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ザガン族との交渉 30

 こちらを見ることなく、俯きがちに答えるカラビア。胸の前で組んだ指先は震え、目じりには涙が浮かんでいた。


「……分かった」


 カラビアの気持ちを考えて返事をすると、ミドがこちらに顔を向けた。不安そうな顔だ。その表情を見るだけで、ミドの気持ちが伝わってくる。どうして、助けようとしないのか、という疑問だ。


 もちろん、言葉だけで助けると宣言することは簡単だが、それが可能かどうかはまだ分からない。カラビアの未来に関わる話なのだから、下手な期待を持たせて裏切るわけにはいかないのだ。


「……マルサスさん?」


 そう声を掛けると、少し離れた木々のところからマルサスが姿を見せた。やはり、心配で傍にいたのか。マルサスはこちらに向かって歩いてきたが、表情は険しかった。


「……族長と話をする気か」


「……カラビアさんとマルサスさんの立場が悪くなったりする?」


「それは……分からん」


 気がかりはそこだったのだが、マルサスは首を左右に振って分からないと答えた。ザガン族の中で、角無しの子がどれほどの禁忌となっているのか。一族から離れるのなら良いのではないかとも考えたが、それほど甘くないかもしれない。


「……部外者がどこまで首を突っ込めるかなぁ」


 腕を組んで唸り、そう呟く。すると、マルサスは複雑な表情でミドを見下ろした。


「我がザガン族の村に、ハーフダークエルフであるミドが出入りしたのだ。それを族長に認めさせたソータならばと思っている」


「期待してくれるのは有難いけど……今回はザガン族内部の問題だからね。できるだけハウラスさんを怒らせないように交渉しないと……」


 そう答えると、マルサスは少し表情を緩めた。


「話をしてくれるのか」


「き、期待しないでね? 本当に、期待しないでね?」


「分かっている」


 マルサスは上機嫌にそう言ったが、絶対に期待している。いや、俺はネゴシエーターではないのだ。それに、下手にハウラスを怒らせれば、俺が撲殺される可能性もある。ハウラスは冷静な男だと信じているが、それでも死と隣り合わせの交渉となるだろう。


「カラビア。またすぐに会いに来る。少し待っていろ」


「は、はい……え? すぐに、会いに来てくれるの?」


 こちらの会話の意味が分かっているのか、分かっていないのか。カラビアは首を傾げて困惑していた。その様子を見て、気持ちを引き締める。


 カラビアは良い子である。少し話をしただけだが、思いやりのある優しい性格だと分かった。なによりも、理不尽に降りかかった不幸に対して自暴自棄にならず、他人のせいにもしていない。普通なら、ザガン族やハウラスに対しての恨みを持っていてもおかしくないだろう。しかし、そんな理不尽な扱いを受け入れて、尚且つ、それでも会いに来てくれるマルサスを慕っている。


 もし自分が同じ立場なら、ザガン族を恨むと思う。何なら折角会いに来てくれているマルサスにも泣き言や恨み言を口にするはずだ。


 俺にはない純粋さがカラビアにはあると思った。だからこそ、自由な人生を歩んでほしいと思う。


「……やってみようか」


 苦笑交じりにそう呟くと、マルサスは頷いて踵を返した。


「うむ。では、行くとしよう」


「え? 今から」


「早い方が良い」


 それだけ言うと、マルサスは来た道を戻り出した。なんという男だ。下手をしたら殴り殺されるというのに、心の準備もさせてくれない。


 そう思って、ハッとした。


「あ! とりあえず、ミドを家に帰らせてからにしよう! 行くなら俺一人で良いから!」


 慌ててマルサスに声を掛けると、マルサスが返事をする前にミドが口を開いた。


「私も行きます。何も力になれませんが、行きたいです……!」


 と、ミドが意思表示をする。ミドが初めて強く自分の意思を伝えてきた。カラビアの境遇を自分に重ねているに違いない。本当なら、ミドは置いて行くべきだが、その意思は尊重したかった。


「……よし。三人でいこうか」


 そう言ってから、マルサスにお願いをしておく。


「もし、ハウラスさんが怒ったら、なんとかして止めてね?」


「……分かった」


 半分冗談、半分本気でお願いしたのだが、マルサスは低い声で小さく呟いた。まるで合戦に挑む武士のような覚悟を感じる。


 親子で本気で殺し合いみたいな戦いを繰り広げる気か。駄目だ。鬼人族の争いがどれほどか想像もつかない。これは、ハウラスとマルサスが喧嘩にならないように全力で交渉しなくてはならない。


 そう思いながら森の中を歩いていき、川を経由せずにそのままザガン族の村に到着する。


「え? 早くない?」


 驚いてタブレットを確認したが、なんと一時間半歩いていた。疲労感はたっぷり体に残っている。グルグル考えていたせいで、時間の感覚がおかしくなっていたようだ。


 いかん。急にドキドキしてきたぞ。こんな状態で交渉なんてできるのだろうか。





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