住民 24
巨大な肉を見て、マルサスとハウラスへ視線を向ける。
「あのー、ナイフをもらっても良いですか?」
そう尋ねると、ハウラスが頷いてマルサスに視線を向けた。すると、マルサスは無言で腰から小さなナイフを取り出す。
いや、違う。マルサスが大き過ぎてナイフが小さく見えるのだ。受け取ったら、大型のサバイバルナイフくらいの大きさがあった。サイズ感に少し呆れつつ、ナイフをミドの持つ肉へと向ける。
「ミド。切り分けて食べよう」
「あ、ありがとうございます」
提案すると、ミドは物凄く嬉しそうに頷いて答えた。そうだろう。だって、自分でも噛み切れないと思っているのだから。
ささっとミドと自分の分の肉を切り分けてから、木の板でナイフの表面を軽くこそぎ、マルサスへと差し出す。
「ありがとうございましたー」
「……うむ」
お礼を言いつつ手渡すと、マルサスは少し目を細めて頷き、ナイフを受け取った。何故か薄く微笑んでいるように見えるが、なんじゃろか。
いや、今はマルサスの表情の変化は些末なこと。何よりも重要なことは、この肉に齧りつくことなのだ。
「それでは、いただきまーす」
「い、いただき、マス」
ミドと二人でそう口にしてから、手掴みで肉を食べる。厚みは一、二センチに切り分けたが、想像以上に柔らかくて美味しかった。これなら、塊の状態でも齧りつけたかもしれない。
「美味しい!」
「お、美味しいですぅ……っ」
感動の雄たけび。ミドにいたっては泣きそうな顔で肉を頬張っている。いや、もう泣いている。涙をポロポロ零しながら肉を食べるミドに、流石の鬼人族も目を瞬かせていた。
「……落ち着いて食べるんだよ、ミド」
「は、はいぃ……」
シクシク泣きながら肉を食べ続けるミドを横目に、自分も久しぶりの肉を堪能する。焼いただけに見えたが、しっかりと味付けがされていた。ちなみに、肉の塊から一部を切り取ったら、若い鬼人族が素手で断面をガシガシと握ったりこすったりしていた。恐らく、塩を塗り込んだのではないかとみている。
「美味いか」
ふと、ハウラスから声を掛けられた。
「とても美味しいです。久しぶりのお肉に感動しています」
笑顔でそう答えると、肉に齧りついた格好のままミドが何度も頷いていた。それを見て、ハウラスは目を細める。
「これは我々でも中々食べられない銀鱗猪の肉だ。堪能してくれ」
「おお、なんかすごそうな名前。赤い猪とは違うんですか?」
「赤猪か。あれは数も多く、丁度良い食料ではある。だが、味は銀鱗猪の方が遥かに良い」
などと述べた。おお、なんということだ。俺が必死になって逃げていた相手が、丁度良い食料だと?
今度、その食料を分けてください。
そんなことを考えていると、ハウラスが表情を引き締めてこちらに向き直った。
「……我がザガン族はソータを友とした。この歓待がその証となる」
「おお、ありがたや」
返事をすると、ハウラスが真剣な顔で頷く。
「うむ。それで、我らが村の闇に光を授けるという話はどうか。どれくらいでそれが可能になる」
そんな質問をされた。どうやら、約束通りに光をくれないかとのこと。それに頷き、タブレットを取り出した。
実は、肉を食べながらずっとタブレットを確認したくて仕方がなかったのだ。これ幸いとばかりにタブレットに映る画面をチェックしていく。
地図は予想通り、三倍以上大きくなっていた。黒で塗りつぶされた場所が殆どだが、それでもエリアは十分拡大されたとみるべきだろう。そして何より、ザガン族三百名が住民扱いとなった為、住民が百人を突破している。
最初の人口一定数突破ボーナスの為、たったの五百ポイントだ。しかし、今はそれでもありがたい。それに毎日もらえる通常ポイントも、人口五百人以下の二百ポイントに増えたはずである。
これで、今後はかなり楽に街作りができるようになるだろう。
「施設を新たに増やすより、省エネを意識して送電線延ばす方がCPの節約になるよね。水道管は……ちょっとシミュレートしてみようか」
ぶつぶつ呟きながら、タブレットの画面をタップして設備を選んでいく。地図上に施設や設備を置き、実行ボタンを押さなければCPが消費されることはない。この機能でシミュレーションしてみた。
送電塔と送電塔の間は最大で七百メートルなので、ここまでに四つ送電塔を建てれば良いだろう。川の反対側に等間隔に設置して、送電線を引いていくと、CPは三百ポイントほど使う。街灯の設置は僅か一ポイントだから、そちらは問題ない。問題なのは水道管だ。こちらは上下水道込みなので、ここまで引けば百五十ポイント必要になるようだ。
だが、電気と水が開通するだけで物凄く便利になる。住民扱いされているザガン族の為に、ここはCPの大盤振る舞いだ。いずれ、この送電線と水道管が活きてくることもあるだろう。
そう思い、これらの設備を建てることにした。ザガン族の皆、感謝したまえ。
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