族長として 31
マルサスが先頭をきって歩き、すぐにハウラスを発見した。こちらに気が付いたハウラスが、先頭のマルサスを見た後に後ろに並ぶ自分たちを発見して口を開く。
「……ソータか。どうした?」
ぶっきらぼうだが、不思議と親しげな雰囲気だと感じた。いや、希望的観測かもしれないが、最初に会った時よりは柔らかい空気感ではなかろうか。
「この村の風習について話しに来た」
「……なに?」
しかし、その空気をマルサスが一言でぶっ壊した。ついこの前ミドの件で意見したばかりだというのに、また何かあるのかと。そんな目でハウラスがこちらを見ている気がする。
「と、とりあえず、場所を移しましょう。あ、もし可能なら、家の中とかの方が良いかも」
そう提案すると、ハウラスは目を細めて俺とミドの顔を順番に眺め、次にマルサスへ向けた。
「……分かった。付いてこい」
その言葉の頷き、無言で付いて行くマルサス。どうやら、今の僅かなやり取りでこの件の首謀者はマルサスだと露見したらしい。流石は親子。そう思って見てみると、後ろ姿はソックリである。
ミドと一緒に冷や汗を流しながら後に続き、村の中心にある家の中へ入っていった。外から見たら不ぞろいの丸太で組んだ野性味溢れるログハウスだと思っていたが、中は更にワイルドだった。地面は土がそのまま露出しており、その上に巨大な黒い毛皮が敷かれた状態だ。鬼人族の身長に合わせているせいか、天井は高い。多分、天井まで四メートルくらいあるだろう。丸太が斜めに一直線に並べられて屋根になっている。雨が降ったら雨漏りしそうだ。
木々の匂いに交じって少し動物の匂いがするが、これは毛皮の匂いだな。
部屋の中を観察しながらそんなことを考えていると、ハウラスが奥に胡坐を掻いて座った。マルサスがハウラスから二メートルほど空けて、対面するように胡坐を掻いて座る。驚くべきは二人が座ってようやく目線が同じくらいになったということだ。なんだ、この巨人たちは。
「ソータ、座れ」
「ミドもだ」
二人にそう言われて、少し離れた場所にミドと並んで座る。なんとなく胡坐を掻いて座ったのだが、ミドも頑張って胡坐を掻いて座ろうとしていた。あ、横に転んだ。ふふふ、だるまさんみたいだね、ミド。
そんなことを考えていると、ハウラスが目を細めてマルサスを睨む。
「……それで、言いたいこととはなんだ」
その言葉に、マルサスは深く頷き、こちらに顔を向けた。それに釣られるように、ハウラスもこちらに顔を向ける。
どうやら、後は頼んだというマルサスなりのジェスチャーらしい。了解です。
「……えっと、ちょっと気になったんだけど、鬼人族って角の本数が違う人もいますよね? それで、角が無い人の場合、忌み子と呼ばれる、と聞いたんだけど……」
ハウラスに遠回しで話題を振るのは良くない。そう思い、直球で攻めてみた。すると、予想通り、ハウラスは眉間に深い皺を作ってこちらを睨みつけるように見る。
「……ザガン族だけではなく、鬼人族の古い教えだ。昔はその教えを守らず、呪いを増長させてしまった一族もいたが、今ではその教えを守っているお陰で、忌み子は滅多に現れない。我が一族でも、忌み子は数十年ぶりのはずだ」
と、ハウラスが説明してくれた。良かった。冷静だ。
そして、話の内容も思ったより筋が通っていた。昔は忌み子を隔離していなかったから、村に忌み子が増えてしまった。だから、今は忌み子が生まれたら隔離して増えないようにしている。そういった趣旨だろう。
理屈は置いておいて、理由と対策は明確である。しかし、それが正しいかは別だ。
「なるほど。理由は良く分かりました。しかし、角の無い鬼人族の角のある鬼人族が一緒に暮らしたからといって、角の無い鬼人族が増えていくわけではありません。呪いではないので、生活を共にすることもできます」
はっきりとそう告げると、ハウラスの目が更に鋭くなった。
「……どうやってそれを証明する? 我は族長として、教えを守る必要があるのだ。村の皆を危険に晒すわけにはいかない」
「確かに、それは間違いありません。過去の教えには全て理由があり、それを守ったからこそ鬼人族は今も強い種族なのでしょう」
ハウラスの言葉にしっかりと同意の意思を示す。これは必要なことだ。こちらが同意したことで、ハウラスは少し気を静めたと思う。その証拠に、ハウラスの眉間の皺は少し薄くなった。
「……分かったら、この話は終わりだ」
ハウラスがそう口にすると、マルサスとミドが真剣な顔でこちらを見た。いや、もちろん、このまま終わるつもりはないよ。
心の中で二人の視線に答えつつ、ハウラスの目を真っすぐに見た。
「……それなら、忌み子が違う場所で暮らすのは問題ないということですね。ザガン族の村には近づかなければ、鬼人族の教え通りですから」
そう告げると、ハウラスは目を丸くした。
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