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【別視点】 ミドの驚き 12

【ミド】


 不思議な人だとは思った。私がダークエルフだと気がついても笑顔で接してくれて、ハーフダークエルフだと告白しても、態度は変わらなかった。


 普通だったら、私のことは奴隷として扱うだろう。そもそも逃亡した奴隷なんて酷い扱いを受けるのが普通なのだから、ソータは変な人だと思った。もしかしたら、ソータも逃げ出した奴隷なんじゃないかと思ったけど、態度や話し方を見て違うと分かった。


 奴隷を何年もした人は、あんなに人の目を見て話すことはできない。どこまでも前向きで、自信を持ち、自分で何をするか決めて行動できる。奴隷だった人にはできないことだ。


 むしろ、薄汚れてはいても上質な衣服を身に着けているし、肌は日焼けもしていない。気になって手を見てみたが、傷跡一つなかった。一般的な労働をしたことがない人の手だと感じた。そこまで考えた時、もしかしたらソータは貴族なのかもしれないと思った。そう思った瞬間、またソータが少し怖くなる。


 奴隷を二、三人持っている商人でも、奴隷は消耗品で死んだら新しい奴隷を買えば良いと思っている。貴族からすれば、奴隷なんて目にも入らない存在なのではないだろうか。


 一瞬だけそう思ったが、ソータはずっと優しくて穏やかだった。変な人だとは思ったけれど、それでも私のことを同じ人間だと言ってくれたのだ。


 信じてみたいと思った。だから、見たこともないマジックアイテムで次々と信じられないような建物を作り出しても、逃げたりはしなかった。指先や膝は震えていたかもしれないけど、楽しそうにマジックアイテムを触るソータの横顔を見て、ジッと耐えていた。


 大丈夫。怖いけど、ソータは良い人だから。


 ずっと念じるように頭の中で唱え続け、森の景色が変わっていく様子を見ていた。


 でも、最後にソータが地下へと続くくらい階段を作り、一緒に行こうと口にした時、背筋が震えてしまった。


 この国の住民ならば、子供でも知っている昔話がある。『悪い魔法使い』という話だ。暗い森の中に住まう悪い魔法使いは、森に迷い込んだ人々を騙し、暗い塔の地下牢に閉じ込めてしまう。捕まってしまった人々は、酷い拷問を受け、深い絶望を味わった後に悪魔への生贄にされてしまうという話だ。


 暗い階段の下に連れて行こうとするソータを見て、思わず悪い魔法使いの影が見えた気がした。でも、ソータはこちらの怯える気持ちを察したかのように、力強い笑みを浮かべて振り向く。


「俺を信じてくれ」


 真っすぐに私の目を見て、ソータはそう口にした。


 信じたい。いや、ソータを信じると、自分で決めたのだ。だから、私は大きく頷いて足を前へと踏み出した。


「は、はい!」


 返事をして、どんどん地下へと降りていく。すると、また不思議な扉が現れ、ソータが触れると天井へ吸い込まれるように消えた。奥は明るくて、テーブルがあるように見える。


「おお、中々良いじゃないか」


 ソータは嬉しそうに何か言いながら中を見て回っていた。


 何が起きたのかも分からない。ただ、地下にある筈のこの部屋は、昼間のように明るくて、綺麗だった。人間が作ったのだとは思えないような凹凸一つない壁や天井。簡素だけど、信じられないほど均整がとれたテーブルや椅子。床にはふわふわの毛皮の絨毯まで敷かれている。


 人智を超えた、悪い魔法使いの住処。もしかしたらダンジョンかもしれない。


 また同じような不安を感じたが、嬉しそうに部屋を見て回るソータは、やはり悪人には見えなかった。


「お風呂に入ろう」


 混乱した頭でグルグルと色々なことを考えながら固まっていると、そんなことを言われた気がした。おふろ? まさか、入浴だろうか。そんなもの、商会を経営する大商人か貴族くらいでないとできないような贅沢だ。夢ではないかと尋ねたが、ソータは困ったように笑った。


「夢なら良い夢でしょ? ほら、せっかくだから風呂に入ってみなよ。さっぱりするよ」


 そう言って、ソータは有無を言わさず私を奥の部屋へと連れて行く。すると、また見たこともない部屋へと辿り着いた。ここが入浴の場所なのだろうか。そう思っていると、右側に白い壁があった。ソータがその壁に触れると、白い湯気が溢れ出してくる。一瞬身構えたけど、奥では大量の水が流れ出ている音がした。


「おお、もう溜まってる。早いな」


 ソータは上機嫌に湯気の中に入っていき、こちらに振り返った。


「ほら、そこで服を脱いで、こっちのお湯を使って髪や体を洗うんだ。そして、浴槽にゆったり浸かる。分かった? それじゃあ、何か分からなかったらまた呼んでね」


 ソータは身振り手振りを交えながら使い方を教え、部屋から出て行った。一人残された私は、もう何も考えられなかった。本当に、夢の中のようだ。ふわふわした頭で、言われた通りに服を脱ぎ、奥へと行ってみる。先ほどから流れていた水は止まっていた。大きな桶に溜まっている水に触ると、温かくて驚く。


 もしかして、これがお湯ではないだろうか。いや、話には聞いていたはずなのに、頭がついてこない。


 そっと両手でお湯をすくって、頭から濡らしてみる。こんなに沢山あるんだから、もっと使っても良いだろうか。そう思って、おもいきりバチャバチャとお湯をかぶって頭と体を洗った。


 そして、桶の中に足先から入ってみる。ふわりと体が包み込まれるような感覚。温かくて、心がじんわりとする。


「……う、うぅ……っ」


 これが入浴なのかは分からない。やっぱり、夢の中なのかもしれない。


 それでも、涙が出るほど気持ちが良くて、嬉しかった。心まで温かくなって、本当に自分が人間になれたのではないかと思えたから。




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