カラビア 29
光に透けそうな淡い金色の髪は長く、腰の下あたりまであった。肌は透明感を感じさせるほど白く、鬼人族とは思えないほど細い。身長は恐らく、自分と同じ百七十㎝ほどだろうか。だが、線が細い為、トップモデルのようなオーラがあった。瞳は大きく、髪の色と同じ淡い金色だ。
衣服は鬼人族の皆と同じような毛皮を縫い合わせた代物だが、それがまるで舞台の上に立つ為の衣装にも見えた。
カラビアは格子の前まで駆け寄ってきて、外の光に目を細めながらマルサスの姿を確認する。
「マルサス兄様……この前来てくれたのに、もう……」
本当に嬉しそうにマルサスに話しかけていたカラビアだったが、その後ろに立つ俺たちに気が付き、驚きの声を上げる。
「……え? あ、だ、誰か……マルサス兄様の後ろに、誰か、いる……っ」
カラビアは驚き、幽霊を見たような顔でこちらを指差した。それに頷きながら、マルサスが答える。
「……今日は、お前に話し相手を連れてきた」
「え?」
マルサスが物凄く簡素な回答をし、カラビアが目を丸くする。当たり前だ。もっと丁寧に説明してもらいたい。
「えっと、マルサスさんの友達の安藤奏太です。こっちはミド・ラーシャル。ソータとミドって呼んでね」
そう言って笑顔で手を振ってみた。ミドも頑張って横で頭を下げたりしている。すると、カラビアは釣られるように格子の向こう側で手を挙げていた。
そんなとんでもなく気まずい状況で、マルサスはこちらに背を向けて歩き出した。
「ちょっと待てぃ!」
「ん?」
「いや、どこにいこうとしているのか、と」
マルサスの背中に問いかけると、当たり前のことを言うような顔で返事があった。
「せっかくだから、三人で話をした方が良いだろう。我は周辺に魔獣が来ないよう、見回りをしてくる」
「まじっすか」
そう口にした時には既に遅かった。マルサスはこちらの返事も聞かずにどこかへと歩き去ってしまう。
そして、残された三人の気まずい空気だけが残った。
「……えっと、カラビアさん、で良いかな?」
「あ、は、はい……」
慌てて返事をしたカラビアだったが、声が裏返っている。初対面の時のミドより少しだけ明るい雰囲気だが、それでも物凄く怖がっているのは分かる。
「ちょ、調子はどうかな? 元気?」
「……あ、う……」
失敗した。カラビアはどうして良いか分からず、パニックになっている。フランクにいきすぎたか。それとも、話題が面白くなかったか。もっと、こう、楽しい話題はないものか。いや、この状況で楽しい話題など思いつくわけもない。
「ずっと、この洞窟に? 食事とか、どうしてるの?」
「……十日に一回、干し肉が置かれていて……」
「え? お肉ばっかり? 果物とかは?」
「あ、と、時々……」
思ったより、しっかりとした教養が備わっているようだ。多分、マルサスが色々と話をしてきたのだろう。色々と会話をしつつ、カラビアの向こう側に広がる洞窟内を見てみた。だが、暗くてよく分からない。奥はやはりかなり広いようだが、湿度が高いのかジメジメした空気が漂ってきている。
「そういえば、水とかはどうなってるの?」
気になったので尋ねると、カラビアは後ろを振り返りつつ答える。
「あ、洞窟の奥に、川が流れていて……さ、魚とかも、いたり……」
「へぇ、そうなんだ。それは見てみたいなぁ。ねぇ、ミド?」
「え!? あ、はは、はい!」
話に加わってもらおうと思ってミドに声を掛けたところ、思い切り驚いてしまった。挙動不審気味になって返事をするミドに、カラビアも目を瞬かせる。
二人とも奥手だから、仲良くなるまで時間がかかるかもしれない。しかし、仲良くなれば良い友達になれそうだと思った。
「え、エルフ……初めて見た……」
「えっと、だ、ダークエルフで、しかもハーフですが……」
二人は慣れない様子で会話をしている。その様子を見て、そろそろ本題を聞いてみるかと口を開く。
「……カラビアさんは、外に出たいとか考えたことある?」
そう尋ねると、カラビアは目を丸くして固まる。まるで考えたことも無かったとでも言うような表情だ。いや、もうとっくに諦めて、考えないようにしていたのかもしれない。
そんなカラビアの表情を、ミドが悲しそうに見つめた。
「……マルサスさん達とは一緒に暮らせないかもしれないけど、俺やミドとだったら、一緒に暮らせるかもしれない。もしそうなったら、どうかな?」
これでハウラスから怒られたらどうしようかとも思ったが、その時はその時だ。気合いで説得するしかない。ここまで言ってしまったら、撤回など出来ないではないか。
覚悟を決めて、カラビアの返事を待つ。
すると、カラビアは眉根を寄せて俯いた。複雑な顔だ。悲しそうな、辛そうな顔だと思った。その表情から、何となく答えを察する。
「……それは、だめ、だと思う」
カラビアがそう呟き、ミドがこちらを見上げる気配がする。
「……どうしてだい?」
理由を聞いてみると、カラビアは自分の胸の前で両手を合わせ、指を絡み合わせた。
「……ぼ、僕は、呪われた子……だから、ここに、ずっと、いなくちゃ……」
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、
ページ下部の☆を押して評価をお願い致します!
作者の励みになります!




