鬼人族との交流 19
とりあえず、話はよく分からないが、会話は可能だと言うことが分かった。ならば、交渉だ。
「えっと、マルサスさん、で良いですか?」
「うむ」
返事があり、ホッとしつつ会話を続ける。
「もし、この地に住むことを許可してくれるなら、便利な設備を建てて上げることができるかもしれません。どうでしょう?」
「……便利な設備とは、なんだ」
「電気といって、夜でも昼間のように生活できるようなものもありますが、どうでしょう?」
マルサスの質問に最も簡単な設備で答えると、マルサスは眉根を寄せて顎を引いた。
「……それは、魔獣を退けることができるものか?」
「試してないけど、一部の魔獣は寄ってこない、かも?」
マルサスの疑問に上手く答えることはできなかったが、とりあえず反応は良さそうである。しばらく考える素振りを見せていたが、マルサスは顔を上げて首を左右に振った。
「……我には決めることができない。一度、村に戻って族長に聞いてみるとしよう」
「おお、ありがとうございます」
意外と前向きな返事だ。これは有難い。もし交渉失敗になったとしても、平和的に解決できそうな気がした。
「確認しておくが」
「はい?」
と、ディスプレイに映し出されたマルサスが顔を上げて呟き、首を傾げて返事をする。
「今、外にある巨大な建物は、危険なものではないのか」
「あ、それは大丈夫ですよ。単純に、この家を維持する為の設備なので、何も危険なものはありません」
そう告げると、マルサスは僅かに目を見開いた。
「……あれが、この地下を維持するための……? やはり、森の魔術師か……」
マルサスは小さくそう呟くと、背を向けて別れの言葉を口にする。
「分かった。また後で来るとしよう。そこで待っていろ」
マルサスはそう言うと、立ち去ろうと歩き出した。その背中に慌てて声を掛ける。
「あ! ちょっと待って!」
「……なんだ?」
呼び止めると、マルサスは目を細めて横顔をこちらに向けた。
「できたら、食料などを分けてもらえると助かるんですが……」
「……分かった。それも族長に話しておこう」
「ありがとうございます!」
ついでにお願いしてみたが、有難いことに了承してもらえた。まぁ、持ってくるのは魔獣の肉かもしれないが、それでも嬉しい。栄養が偏っているのだ。生命維持の為にも重要である。
それから数分。マルサスが立ち去ってから、それなりの時間が経ってから外へと出てみた。
「い、いますか?」
「……大丈夫そうだ」
そんなやり取りをして、二人で階段を上る。周りを見てみると、設備も壊されてはいないようだった。もちろん、CPもあまり増えてないので、特に何かを作るのは難しい。
「あー、本当なら他にも色々建てたかったのにな! あのおじいさんめ! ゲーム通りにCPが稼げるようにしろっていう話だよね!? ミド!?」
「あ、はは、はい……っ! そ、そうですよね!?」
色々と鬱憤が溜まっていたので、大声を出して不満を述べる。ミドは驚きつつも話を合わせてくれた。怖がらせてしまったので、頭を撫でておく。
「わひゃ」
声をあげつつも、ミドはじっと頭を撫でられていた。犬みたいで可愛い。
「う~ん……本当なら、せっかく川の傍だから港を作りたいよね。ゲームなら港を二つ作って、住民の数がいれば船が自動で行き来してたけど、この世界ではどうなるのか気になるし」
「な、なにを言っているのか分からないです……」
頭を撫でられながらミドがそんなことを言った。それに返事をしようとした時、ミドが息を呑んで姿勢を低くする。
「ど、どうした?」
「あ、あれは、黒大蜥蜴……!」
「え?」
ミドの言葉に、周りを軽く見回した。そして、木々の隙間で動く存在に気が付く。黒い影のような化け物だ。その大きさは十メートルを超える。だが、猪ほどの俊敏さは感じられなかった。
激しく木々を前足を使ってへし折り、黒い影が森から出てきた。巨大な大蜥蜴だ。表面には黒い鱗のようなものがあり、口を開けばあの鬼人族ですら一口で呑み込めそうなほど大きい。口からは真っ赤な長い舌が出ていた。
「と、とりあえず、家に戻ろうか」
そう告げると、ミドは何度も頷く。なんとなく顔を見合わせてから、すぐに家に向かって走り、二人で地下室への階段を駆け下りる。
その動きに刺激されたのか。大蜥蜴も走り出したようだ。後方から迫ってくる激しい足音と地響きがその速度を感じさせた。
「本当に! なんて森なんだ!」
「は、はい……! 恐ろしいです!」
二人で文句を言いながら、壁の黒い板を手で触れて扉を開いた。ミドを一番に扉の奥へ押し込み、すぐに後に続こうとする。
その時、後方で激しい雄たけびが聞こえてきた。その雄たけび、恐らく大蜥蜴のものだ。
「なに!? なんなの!? もしかして、もっと大きな魔獣でも出た!?」
扉の前で立ち止まり、振り返りながら叫ぶ。
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