何者 17
次の日の朝。ベッドで目覚め、両手を上に挙げて体を伸ばしながら呻く。体が痛い。
昨日は結局、果物を食べてから他にも何かないかと周辺をうろついた。そして、巨大なワニのようなものが森の中にいるのを見て、全力で逃げ帰った。それだけのことで、数か所の筋肉が悲鳴をあげている。
まだ少し眠いが、目が覚めてしまったなら仕方がない。そう思って体を起こし、隣を見た。すると、ミドが布団にくるまって寝ているではないか。
「……よしよし」
昨日は不安そうにベッドで横になっていたが、ちゃんと寝てくれたらしい。良かった。
「少しずつ、慣れてくれれば良いか」
起こさないように小さくそう呟き、寝室から出て風呂場の方へ行く。風呂場とトイレの間に洗面台があるのだ。鏡を見ると、寝癖が爆発して星型みたいになった頭の男が立っていた。そう、俺だ。
「……仕方あるまい」
そう言って、頭から水をかぶってからタオルで水気を拭き取り、文明の利器、ドライヤーを使って毛髪を乾かす。あー、乾く乾く。
その時、何故か少し慌てた雰囲気でミドが走ってきた。
「な、何事ですか……!?」
現れたのは髪が爆発したミドだった。頭が星型みたいになっている。
「おお、ミド。髪が爆発してるではないか。さぁ、こちらに来るが良い」
「え? あ、は、はい……っ」
手招きをして呼ぶと、寝ぼけた顔でミドが小走りに走ってきた。近くにきたミドの肩を掴み、洗面台の前に立たせる。
「さぁ、下を向いて頭を前に突き出すのじゃ」
「は、はい」
言われた通りに素直に頭を前に出すミド。その頭に少し温いお湯をかけてみる。
「ひゃあっ」
驚くミドの頭を容赦なく濡らし、次にタオルでわしゃわしゃと水気を拭き取った。そして、ドライヤーで整髪をしつつ乾かしていく。
「おりゃおりゃおりゃ」
「な、なんですか? なんですか、これは?」
混乱するミドだったが、危険ではないと理解はしているようだ。逃げずに、されるがままで待っている。
よし、完成だ。
「ほい、できた。これは髪を乾かす道具だよ」
そう言ってミドに顔を上げさせ、鏡を見せた。美少年を超えて美少女みたいになっているミドが映っている。ちなみに隣にはいたって普通の日本人が映っている。そう、俺だ。
寝癖が綺麗に直ったと自己満足していると、ミドが目を見開いて驚いているではないか。素晴らしい整髪能力に驚いたか。
「す、すごい……こんなに凄い鏡は初めて見ました……」
「え?」
驚いているのは鏡に対してだったようだ。なんでやねん。
不思議に思っていると、ミドが少し興奮した様子で鏡を指差し、こちらを見上げた。
「その、ご主人様が商人だったので、一度だけ鏡は見たことがあったのですが、こんなに綺麗に映ってはいなくて……」
「なるほどー。困ったらこの鏡を売るか」
ミドの言葉に感心し、鏡に視線を移す。幅一メートル。高さ一メートルほどの大きめの鏡だ。売れたら高いかな?
「それじゃ、朝食をゲットしに行こう」
「あ、は、はい」
気持ちを切り替えて今日の食料を手に入れに行こうと提案する。なにせ、今はお金よりも食べ物だ。本気でカレーライスが食べたい。今ならお弁当でも一万円払う自信がある。まぁ、今あるのはCPだけだけどね。タブレットを確認したところ、今は二百六十五になっていた。全然増えないではないか。
ミドと一緒に慎重に外へ出てみると、昨日とは違う光景があった。
そう。川の向こう側に設置した風力発電設備だ。その根元、大きな金属製の柱の部分に、大きな人影が幾つもあったのだ。ミドと似た白髪だ。しかし、頭の上から一本か二本の角が生えている。そして、なによりもデカい。バスケット選手のような背の高さに加え、身体の厚みも半端ない。筋骨隆々のプロレスラーがそのまま身長二メートル五十センチに成長したような見た目である。
「な、なにあれ……!?」
「あれは、鬼人族……? とても珍しい種族で、私も噂で聞いたことしかなくて……」
ミドも驚いて鬼人族とやらを見ている。それだけ珍しい種族ということだろう。その鬼人族が、五人か。五人で風力発電設備を珍しそうに見上げ、手で表面を叩いたりしている。毛皮を張り合わせたみたいな服装だが、そのせいで余計に怖く見える。
「……それで、その鬼人族ってどんな感じの人たちかな?」
そう尋ねると、ミドが真剣な顔で頷いた。
「は、はい……噂ですが、人間を殺して食べることもあるらしく、半魔獣なんて呼び方をされることもあります。一人で十人の騎士を相手にできるくらい強い、という……」
ミドが鬼人族について解説をしてくれている中、ふと、風力発電設備を見ていた鬼人族の一人がこちらを見た。
「あ」
目が合う。吊り上がった目だ。そして、瞳は小さい。正面から見ると口から牙まで出ているではないか。恐ろしい。
そう思った次の瞬間、こちらを見た鬼人族が口を開き、残りの四人が同時に振り返った。
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