実食! 16
「さぁ、始まりました。森の中クッキング! 今日の食材はこちら!」
「は、はい」
台所でテンションを上げて調理を始めようとすると、ミドは慌てて背筋を伸ばし、良い返事をした。
「今日の食材はこちら! 良く分からない果物!」
「あ、多分、メレルって果物……」
「メレルです!」
助手からの良いアシストがあったので、即採用する。
「えー、メレルは見た目はドラゴンフルーツみたいですよね。味はどうなんでしょうか?」
「え? ど、ドラゴン……? 味は、甘酸っぱくて美味しいと思います」
「おお! それは期待値が高いですね。それでは、まずは真っ二つ!」
助手の言葉に返事をしつつ、アイランドキッチンの棚に仕舞われていた包丁で真っ二つに叩き割った。いや、硬くて簡単には切れなかったんだよね。薪を割る要領で、包丁の根元を食い込ませてからメレルを持ち上げ、まな板に叩きつける形で切断することができたのだ。
割れた果物を見て、片方をミドに、そしてもう片方を自分が手にした。
「え? あ、あの……」
「調理完了! 実食!」
そう言って自分の分の果物を顔に近付け、そのまま齧りつく。端っこが地面に落ちた衝撃で割れていたので、ある意味食べやすい形になっていた。
口に含んだ瞬間、瑞々しい食感と果汁が溢れ、口の中で広がる。酸味が少し強いが、しっかりと甘さもあった。グレープフルーツに近いだろうか。これがメレルか。とりあえず、久しぶりの食事なのでそれだけでも物凄く美味しい。
「美味しい! これは予想外!」
これは箸が止まりませんな。箸持ってないけど。
そんなことを思いながら隣を見ると、困ったような顔でこちらを見上げるミドがいた。
「あれ? 食べないの? もしかして、嫌いだった?」
心配になって尋ねると、ミドは首を左右振る。
「いえ、その、私はいつ食べたら良いのかと思って……」
「ん? 一緒に食べようよ」
何を言っているのかと思ったが、ミドは本気で困惑しているようだった。なるほど。奴隷というのは主人が食べた後に食べると決まっているのだろうか。しかし、俺はミドの主人ではない。
「ミドは今は奴隷じゃないんだから、別に一緒に食べて良いと思うよ。むしろ、一人で食べてるところを見られているのも落ち着かないから、一緒に食べよう」
それだけ言って、ようやくミドは決心したようだった。
「わ、分かりました」
テーブルに向かったまま顎を引き、強く頷いて手に持った果物を口に運ぶ。そして、ようやく手にした果物を一口だけ食べた。
「……美味しい、です」
食べて、少し泣きそうな顔になりながら感想を述べ、何故か果物をテーブルに置いた。それを見て、どうしたのかと首を傾げる。
「あれ? もう食べないの? あ、スプーンあげようか?」
聞いてみると、ミドは眉根を寄せてこちらを見た。
「あ、ま、まだ食べて良いですか?」
嬉しそうに口にしたその言葉に、ミドが何を思っていたのかを理解する。そして、悲しい気持ちになった。
「いや、それ全部ミドが食べて良いよ。半分こしただけだからね」
「え?」
本気で驚くミド。その様子に苦笑しつつ、片手でミドの頭を撫でた。見た目通り、サラサラで柔らかい髪の毛だ。その感触を感じつつ、ミドの目を見て、できるだけ優しく話しかけた。
「……ミド。俺はミドのことを奴隷だなんて思ってないよ。なんなら、命の恩人だと思ってるくらいだから、気にせず友達だと思って振舞ってほしい。二人で食料を得たのなら半分ずつに分けて一緒に食べよう。同じようにベッドを使って寝るし、お風呂も好きに入って良いんだから」
そう告げると、ミドは良く分からないといった顔になり、両手に持った果物に視線を落とした。
「……た、食べて良いんですか?」
「大丈夫だよ」
再度確認されたので、もう一度同意してみる。すると、ミドは嬉しそうな顔で笑い、メレルを勢いよく食べ始めた。今は、自分の立場がどうとかではなく、空腹に意識が向いているようだ。
その様子を横目に、同じように並んで自分の分のメレルを食べる。
確かに美味しいけれど、どこか悲しい味がした。いつか、ミドに好きなだけ美味しい食べ物を食べさせてあげたい。そして、ミド自身にも気にせずに、我が儘を言ってもらいたい。
横で嬉しそうにメレルを食べるミドを眺めつつ、そんなことを思うのだった。
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