どうしよう 33
「今まで問題が無かったなら、そのままにすれば良い」
「洞窟の中から出すべきではない」
そういった声が聞こえてきて、マルサスは口を閉じた。それほど多くは無いが、ぱっと見でも忌み子を洞窟から出すことに不安を覚えている者はいそうである。
それらの声に、マルサスは難しい顔で唸った。反論するべきか悩んでいるのだろうか。いや、どう反論して良いか分からないのかもしれない。
確かに、言っていることは尤もだ。この世界のことは分からないが、もし本当に呪いなどがあり、それが洞窟から出たら周囲に広がっていくような代物なら、懸念されていることは正しかったことになる。
しかし、話を聞く以上、それは無さそうである。
自分ならどう説明するかなぁ、なんて思って見ていると、マルサスがこちらに顔を向けた。
「……外部の知識を持つソータの話を聞きたい」
「え? 俺?」
族長との対話で役目が終わったと思っていたが、どうやらここでも出番が回ってきたらしい。ハウラスも何故か頷いてこちらを見ているし、どうも解説者のような役割になっていそうだ。隣を見ると、ミドが目を輝かせてこちらを見上げている。いやいや、変な期待はしないでもらいたい。
そう思いつつ、先ほどの否定的な意見が出た方向を見やる。
「……それでは、個人的な考え方から話をさせてもらいますが」
前置きをしつつ、自分を指差した。
「人間の中にも、時々その忌み子と呼ばれるような状態で生まれる者がいます。しかし、それは当然のことで、仕方がないことです。中には色素が極端に少ないアルビノという身体的特徴を持って生まれることもあります。鬼人族の忌み子と呼ばれる角が無い子と同じ理由かは分かりませんが、太陽の光に弱く、視力も落ちやすいという側面がありますね」
そう言うと、皆がざわざわと驚いたような反応を見せた。その内容は様々だ。アルビノへの驚きや、人間にもそんなことがあるのかという驚き。それ以外にも、人間の話には興味がないといった冷めた反応もある。
とはいえ、族長やマルサスが黙って聞いている為、皆話は聞いてくれているようだ。うむうむ。鬼人族はやはり理知的である。
そんなことを思いつつ、話を続ける。
「でも、実は何十人に一人はそのアルビノという遺伝子を持ってるんですよね。だから、誰でもなる可能性はあるし、ならない可能性もある。他にも、生まれた時から目が見えなかったり、耳が聞こえないなんてこともあります。こちらも、呪いではなく、誰でもなる可能性があるものです。忌み子も、それと同じだと思います」
はっきりとそう断言する。それに、明らかに敵意を持つ者がいた。数名だが、強い視線を感じる。いやぁ、恐い。帰りたい。しかし、不意に格子の向こうに立つカラビアの姿が脳裏に浮かぶ。
十年以上、たった独りで洞窟の中で過ごしてきた角無しの鬼人族。こちらからしたら、見た目の差異があるだけで差別されてしまっているとしか思えなかった。そう思うと、ミドの時と同じで切ない気持ちになる。
その気持ちに後押しされながら、必死に訴える。
「……ちなみに、人間の国では生まれた瞬間から目が見えなくても、耳が聞こえなくても、きちんと皆で支え合って生活しています。それで国が滅ぶことはありません。つまり、忌み子を生む呪いなど存在しないということです」
きっぱりと言い切ると、唸り声が聞こえ、反論するような意見が出てきた。
「人間は知らないのだ。森で暮らす鬼人族には、時に神々の呪いが降りかかることがある。それを無視することは危険なことだ」
そんな意見に、どう答えようかと悩む。相手の主張は現実に存在するかどうか証明できないものだ。それに対して、有無を論じるのは難しい。とはいえ、その主張に反論できないとハウラスも何もできないだろう。
仕方ない。こうなったら、こちらも過去の神話から例を出すとしようか。
「……神の呪いはどの種族にもあるでしょう。人間だって、空を飛べるようになったら太陽神に羽を焼かれたり、神よりも高いところに住もうとして巨大な塔を雷で破壊されたりしたという逸話があります。しかし、全てその対象への攻撃といった形です。これまで神々から多くの天罰を受けてきた人間だからこそ、忌み子という呪いは存在しないと断言します」
地球の神話を持ち出したが、誰もそれがこの世界のものではないと判断できないはずだ。そう思って口にしたのだが、思いのほか多くの反応があった。
「なんと、そんなことが……」
「人間も神々の怒りを買ったのか」
「恐ろしい種族だな……」
スケールの大きな神話を聞き、鬼人族達は驚愕しているようだった。ちなみに、ハウラスとマルサスも驚いている。
「……そんなことがあっても、人間は滅亡していないのか」
「いや、しかし、我々とは違うかもしれんぞ」
先ほどまで否定的な意見を出していた者たちも困惑しているようだ。
「建物が破壊されたり、殺されたりといった形で神が怒りを表現することが殆どです。唯一あるのは動物に姿を変えられてしまうことくらいですか。それに比べて、角が無いというのは大きな変化ではありません。間違いなく、呪いではないでしょうね」
そう断ずると、ほとんどの声は聞こえなくなった。
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