新しい生活 14
なんだかんだでミドも大丈夫だったので、改めて新居で休むことができた。
まず、風呂に入れたことが物凄く嬉しい。ギトギトだった髪もサラサラになり、汗でベトベトだった肌も剥いたばかりのゆで卵のようになった。いや、少し言い過ぎだったかもしれないが、それぐらいスッキリしたのだ。
結局、着る服は汚れたものになってしまうのは悲しいが、洗濯機があったので一度裸族になれば綺麗な服が手に入る算段である。もう少しの辛抱だ。
そして、もう一つの嬉しいことはベッドで安心して眠れることだ。こんな素晴らしいことがあるだろうか。普段の生活ではそこまでの喜びを感じることはなかったが、この世界に来てからは神に感謝するほど嬉しい。
厚みのあるマットレスは高級なホテルのベッドくらい素晴らしい寝心地だ。おお、身体が寝具に包まれている。
なんて幸せなんだ……ぐぅ……。
目を覚ますと、驚くほど爽快な気分だった。両手を伸ばして背中を逸らし、上半身だけの簡単なストレッチをする。
そして、ミドは良く寝れたかなと隣のベッドの方を見た。しかし、ミドはいなかった。
「あれ? ミド?」
驚いて名前を呼ぶと、すぐに声がした。
「は、はい……っ」
だが、姿は見えない。どこにいるのかと思ったら、部屋の奥にあるクローゼットの中からミドが顔を出しているではないか。
「な、なんでそんなとこに?」
聞いてみると、ミドは不安そうに眉尻を下げた。
「あ、いえ……そ、その、そんな立派なところで寝たことが、な、なくて……ごめんなさい……」
怒られるとでも思ったのか。ミドはそう言ってクローゼットから出てきた。
「大丈夫だから、今度はベッドで寝てね」
そう言って笑うと、ミドは申し訳なさそうに頷く。その様子を見てから、ベッドから降りて部屋の外を指差した。
「それじゃ、今日は頑張って食べ物を手にいれようね。どうにかして肉が食べたいけど、難しいだろうなぁ」
「あ、は、はい! お手伝いします……!」
ミドは背筋を伸ばして返事をし、慌てて付いてきた。こちらに向かって走ってくるミドを見て、昨日からの変化に改めて気が付く。
「おお! なんか、お風呂に入って更に綺麗になったねぇ。本当、絵にかいたような美少年に……」
「あ、ありがとうございます……」
何故かは分からないが、ミドは褒めると物凄く照れてしまう。
「と、とりあえず、外へ行ってみようか。あの化け物猪とかがいないと良いけどね」
「あ、は、はい」
気を取り直して、二人で笑い合いながら外へと向かった。地下室の出入り口である黒い扉を開き、階段を上った。階段の半分くらいの壁の部分に黒い板を発見したので、手で触れてみた。すると、予想通り階段の上部の扉がスライドして外の光が降り注ぐ。ちょっと眩しい。
目を細めつつ、階段を上って顔を出し、周囲を見てみた。意外にも大丈夫そうである。
「……よし、危険は無し」
そう言って、外に出た。地上は今日も天気が良く、さわやかな風が吹いていた。あのおじいさんの言う通りなのは癪だが、確かに空気が澄んでいて気持ちが良い。
「あ、良かった……川はよく、大きな魔獣がいるので……」
「やっぱ水辺だからかなぁ」
二人でそんなやり取りをして外の観察をしてみる。ふと、昨日建てたばかりの取水施設と風力発電設備が目に入った。風車はしっかり回っていて発電には問題ないが、よく魔獣に壊されなかったものである。流石にあれだけ大きな金属製の物には近づかないのだろうか。
そんなことを思いながら見上げていると、回っている風車に向かって何かが向かって行くのが見えた。黒い影だ。多分百メートル以上離れているので正確ではないが、牛くらいのサイズはありそうである。翼も大きいが、間違いなく鳥ではない。その物体が、風車に向かって飛んでいき、ぐるんぐるん回っている羽へと接近した。そして、バチンと弾かれて違う方向へ飛んでいく。
え? 壊れないの?
そう思ってタブレットを取り出して画面に触れてみた。すると、画面に表示されているCPの横に赤字でマイナス五という数字が表れていた。
「……なるほど。災害扱いになるのか」
その表示を見て、何となくルールが分かってきた。COCでは災害というものが存在する。日本でもお馴染みだが、台風や地震、雷などである。他にも火事や噴火、水害といったものもあった。その際、本当に壊滅的な被害があった場合、施設や設備を建て直すか、それとも完全に撤去してしまうかという選択肢が現れる。それを決定するまではCPが減らない代わりに廃墟が残るという仕様だ。
ただ、一般的には補修されることとなり、CPに余裕があれば勝手に消費されて修理されることとなる。まぁ、住居エリアや工場エリア、産業エリアなどを区分けして、住民が自分たちで建てた建物などは管轄外ではあるが、公共施設や自分で建てようと思って建てた巨大な工場、テーマパーク、球技場などといった場所に関しては全てこちらのCPを使っての補修となる。
つまり、今建てている取水施設や排水処理施設、そして風力発電設備なども、完全に破壊されるほどのダメージを受けた場合、新たに作り直しになる可能性があるのだ。
「……災害対策ならやったことあるけど、凶暴な巨大生物対策ってどうするんだろうな」
そう呟き、画面に表示される残り僅かなCPを眺めるのだった。
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