった。涙を止めることもできず、ただ悲しい気持ちに支配されてしまう。


 もうダメだ。せっかく我慢していたのに。悲しい気持ちを隠してきたのに、溢れてしまった。マルサス兄様がいなくなってしまう。


 悲しくて、辛い。そう思った時、誰かが肩に手を置いた。初めての感覚に、驚いて振り向く。


「カラビアさんは、マルサスさん達から捨てられたわけじゃないです。むしろ、多くの村の人たちから心配されてました! だから、だから……」


 ミドさんが、本当に悲しそうに涙を浮かべ、そう言った。そして、ソータさんが見たことのない、優しげな表情で微笑み、口を開く。


「……カラビアさん。一度だけ、うちに来てみないかな? もし嫌になったら、すぐにここへ戻してあげよう。そうしたら、これまで通り、洞窟の中で暮らせるよ。どうする?」


 その声は、泣きそうになるくらい優しかった。そして、初めて、自分に何かを選ぶようにと言われた。


 選ぶ? 自分で、どうするかを?


 その言葉の意味を理解できずにいると、マルサス兄様が口を開く。


「安心しろ。ソータのところに行っても、我はこれまで通り会いに行く。それは変わらない」


「……ほ、本当? 僕は、忌み子だから、捨てられるんじゃ……」


「大丈夫だ。我を信じられないのか」


「そ、そんなこと、ない……!」


 マルサス兄様の言葉に反射的に答える。いや、マルサス兄様だけは、ずっと僕を見てくれていたのだ。マルサス兄様がそう言うなら、絶対に大丈夫。


 そう自分に言い聞かせていると、ソータさんが少し困ったような笑顔で、首を傾げた。


「……友達になれたら嬉しいな。俺やミドと友達になるのは嫌かい?」


 そう言われて、心を決める。僕は、ここから出るんだ。たとえ、もっと暗く、狭い場所だったとしても、独りで生きていくより、ずっといい。


 それに、そうすれば、きっとマルサス兄様はずっと会いにきてくれるはずだから……。




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