鬼人族の村 23
マルサスに案内してもらいながら、川に沿って歩き続ける。鬱蒼とした木々の隙間からは怪物が何体も見受けられたが、マルサスがいると安心感が違った。なにしろ、軽自動車くらいの大きさの怪物なら一撃だ。
「あ、大きなワニ」
「始末しておこう」
「美味しいのかな?」
「美味いぞ」
それくらいの勢いで魔獣を狩り、後で取りに来ると言って放置するくらいだ。なるほど。これくらいになれば森でも暮らしていけるのか。なんて世界だ。
「……鬼人族って、本当に凄いんですね」
ミドも恐怖を通り越して唖然とした表情である。気が付けば、あんなに苦労した死の森の探索が三キロ近く完了してしまった。そして、川沿いに急に開けた空間が現れる。
丸太で組んだような趣のある家が並ぶ集落だ。そして、そこには冗談みたいに背の高い人々が歩き回っていた。何故かは知らないが、丸太を担いで歩く者が多い。恐らくだが、目に映る全ての人々が身長二メートル以上である。自分が小人なのかと錯覚してしまいそうになる。
「着いたぞ。ここが我らの村だ」
「おお、凄いね。この深い森の中に……」
「す、すごいです……」
マルサスの言葉に返事をしながら村の中を歩く。遠くからでは分からなかったが、近づくと家がかなり大きなことに気が付いた。二階建てみたいだが、入り口の扉の大きさを見る限り、平屋建てだ。信じられないけども。
「そ、ソータさん……」
村の中を歩いてると、ミドが服の裾を引っ張って名を呼んだ。何かごとかと振り返ると、ミドが周囲を見ながら怯えているではないか。誰だ、ミドを怯えさせているのは。
「……この村で来客は珍しい。皆、気になっているのだ」
と、こちらのやり取りを見ていたマルサスが呟く。その言葉に周りを確認すると、皆が俺とミドを見ていた。いや、ほとんどがミドを見ているようだ。
「なるほどね」
ぼんやりと返事をしつつ、ミドの手を引いて堂々と歩く。
「ミド。胸を張って歩こう。俺たちはザガン族と対等に取引をする立場だ」
「そ、そうですね……?」
若干不安そうにしつつ、ミドは言われた通りに胸を張って歩き出した。少し張り過ぎて鳩胸になっているが、それもご愛敬である。堂々としていることが大切だ。
マルサスに連れられて村の中を進むと、村の真ん中にある広場らしき場所に連れてこられた。中心には太めの木材で組まれた焚火台のようなものがあり、その周囲にはザガン族の男女が大きな丸太をどんどん並べている。
もしや、あそこで丸太に括りつけられて焼かれるのではあるまいな。
「そこに座って待っていろ」
「え? 火あぶり?」
「……何を言っているのか分からんが、族長を呼んでくる」
マルサスはそう言い残して、どこかへ歩いて行ってしまった。マルサスがいなくなると急に不安になるではないか。他にSPはいないのか。
そんなことを思いつつ、ミドと一緒に丸太の上に座る。身を寄せ合って静かにしていると、村の奥からマルサスが帰ってきた。その後ろにはハウラスの姿もある。
「良くぞ来た。歓迎しよう」
ハウラスはそう言いながら、すぐ近くの丸太の上にどっかりと腰を下ろした。同じように、近くの丸太の上にマルサスが腰かける。それを見て、なんとなくマルサスは村の権力者の一人なのかと思った。
「お招きいただき、感謝します」
「あ、ありがとうございます」
二人で挨拶をすると、ハウラスは頷き、周りを見る。
「客人は来た。火を点けよ。もてなしを始める」
ハウラスがそれだけ言うと、他の鬼人族達が一斉に集まり始める。何人かは手に松明を持っており、少し不安になったが、松明は焚火台へとくべられた。中に油でも仕込んでいたのか。焚火台の火は見る見る間に燃え盛り、大きな炎となって音を立てて燃えた。
その周りに、次々に肉の塊が運ばれてくる。晩餐の食材だろう。ただし、デカい。冗談のような大きさだ。多分、俺の身長ほどある。その肉の塊が槍かなにかに貫かれた状態で、火の周りに突き立てられた。
焚火台が大きいのもあるが、その周りに大きな肉が十個も並んでいる。徐々に肉の焼ける良い匂いがしてきて、否が応でも腹が鳴る。
「お、美味しそうです……」
ミドが涎を垂らして呟いた。
「ふふふ、ミド。紳士たるもの、食わねど高楊枝、だ。腹が減っていてもそれを悟らせてはいけない。毅然としているのだ」
格好をつけてそう言ったが、ミドは俺の口から溢れる涎を見て苦笑していた。ごめんて。
そんなやり取りをしている内に、肉は焼けた。何人かの若い男女が給仕を担当しているようで、肉の焼けた部分をナイフで切り取ってから、こちらに運んでくる。お祭りの屋台で見た気がするぞ。シュラスコだったか。
ただし、肉がデカい。切り分けても拳二つ分くらいある。ミドだと噛み切れないに違いない。手渡された木の板の上に乗った肉の塊を見て、俺はもう一度お腹を鳴らしたのだった。
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