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鬼人族の強さ 20

 何が起きたのかは分からないが、外は静かになった。


「そ、ソータさん……」


 後方で名を呼ぶ声がしたが、そちらに片手を振って待つように伝えた。


「ちょっと、様子を見てくる」


 それだけ言って、階段を恐る恐る登ってみる。すると、外は血の海だった。


「な、ななな、何事……?」


 パニックである。あの巨大な蜥蜴が首を切断され、胴も真っ二つになって転がっているのだ。


「蜥蜴が死んでる……」


 小さく呟きながら、何が蜥蜴を殺したのかと見回してみる。すると、すぐ目の前に二本の足があった。


「おや」


 間の抜けた声を出しつつ、顔を上げて視線を上に向ける。そこには、まるで壁のような大柄な男が立っていた。そう、マルサスである。


「……お前が、ソータ本人か」


「おお、その通りです。改めて、マルサスさん。どうも宜しくネ。いや、とっても早く帰ってこられたようで、ビックリしましたヨ」


 よし。冷静を装うことはできたはずだ。さぁ、静かに家に戻るぞ。視線を外してはいけない。


 そんなことを思いながら、後ろ向きに階段を一段ずつ降りていく。それを見下ろしながら、マルサスは口を開いた。


「どこへ行く? ちょうど良い。族長に会ってもらおう」


「え? 族長がここに?」


 わざわざ、こんなところに?


 そう思って顔を上げると、蜥蜴の死体の奥からマルサスと同じく巨躯の男女が歩いてくるではないか。それも、十五人はいる。


 肩幅があり、プロレスラーのような鬼人族の男が八人。そして、肩幅はそれほどではないが、明らかに力強そうな女子プロレスラーのような鬼人族の女が七人だ。どこの団体かな? WWE?


 その男女は真顔でこちらに向かって歩いてくる。めっちゃ怖い。もしかして、あの一人一人がこの大蜥蜴より強いのか?


 そんなことを思っている間に、十五人はマルサスの後ろに並んだ。そして、一人の髭を生やした男がマルサスの隣に立つ。そして、しゃがれた低い声で声をかけてきた。


「……お前が、森の魔術師か」


「え?」


 再び、良く分からない言葉を言われた。森に引き籠った魔術師とでも思われているのか。えぇい、引き籠れるなら引き籠りたいわい。


「族長。魔術師の名はアンドー・ソータだ」


「……うむ。ソータが家名か。見る限り人間だ。貴族ではないのか」


 と、族長と呼ばれた男が口にした。どうやら、マルサスよりも人間の国に詳しいらしい。流石は族長。


「自分は国に属していないので、別に貴族というわけではないですよ」


 そう告げると、族長は腕を組んで唸った。


「なるほど……マルサスより話は聞いている。我らに夜の闇を打ち消す光をくれるそうだな。それが本当であれば、我らがザガン族の地に住まう許可を与える。また、食料を分けることも約束する。ザガン族の族長、ハウラスの名を連ねる盟約だ」


 と、ザガン族の族長、ハウラスが宣言した。その言葉に、マルサスも顎を引いて目を細める。どうやら、人間でいうところの公文書での契約に近いもののようだ。だから、わざわざ大勢できたのかな?


 そう思っていると、マルサスの後ろから一人の女が現れた。その背には何か大きな革袋のようなものが背負われている。


「……受けとれ」


 そう言って、女は地面に革袋を下ろし、荷物を広げてみせた。


 現れたのは巨大な肉の塊や果物、山菜などだ。あ、魚まである。


「おお! 食料が!」


 これまでの警戒心もなんのその。不安や恐怖よりも食欲が勝ってしまった。


 こちらが喜んでいると分かったのか、マルサスは鼻を鳴らして笑う。


「……これくらいで良いのであれば、毎日持ってくるとしよう」


「いやいや、これを毎日は食べきれないから、週に一回とかでも大丈夫かな」


 肉や魚をチェックしつつ、苦笑交じりにそう言った。早く調理して食べたい。あ、塩だ。塩がない。


「塩とかってあります?」


「む? 塩ならある。それも持ってくるとしよう」


「助かります!」


 急に生活が豊かになった。もう小躍りしたいくらい嬉しい。なんだよ。鬼人族って優しいじゃん。ニコニコで鬼人族の皆さまを見上げていると、ハウラスが真剣な顔で口を開いた。


「……森の魔術師よ。食料や土地ならば献上しよう。他にも、我らの力が必要ならば手助けする。その見返りとして、ドラゴンと戦うことができるマジックアイテムをくれないだろうか」


 と、ハウラスは変なことを言い出す。もしかして、近くにはドラゴンがいて、ザガン族は困っているのだろうか。


 しかし、ドラゴンを倒せる道具なんて持っていない。


「……ドラゴンを倒す武器は、ちょっと難しいかもしれません」


 そう告げると、ハウラスたちは残念そうに肩を落とした。


「……そうか。いや、仕方がない」


 物凄く残念そうだ。その様子を見て、何となく申し訳ない気持ちになった。


「えっと、倒すんじゃなくて、撃退でも大丈夫、ですか?」


 申し訳ない気持ちになったせいで、思わずそんな質問をしてしまう。




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