風呂で死にかける 13
「……遅い」
リビングで椅子に座り、テーブルの上に肘をついた状態で呟く。
見た感じ、初めての入浴だ。色々と戸惑うだろうし、手桶とか石鹸とかも置いてなかったから、身体を洗うのも時間がかかるかもしれない。
とはいえ、それにしても遅い。
ゴッドタブレットを確認して、画面右上にある日時をチェックする。うん、もう二十分は入っているだろうか。
「……ちょっと様子を見にいこうかな。心配だから」
誰がいるわけでもないのに、少し大きめの声で言い訳をしつつ風呂場へと向かう。いや、だって、何か手違いがあったら負けるのは男側なのだ。ここは慎重にならざるを得ない。電車に乗る時は万歳して乗るタイプなのだ。
そんなことを思いながら慎重に風呂場に行き、声を掛けてみた。
「ミドー? 大丈夫ー?」
少し大きめの声で安否を確かめてみる。すると、浴槽の方から小さな声がした。おお、大丈夫なのか。ならば良し。即座に退室だ。
そう思って踵を返したが、すぐに違和感に気が付く。返事というより、呻き声に近かったのではないか。
「……ミド? 大丈夫なんだよね?」
もう一度声を掛けてみた。しかし、今度は返事はなかった。
「ご、ごめん! 入るよ!?」
慌てて扉を全開にし、浴槽を確認する。なんと、ミドが上半身を浴槽の縁に投げ出すようにして倒れていた。
「だ、だ、大丈夫!?」
風呂場の床で転びそうになりながら駆け寄り、動かなくなったミドの肩を掴む。顔を確認するが、目は閉じられたままでピクリとも動かなかった。
「ご、ごめんね! 後で土下座するから!」
先に謝っておき、ミドの体を掴んで浴槽の外へと引っ張り出す。そのまま体を見ないようにしつつ、寝室まで無理やり運んだ。背は百三十センチくらいはありそうなのに、物凄く軽かった。その軽さが、より不安にさせる。
ベッドに寝かせて、ミドが脱いだ服を取りに行き、出来るだけ見ないように体の上にかける。
「そうだ、水! 水を持ってこないと!」
ようやくそこに思い至り、慌てて台所へ走った。食器棚を確認すると、有難いことに食器はびっしりと並んでいる。どこか百円均一の店に並んでそうなラインナップだったが、それはこの際どうでも良い。
ガラスのコップに水を汲み、ミドの下へ戻った。
「ミド、水飲める? あ、氷! 氷で冷やした方が良いかも!?」
バタバタである。ベッドの頭の部分にはベッドボードが付いていたので、そこに水を置いて氷を取りに戻ろうとした。まだ確認してないが、大きな冷蔵庫だったから製氷もされているのではないかと思ったのだ。
その時、部屋から出ようとすると、後ろから声がした。
「そ、ソータ、さん……」
「え?」
驚いて振り返ると、ミドが手を動かしているではないか。おお、良かった。意識はあるのか。
「大丈夫? 水を飲めたら……」
言いながら近づいていると、ミドが不意に顔を上げて上半身を起こした。かけていた布が落ちる。
「あ、ごめん! 見てないからね! ノーセクハラ!」
慌てて視線を逸らし、言い訳をしておく。だが、それにミドが首を傾げる気配がした。
「あ、だ、大丈夫、です……もしかして、私を女と勘違いしていませんか……?」
と、良く分からない言葉が聞こえた。
「え?」
驚いて、思わず振り返ってしまう。ベッドの上には腰から下だけ布で隠したミドが座っているが、その状態で見ても男か女か判別がつかない。しかし、物凄く美少年だと思えば納得ではある。
「すごい綺麗だから女の子かと思ってたんだけど」
そう言うと、何故か照れて頬を赤くするミド。頬を紅潮させてモジモジしている様子は完全に美少女である。ちょっと可愛いスカート姿にしたらヤバめのファンがつきそうだ。
「なんだ、男の子だったのか。なら一緒にお風呂入れば良かった」
「……え?」
別に順番など気にせず一緒に入浴できたのか。何故かミドは驚愕したような表情で身を固くした。変な誤解を受けている気がする。
「いやいや、他意はないから! 単純に、一緒にお風呂入ってれば一回で済むし、ミドが倒れることもなかったと思って……」
「あ、ご、ごめんなさい……」
慌てて言い訳をしただけなのだが、ミドは肩を落として謝罪をした。困った。凹ませるつもりもなかったのだが、どうにも難しい。
「……あ、そうだ! せっかくだから、どうにかして食べ物を確保しよう! せっかく設備を作れるようになったんだから、何か良い方法がないか調べてみるよ」
そう言って笑いかけると、ミドはホッとしたように微笑んだ。
「あ、はい……っ、ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むミドは、やはり女の子みたいだった。成長したら物凄い美青年になるのだろうか。ちょっと想像がつかない。
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