【別視点】 ザガン族の驚き 25
【マルサス】
突如として、森に変な建物が建った。そんな話を聞き、調査隊として派遣されることとなった。ハウラスは父ではなく族長として、族長候補である我に村の外での活動を多く求めた。周辺の魔獣の調査や、森の外の状況の確認なども日々行っている。
だから、我らが理解できない建物であれば、まず人間の仕業だろうと察しがついていた。しかし、その場に辿り着いて驚愕することとなる。
「……なんだ、これは」
答えなど返ってくるはずがないと理解していたのに、思わずそう呟いてしまう。それに同行した若い者たちも首を左右に振るしかなかった。
それはそうだろう。数日前まで何もなかったはずの場所に、見上げるような巨大な建物が幾つも建っていたのだ。それも、まったく見たことのないような代物だ。まるで生きているように声を上げ続ける建物は不気味に感じられた。
「……マルサス。あそこに何者かがいる」
「何?」
ひと際大きな建築物の壁に触れていると、声を掛けられた。振り向き、指し示された方向を見る。すると、地面から体を覗かせる妙な者たちを発見した。間違いない。この建築物に関わる者だろう。
仲間を引き連れて川を飛び越え、謎の階段へと足を踏み入れた。
「……マルサス。邪悪な魔術師かもしれない」
「入って大丈夫か?」
背後からそんなことを言われたが、族長候補として、この調査を完遂せねばならない。それに、いくら言い伝えにある邪悪な魔術師であっても、即座に命を奪うようなことはしないだろう。そう思い、意を決して地下への階段を下りた。後ろから名前を呼ばれるが、それには答えなかった。
そうして出会った相手は、アンドー・ソータという人間と、ミドというダークエルフの少年だった。とても邪悪な魔術師には見えず、かといって、普通の者たちでもない。
ザガン一族だけではなく、森に住まう多くの種族の間で言い伝えられる『森の魔術師』や『森の賢者』と呼ばれる存在。森の魔術師の怒りを買えば、恐ろしい魔術や呪いで一族は滅ぼされることもあるが、反対に森の魔術師を味方にしたならば、恐るべき上位のドラゴンであっても退けることができるという。
もし、そんな存在であれば対応を間違えることはできない。口惜しいが、族長に判断してもらう必要があるだろう。そう思い、父を連れて戻った。
結果、鬼人族で最強とされるハウラスは、ソータという人間を同等の友と認める。まだ相手の力を確認することもなく、ザガン族の友として認めたのだ。
それは、ハーフダークエルフを庇い、ハウラスを言い負かしたソータの胆力によるものに他ならない。それを見て、自分自身もソータという人間に一目置くようになった。
村で肉を食べている様子を眺めてみたが、やはり言い伝えにある森の魔術師には見えなかった。だが、既にソータはザガン族の友である。森の魔術師であろうとなかろうと、ソータであれば我の願いを叶えることができるのではないか。そう思えた。
だから、丸太に座ったまま、ソータが次々に無から建物を生み出した時、度肝を抜かれた。
「な、なんということだ……」
地響きが聞こえ、足元に振動があった。音のした方向に顔を向けると、川の下流側で巨大な建築物が幾つか出現していた。そして、次に村の中だ。冗談のように、村の中に小さな枝のない木々が現れていく。何の前触れもなく、自分の背よりも少し高い鉄の木だ。
そんな鉄の木が広場を取り囲むように生えたと思ったら、その上部から光が降り注いだ。眩しい。陽の光のような明るい光だ。
日が暮れかけていた村の中が、夜の闇から逃れた瞬間だった。
「こ、これが、森の魔術師の奇跡、か……」
誰かが声を上げた。ハウラスだけは冷静に状況を見極めようと周りを見ていたが、それ以外の者たちは絶句するか、驚き、慌てふためているだけである。
混乱する頭をどうにか落ち着かせ、ソータを見る。
皆が驚き、動揺する中、ソータは楽しそうに妙な板を指で触り、儀式を続けていた。隣ではミドが嬉しそうにソータの横顔を見ている。
「後は、せっかくだから公園でも設置しようかな。そうすれば、水道と噴水、公衆トイレまで自動で設置されるし」
ソータは小さく何か呟き、再び板の上に指を置く。何かをしている。ソータには悪意は見えないから、問題はないだろうが、これ以上なにが起きるのか。
そう思って様子を窺っていると、当然広場の端に妙な建物が建った。あまり大きくはない。更に、その周辺に背の低い柵が現れる。柵で囲まれた範囲の中心では、白くて丸い建築物のようなものが出現し、そこから大量の水が吹き上がる。
「……こ、今度はなんだ?」
驚きの声が上がる。その言葉に、ソータがようやく顔を上げた。
「よし、完成! 村の中に五十本の街灯ができたし、噴水と水道、トイレが完備された! 夜は明るく村の中を照らしてくれるし、綺麗な水がいつでも飲めるようになりましたよー」
ソータはなんでもないことのように笑顔でそんなことを言い、村人たちは皆絶句して無数の光、溢れる水の柱を眺めたのだった。
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